茨城県では、令和元年頃からネギを中心とした野菜類において、シロイチモジヨトウによる被害が多くなり、問題となっています。
シロイチモジヨトウの特徴
卵は数十個が一塊となって葉に産み付けられ、成虫の灰褐色の鱗毛によって薄くおおわれます。孵化した幼虫は集団で食害します。平均気温25℃の条件では、16日ほどで1齢幼虫から5齢幼虫に成長し、中・老齢幼虫の体の色は淡緑色~黒っぽい色まで様々ですが、体の側面に明瞭な白い線が現れる個体が多く、本種の和名の由来となっています。老齢幼虫でも30mm程度なので、同じヤガ科のハスモンヨトウの老齢幼虫よりも小さく見えます。
シロイチモジヨトウの発生消長
シロイチモジヨトウのフェロモントラップへの誘殺は、例年5月から始まり、9月にピークに達します。令和4年度の誘殺数は平年値を大きく上回り、令和4年を含む過去11年中1位となり、シロイチモジヨトウの発生が多くなりました(図)。
そこで、茨城県農業総合センター病害虫防除部では、シロイチモジヨトウの防除対策の参考とするため、現地で採集したシロイチモジヨトウに対して薬剤検定を行いましたので、ご紹介します。
シロイチモジヨトウに対する各種薬剤の殺虫効果
●薬剤検定の方法
令和4年7~8月に、県内3地点(県南地域A地点(採集作物:ダイズ)、B地点(同ネギ)、県西地域C地点(同ダイズ))からシロイチモジヨトウ幼虫を採集し、累代飼育しました。所定濃度に希釈した薬液に葉片を浸漬し、餌として3齢幼虫に与えました。処理1、3、7日後の生死虫数を調査し、補正死虫率を算出して薬剤の殺虫効果を判定しました(表、処理7日後のデータ)。あわせて、食害程度についても調査しました(データ省略)。
●殺虫効果および食害程度の結果
①ディアナSC、アニキ乳剤、グレーシア乳剤、ブロフレアSCは、いずれの採集地点においても殺虫効果が高くなりました(表)。これら4剤は、処理1日後から高い殺虫効果を示し、食害程度も小さくなりました。
②トレボン乳剤、トルネードエースDF、ベネビアODは、いずれの採集地点においても殺虫効果が認められました(表)。食害程度は処理3日後まではやや増加しますが、以降は抑えられました。
③ヨーバルフロアブル、プレオフロアブルは、採集地点によって殺虫効果に差が認められました(表)。殺虫効果の認められた地点では、食害程度が抑えられている傾向が見られました。
④ゼンターリ顆粒水和剤は採集地点によって殺虫効果に差が認められました(表)。食害程度は処理日数の経過に伴い、増加する傾向が見られました。
⑤カスケード乳剤、アクセルフロアブルは、いずれの採集地点においても殺虫効果がやや低い~低く(表)、食害程度も大きくなりました。
IRAC コード |
供試薬剤名1) | (有効成分名) | 希釈 倍数 (倍) |
県南地域 | 県西地域 | |
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A地点 | B地点 | C地点 | ||||
3A | トレボン乳剤 | エトフェンプロックス | 1,000 | ○2) | ◎ | ◎ |
5 | ディアナSC | スピネトラム | 2,500 | ◎ | ◎ | ◎ |
6 | アニキ乳剤 | レピメクチン | 2,000 | ◎ | ◎ | ◎ |
11A | ゼンターリ顆粒水和剤 | BT(アイザワイ生菌) | 1,000 | ○ | △ | △ |
15 | カスケード乳剤 | フルフェノクスロン | 4,000 | × | △ | × |
22A | トルネードエースDF | インドキサカルブ | 2,000 | ○ | ◎ | ◎ |
22B | アクセルフロアブル | メタフルミゾン | 1,000 | × | × | × |
28 | ベネビアOD | シアントラニリプロール | 2,000 | ◎ | ○ | ○ |
ヨーバルフロアブル | テトラニリプロール | 5,000 | ○ | ◎ | △ | |
30 | グレーシア乳剤 | フルキサメタミド | 2,000 | ◎ | ◎ | ◎ |
ブロフレアSC | ブロフラニリド | 2,000 | ◎ | ◎ | ◎ | |
UN | プレオフロアブル | ピリダリル | 1,000 | ◎ | × | △ |
1)令和5年6月1日現在、いずれかの野菜類で本種に登録のある薬剤から選定
2)殺虫効果の判定は、次のように行った。◎(高い):補正死虫率90%以上、○(認められる):70~90%未満、△(認められるがやや低い):50~70%未満、×(低い):50%未満(日本植物防疫協会 調査法(野菜・花き【虫害】)の判定基準を引用)
作物によって、登録のある薬剤が異なるので、使用にあたってはラベルをよく読んで、登録内容を確認しましょう!
防除対策
シロイチモジヨトウを防除する際は、集団で生息する若齢幼虫の早期発見に努め、若齢幼虫のうちに防除することが重要です。中齢以降になると薬剤の効果が低くなるだけでなく、作物内に食入し薬剤が届きにくくなるためです。また、薬剤抵抗性の発達を抑えるため、IRACコードの異なる薬剤を用いてローテーション散布を行いましょう。県内におけるシロイチモジヨトウの被害は、ネギの他、キャベツ、ハクサイ、レタス、ショウガ、ピーマン、ダイズでも認められています。ハスモンヨトウ、オオタバコガ、コナガ等のチョウ目害虫に対する殺虫効果は、本種に対する効果とは異なる可能性があるため、防除の際は、圃場での発生種および効果を確認しましょう。
農薬使用時の注意
記事の作成にあたっては、農薬使用基準の内容について細心の注意をはらっていますが、農薬を使用する方は必ず、使用する前にはラベルを見て、対象作物、希釈倍数や使用量、使用時期、使用回数等を確認し、農薬の誤った使用を行わないようにしてください。