JA常陸奥久慈枝物部会(以下 枝物部会)は、2005年にJA茨城みどり枝物生産部会として設立されました。現在部会員数144名、ハナモモを主力に年間を通して約250品目の枝物を出荷しており、年間の販売金額は約2億4000万円です。
枝物部会は、これまで様々なメディアで紹介されてきました。今回は、枝物部会部会長の菊池正男さんと副部会長の関信一郎さんに、圃場や施設を案内していただきながら、近年の枝物部会の取組や今後の方向性について伺いました。
部会長の菊池さんは、市役所を定年退職後に枝物部会に参画しました。退職前に初代部会長の石川幸太郎さんと出逢い、促成中のハナモモも見せてもらった時に、枝物にこれまでにない可能性を感じたそうです。副部会長の関さんは元JA職員で、様々な業務を経験したあと枝物部会の担当になりました。もともと農業をやりたいという気持ちが強かったことから、45歳のときにJA職員から枝物専作農家に転身しました。
はじめに、これまでの枝物部会のあゆみを振り返ります。
JA常陸奥久慈枝物部会のあゆみ
●すべての始まりは先進農家の取組から
常陸大宮地域は中山間地域に位置し、林野が多く、農業の担い手の高齢化が進み、耕作放棄地率が高いという問題を抱えていました。JA県中央会に勤務していた石川幸太郎さんは、これまでの豊富な経験と情報に基づき、農業を再生して地域に活力をもたらす手段として「枝物」の生産・販売に着目しました。
枝物は花材として一定の需要があり、特殊な栽培技術が不要です。しかも、荒れ地での栽培も可能で、気象にも左右されにくいことから、この地域に適した品目であると考えました。そして、1999年にハナモモを20a植付けたのがすべての始まりとなりました。
●JA茨城みどり枝物生産部会の設立
2005年、部会員9名で前身であるJA茨城みどり枝物生産部会を設立しました。部会長は、石川幸太郎さんです。
部会の目標を、部会員数100名、栽培面積100ha、ハナモモを主力に販売金額を1億円としました。担い手確保のターゲットを定年帰農者におき、就農希望者には退職する3~5年前からの植付けを推奨しました。こうすることで退職後すぐに出荷でき、年金+アルファの生活が可能となります。また農地は、土地生産性が低くて借り上げが容易な耕作放棄地を中心に確保していきました。
こうした取組の結果、部会員数は2017年に100人を超え、2021年は133人に増加。販売金額は2018年に目標の1億円を突破しました。
●産地づくりの取組と工夫
主力品目であるハナモモの生産拠点として、2014年に枝物促成施設(672㎡)を整備しました。また、2021年には枝物貯蔵施設(576㎡)を設置しました。ハナモモは、3月3日の需要期に合わせて枝を収穫し、束を作ってスリーブで包み、温度をかけて花芽を膨らませてから出荷します。大型施設の整備により、温度20~23℃、湿度60~70%ときめ細かく管理する一元集中管理が可能となり、ハナモモの品質が向上して市場から高い評価が得られるようになりました。
また、関係機関と一体となった産地づくりを進め、(株)大田花きや青柳フラワーセンターなどからは取組品目や出荷方法について助言を受け、県や市・町、JAからは、部会の運営や施設・機械の導入などについて支援を受けました。
●部会の結束力強化
ハナモモ出荷作業(1月下旬~2月末)やヤナギの染め作業、耕作放棄地再生作業、新規就農者への植付け支援など部会員が共同で作業することで、信頼感の醸成を図り、部会の結束力強化に繋げてきました。
生産者は60~70代が全体の75%、販売金額の80%を占め、「高齢者パワー」に支えられつつも、枝物専業農家を目指す30~40代の若手も増えています。
産地の成長に合わせて様々な工夫や努力を積み重ねた結果、2022年には販売金額が2億円を突破し、ハナモモ出荷数量は2024年に17万束となりました。
近年の枝物部会の取組
枝物部会の近年の取組について、菊池部会長に伺いました。
●広範な地域に拡大した産地を支部活動で支える
「部会員が増えて現在144名となり、研修会、講習会、目揃会などを全会員が一同に会して開催することが困難になってきました。そこで、4支部(緒川支部、大宮支部、大子支部、太田支部)の活動を強化し、支部ごとに講習会などを開催し、それぞれの課題について話し合うようになりました。各支部は、JA常陸管内の広い地域にわたっているので、気象条件なども少しずつ異なります。各地域の特徴を踏まえて、適したものを栽培してもらうようにしています。」と、広範な地域に拡大した部会を、円滑に運営する方策についてお話しくださいました。
●日本一の産地を目指すハナモモ
「部会の主力品目であるハナモモについては、現在スリーブ付きのものを年間約17万束出荷していますが、さらに増やしていきたい。そのために、枝物促成施設に続き枝物貯蔵施設を設置しました。温度をかける時間を調整して、同じ開花程度のものを一斉に出荷できる体制を整備して、品質・出荷量とも日本一の産地を目指しています。」と、日本一に向けての意気込みを聞かせていただきました。
●若い担い手の確保と育成
「部会発足当初は定年帰農者を集めましたが、地域に枝物が根付いたことから、定年を迎えた方が第2の人生として自然と入会されるようになりました。そこで近年は、これからの産地を担う若い生産者の確保に力を入れています。新農業人フェアの一貫として常陸大宮市で農場見学会を開催したところ、参加した方が新たに就農しました。現在30~40代までの9名が若手枝物専作生産者として活動していますが、彼らが枝物だけで生活していけるよう生産効率をいかにあげていくかが課題です」と言います。
部会では、若手生産者を新たに「YOUNG Farmer’s(ヤングファーマーズ)部」という名称で青年部として組織化し、技術の研鑽と新しい品目・技術の情報収集・導入などの活動を行っています。
枝物づくりの現場を歩く
次に、枝物栽培圃場を菊池部会長と関副部会長に案内していただきました。常陸大宮市内の圃場は、枝物部会発足当初から栽培していた地区にあり、「耕作放棄地解消のモデル地域」に指定されています。枝物が普及する以前は、利用していない畑が多かったそうです。
●ハナモモ
花芽のついた枝を60~80cm程度に切り、束にしてスリーブで包み、促成施設で花芽を膨らませて出荷します。部会では、品質を良くするために年3~4回、すべての新梢について先端の芽を摘みとります。これをやらないと、どんどん上に伸びて、商品価値のない太くて長い枝ができてしまうそうです。最初は、花芽と葉芽の区別の付かない人がいますが、花芽は丸く、葉芽は先が尖っていることで判別できるそうです。そして、部会の独自技術として、1年に1回枝を収穫し、その後は根元付近で切りそろえて新たな枝の再生を待ちます。
ハナモモは、植付けてから20年くらいたつと、樹勢が低下して生産量が落ちてきます。改植をすべきところですが、「いや地現象」が発生するので改植が難しい品目の一つです。また強く切りすぎると樹勢が弱る傾向がありますが、栽培管理に関する知見が少ないのが悩みです。そのような中にあっても、普及センターや県研究機関などの支援を受け、試行錯誤しながら枝物部会独自のハナモモ生産体系を構築してきました。
●ブルーアイス
コニファー類のひとつ。良い匂いがして、正月に需要が多い品目です。リースなどに使われます。
●ヒムロスギ
部会開設当初から栽培しており、リースの材料にもなるので、11~12月中旬にクリスマス用として需要の多い品目です。風通しが良く光が当たる圃場条件でないと、品質の良いものができない傾向があります。
●サクラ
奥久慈桜は、年内咲きの桜として、正月用花材に多く使われています。
画像は、奥久慈桜として出荷されているものとは異なる種類のサクラだそうです。
●レンギョウ
日本レンギョウは生け花や、洋花としても使われます。3月の春の訪れを感じさせる黄色い花が特徴です。
●ロシアンオリーブ
部会員の一人がカタログを見て取り寄せて栽培を開始。優れた品目であったことから、部会員みんなで作ろうということになり、広まっていきました。出荷時期は、5月頃~11月いっぱいぐらいです。
●ナツハゼ
夏に紅葉し、実をつけることが名前の由来で、生け花に多く使われます。枝として出荷します。
一画に耕作放棄地が残っていました。枝物の普及がなかったら、この地区は現在とは異なる姿になっていたことでしょう。菊池部会長は「耕作放棄地が解消されたのは、部会員が枝物づくりは面白いと感じたから。」と言います。そして「畑に木を植えるということは、農地を貸す側にも少なからず抵抗感があったと思います。むしろ、地主が耕作を諦めた農地がたくさんあったから、そこに枝物を植えて増やすことができたのだと思います。」と振り返ります。
枝物促成施設と枝物貯蔵施設を利用したハナモモ高品質生産
続いて、枝物促成施設と枝物貯蔵施設を案内していただきました。
●枝物促成施設、枝物貯蔵施設
すでに述べたとおり、枝物促成施設(672㎡)は2014年に、枝物貯蔵施設(576㎡)は2021年に整備したものです。
ハナモモは部会員が同じ基準で調製したものを搬入し、枝物促成施設で花芽を膨らませてから出荷します。しかし、暖かい地域で育った枝は、促成中の花芽の膨らみが早い傾向があります。さらに、同じ生産者でも圃場間による微気象の違いにより花芽が揃わないこともあるそうです。
そこで、促成中の花芽の状態をよく観察して、膨らみが早そうなものはコンテナごと10℃の低温に保った枝物貯蔵施設に移し、遅いものは促成期間を長くするなどして、花芽の膨らみ具合を揃えてから一斉に出荷します。
ハナモモ需要期である3月3日のひな祭りに向けて、市場からの予約注文を集約して販売計画・促成計画を作成し、部会員に出荷量を割り当て、いつ出荷するかも指示します。
このような、市場の動きを見ながらの計画づくりや熟練の技を要する促成・貯蔵管理のほとんどを、初代部会長の石川幸太郎さん夫妻が担っています。今年75歳となった石川さん。大変お元気だそうですが、ハナモモに係る様々な技術の伝承が部会の課題となっているそうです。
●枝物受発注システム
現在部会員は144名、枝物は栽培種や山野から採取するものも含めて250品目に達しています。市場からの注文に対して、部会員にどのように出荷を割り振っているのでしょうか。
JAで枝物を担当していた関副部会長によると、「以前は、注文が入るとJAがとりまとめて部会員に電話やFAXで取り次いでいたので、時間と手間がかかりました。そこで、2019年にスマートフォンを活用した農協・部会員の受発注システムを構築しました。市場から注文が入ると、部会員のスマホに通知されます。受注に対して、各部会員が直接応える(応札)形になっています。このシステムの開発により、多品目の受注にも円滑に対応できるようになりました。」とのことです。
これからの枝物部会発展に向けて
次に枝物部会の方向性についてお二人に伺いました。
●将来の産地の姿は?
菊池部会長は、「まず、ハナモモを日本一の産地にしたい。そして、耕作放棄地を枝物で一杯にして、部会員は充実感が味わえるようにしながら、景観をよくして地域に貢献したい。」と話します。
また、関副部会長は、「産地として伸び続けられるか、次の世代に産地をどのように譲るかが課題です。人が替わっても産地として発展できるようにしたい。そのためにリタイアした部会員の圃場を若い担い手が継承できる仕組みなどを整えていきたい。」と言います。
●部会員が入れ替わる中、結束力の強化とその方策は?
菊池部会長は「発足当初からの部会員は高齢化しつつあり、体調不良のためやむなく生産を諦める方も出てきています。定年帰農者を中心に年間十数人程度の入会希望者がありますが、一人一人面談をして、支部長の指示に従い部会のルールを守ることを条件に入会を認めています。また、新しく入った方のために、石川幸太郎さんから枝物部会のあゆみについて聴く場を設けています。様々な努力や苦労を重ねて産地を築いてきたことを知ってもらい、部会員としての自覚をもち歴史を意識して行動してほしいからです。また、担い手の教育・研修生制度も整えていかなければならないと考えています。」と、部会員が入れ替わる中、結束力強化の重要性とその方策をお話しくださいました。
部会活動に参画してきた菊池部会長とこれからの部会を担う一人である関副部会長のもと、初代部会長の石川幸太郎さんのあゆみを継承してどのように部会を発展させていくのか。将来の枝物部会と地域の姿が楽しみです。