安定した作物生産や無駄な施肥を控えるためには適切な時期に土壌診断を行い、土壌の養分状態をしっかり把握することが重要です。
土壌診断の処方箋の見方
土壌分析の診断項目は分析機関によって若干異なりますが、茨城県の基本的な分析項目はpH、ECおよび、乾土100gあたりの石灰、苦土、カリ、リン酸mg数です。(図)。
それぞれの項目について改善基準値が決められており、水田や畑、施設栽培、果樹園などの地目や土壌の種類によって基準値は異なります。養分が改善基準値の下限より不足している場合は土壌改良資材で補い、上限を超えている場合はリン酸、カリなどを基肥から減肥します。
●基本的で重要な「pH」と「EC」
pHとECは、土壌化学性の診断項目で最も基本的で重要な項目で、作物はそれぞれ最適なpHがあり、多くの作物はpHが5.5~6.0程度が基準値となっています。また、ECは石灰、苦土、カリなどの塩基類や土壌粒子に吸着しない硝酸態窒素も含めた養分がどの程度土壌に残っているかの指標となります。
pHの値で塩基類の量がある程度想定でき、pHが適正範囲にある場合、土壌の粒子に吸着されている塩基類の総量は適正となります。一般的な土壌は、吸着できる量の60~80%の塩基類があると適切なpHとなり、それよりも多いとpHは高くアルカリ側に傾き、少ないとpHが低く酸性側になります。日本は降雨量が多く、露地の土壌では石灰などの塩基類が流されやすいため、土壌のpHは徐々に低くなり酸性化していきます。
一方で、施設栽培の土壌では追肥を多く必要とする品目が多いことに加え、一定量潅水していても、土壌表面の乾燥により土壌水分が上方へ移動するため、水に溶けた塩基類や硝酸などが土壌表層に集積しやすい環境となっています。これらの集積が進みECが高くなり過ぎると、作物の根は養水分が吸収できなくなります。また、施設土壌では塩基類が十分量あってもpHが低くなっている場合があります。これは、酸性成分である硝酸態窒素が過剰に存在し、pHを下げている可能性があるため、作付け中に作物が硝酸態窒素を吸収することで、pHが上昇することも考えられます。そのため、硝酸態窒素が多くあった場合は無理に土壌改良資材でpHを矯正せず、基肥窒素を減肥するなどして土壌中の硝酸態窒素を減らすようにしましょう。
●塩基バランス(石灰苦土比、苦土加里比)
石灰、苦土、カリは基準値に対する過不足だけでなく、これらの成分同士のバランスも重要です。この成分同士は養分吸収を相互に阻害する効果(拮抗作用)があるため、例えばカリが過剰にあると、苦土の吸収が抑制されることがあります。適正な石灰苦土比、苦土加里比はある程度の幅があり、塩基バランスが崩れていても必ずしも生育に悪影響はでませんので、バランスを整えることだけを目的にそれぞれの成分の基準値を超えて資材を投入する必要はありません。
●過剰な蓄積も多い「リン酸」「カリ」
平成20年~令和2年までの茨城県内農業改良普及センターにおける土壌診断結果をまとめたところ、県内の農地では野菜類や果樹の圃場を中心にリン酸やカリが過剰に蓄積している圃場が多くなっていることがわかりました。
施肥リン酸の一部は土壌に固定され作物に吸収できなくなるため、リン酸については作物の吸収量より多い量を施肥します。しかし、土壌中のリン酸が基準値の上限を超えている場合は、作物のリン酸吸収量相当の施肥量だけでも生育可能と考えられ、改善基準値の上限を超えている場合は表1・2を参考に、基肥のリン酸を減肥します。また、リン酸が100mg/100gを超える場合は、リン酸施肥の効果が低いため無施肥とします。
カリについては改善基準値の上限を超えている場合は、超過した分を表3の計算式により基肥基準量から減肥します。例えば、カンショを栽培する一般的な黒ボク土の圃場のカリ含量が46mg/100gであれば、46から基準値の40を引いた6kg/10a分をカンショのカリ基肥基準量10kg/10aから減肥するため、カリ施肥量は4kg/10aとなります。
窒素成分に対しリン酸、カリ成分量が低い肥料銘柄も流通しているので、土壌診断値を参考に、現在使用している銘柄を見直すことで施肥コストを節減しましょう。
土壌の可給態リン 酸含量(mg/100g) |
リン酸施肥の対応 |
---|---|
20> | 土壌改良資材を施用し、基肥基準量の施肥 |
20〜60(基準値) | 基肥基準量の施肥 |
60〜100 | 作物のリン酸吸収量相当の施肥 |
100< | リン酸無施肥 |
土壌の交換性カリ 含量(mg/100g) |
カリ施肥の対応 |
---|---|
25> | 土壌改良資材を施用し、基肥基準量の施肥 |
25〜40(基準値) | 基肥基準量の施肥 |
40< | 超過した量を基肥基準量から差し引く |
作物 | 収量 (kg/10a) |
リン酸吸収量 (kg/10a) |
---|---|---|
レタス | 1543 | 1.9 |
キャベツ | 5645 | 7.0 |
ネギ | 3869 | 4.5 |
トマト | 15468 | 10.0 |
メロン | 4707 | 7.3 |
イチゴ | 4707 | 7.3 |
カンショ | 2664 | 3.4 |
施肥量 (kg/10a) =基肥基準量ー (AーB) |
土壌分析値 Amg/100g(=Akg/10a)
土壌改善基準の上限 Bmg/100g(=Bkg/10a)
※通常、作土の重量に応じた係数
(作土深(cm)×仮比重÷10)を
(AーB)にかけますが、一般的な黒ボク土は1として計算
注意点
以上、処方箋の見方と減肥の方法について包括的に述べましたが、作物によってリン酸、カリの吸収量や施肥反応は違いますので、減肥可能な量も異なります。上記の減肥方法は幅広い作物での減肥の目安となっていますので、作物ごとの減肥基準がある場合はそちらを優先します。また、減肥の継続可能な期間についても十分に検証されていないので、原則として毎作の作付け前に土壌診断を実施し、土壌改善基準を下回らないように管理を実施しましょう。茨城県における土壌診断に基づく施肥については「生産資材費高騰に対する技術支援マニュアル」も参照ください。