事業承継を具体的に考えていく際に、「事業承継計画」を作ってみることをお勧めしています。次年度の作付計画や設備投資計画を作る農家はたくさんいると思いますが、「いかにバトンをパスするか」という事業承継計画を作っている農家はほとんどいないと思います。事業承継はただでさえ曖昧で、目にも見えません。そんな中で、当事者同士で話し合いをしても空中戦にしかなりませんし、サポートする支援者も何をどう支援して良いのか迷ってしまうと思います。だからこそ、みんなが見える形にすることが重要なのではないかと思います。
期限を決めることでカウントダウンがスタート
事業承継計画を作るには、まず承継を完了する期限を決める必要があります。経営者や後継者の切りのいい年齢にする方もいれば、法人の設立や認定農業者の更新のタイミングにする方もいますが、人それぞれです。実はここがすんなり決まるケースはそう多くありません。しかし、仮でも良いので、一旦日付を決めてしまいましょう。日付が決まることで、カウントダウンがスタートし、とにかく取り組みが始まります。
次に、後継者に引き継ぐべき項目を整理し、「いつまでに」「何をするか」をリスト化していきます(図1)。
これも経営体、特に後継者の状況によってレベル感が全く異なりますから、それぞれで考えていく必要があります。これはパズルのピースと同じです。ピースの数が少ないと、考えるのは簡単ですが全然面白くありません。一方でピースが多いと整理するのは大変ですが、計画の具体性や実効性は非常に高くなります。
メリットはたくさんあります。後継者が現状では頼りないと感じていたとしても、この計画の作成・実行を通じて、成長させることができます。ただでさえ対等ではないであろう経営者と後継者の関係性の中で、後継者が自分の意見を言う機会を作ることもできます。計画は完璧でなくてもよいので、ひとまずできるところまで作り、実行しながら、内容をどんどんブラッシュアップしていくと、伝え忘れを補正できる余地も作ることができます。
具体的に考える際には、まず「生産」や「販売」などの大項目を考え、さらにそこから中項目、小項目と枝分かれして考えていくと整理しやすいと思います。これは大谷翔平さんの目標達成シートから着想しています(図2)。
役割分担表で曖昧な部分を明確に
「ちょっと事業承継計画は重たいなぁ」という方は、まず最初にもう少し簡単な「役割分担表」を作ってみるのもよいでしょう(図3)。実際の農業現場では、明確な役割分担がされていないケースが多いのではないでしょうか。曖昧なまま、メンバーの空気感で決まってしまっている役割分担も、事業承継のタイミングで話してみましょう。まずは簡単な栽培・品目に関するいわゆる農作業の役割を書き出してみたらいいと思います。栽培している品目や品種ごとに、播種、施肥、防除、収穫、選別調製など、これは簡単に書けると思うものからやってみましょう。来シーズンにでもすぐに任せられる役割もあれば、ある程度一緒に教えながらやっていく役割もあるでしょう。そのあたりを、メンバーで話し合いながら一つひとつ丁寧に決めていくことが大事です。
作業分担でなんとなくの雰囲気が掴めれば、次は経営全般に関する役割を考えてみましょう。
まずはたたき台を作るところからのスタートで良いと思います。たたき台ができれば、「これはもっと早く任せてよ!」「これは慌てずに一緒にやりながら段階的に」などと、ブラッシュアップされていくと思います。ここが明確になるだけでも、特に後継者にとって、「〇年後にこの役割、この品目は自分が全部責任を持ってまわせるようにしなきゃ!」という目標になると思います。ちなみにこれは、経営者と後継者に限定する必要はなく、家族や従業員を巻き込んで、経営体全体で考えるのもよいでしょう。
親の病気で突然、強制的に事業承継した私の場合は、こんな役割分担なんてなくて、何の前触れもなく、いきなり農業経営のすべての役割が「息子」という立場の自分に割り振られたわけで、計画的にできたらどれほど楽だったろうかと思います。羨ましい・・・。