①物質循環と農業
②肥料資源の有限性とリサイクル利用
③養分収支から見た輪作の必要性
④土の健康を守る有機物
⑤有機物の分解速度と養分供給量
⑥環境と調和した農業の実現に向けて ←現在の記事
のテーマで、全6回のシリーズ掲載となります。
環境にやさしい農業とは
物質循環を考慮し、環境への負荷を最小限にとどめる環境にやさしい農業は、土壌が本来持っている多くの機能を最大限に利用する農業です。そのためには合理的な輪作体系を基礎として、有機物還元による土づくりと土壌診断および栄養診断に基づいた施肥管理により、できるだけ少ない施肥量での栽培が基本となります。
すなわち、農地において養分循環が成り立つような肥培管理をすることが健全な土壌環境を持続的に維持し、そこで生産される農作物に対する安全性と品質面での信用を高めることにつながります。
診断施肥の必要性
多くの日本人が栄養やカロリーの摂り過ぎにより、メタボリックシンドローム(メタボ)になっているのと同様に、施設野菜や果樹などの園芸作物では土壌のメタボ化が進行しています。県内の土壌診断結果を見ても、養分過剰な土壌が多く見られます(図1)。
土壌診断が始まった頃(1970年代)は養分欠乏の土壌が多く、その改良が目的でした。現在は養分の過剰、塩基バランスの改善を中心に施肥指導が行われています。一度土壌に入れたものは取り出すことができません。養分のバランスをとるためには肥料を加えるのではなく、過剰な養分を入れない工夫が必要です。
有機物施用に関する考え方
養分循環の視点に立てば、作物残渣や畜産廃棄物などを堆肥化して農地へ還元することは環境にやさしい農業をすすめるうえでの基本的な肥培管理技術です。施用にあたっては土づくりなのか肥料代替なのか、利用目的を明確にしたうえで堆肥の種類を選び、適正な量を還元することが必要です。土づくりのために施用した堆肥といえども、いつかは分解して化学肥料と同じ動態を示すので、くれぐれも投棄的な施用は慎むべきです(図2)。
堆肥は品質表示基準として窒素、リン酸、カリの全量を表示することが義務づけられています。しかし、この値は有機態成分と無機態成分の合量で化学肥料のように速効性ではないため、施用効果を期待して多投入にならざるを得ません。肥効率などから堆肥から投入される肥料成分量を算出して、その量を化学肥料の施肥量から削減することが肝心です。
基準としては、堆肥による窒素代替率を30%以下として、堆肥から供給されるリン酸やカリが過剰投入にならないように注意します(第5回、表参照)。
●たい肥ナビ!の活用
各種の堆肥は畜種をはじめとして堆積時期、堆積期間、副資材の種類や混合割合などでバラツキが大きく、投入成分量を正確に算出することができません。また、土壌中での分解速度が的確に把握できないことなどから、施用量や利用法に苦慮しているのが現状です。
そこで、「たい肥ナビ!」を活用して、栽培作物に応じて堆肥の種類、堆肥生産者、成分含量、施用量、減肥方法などを検索し、適正施用に努めましょう。
●指定混合肥料の利用
2020年の肥料法の改正により「特殊肥料等入り指定混合肥料」や「混合特殊肥料」が新設され、堆肥と化学肥料の混合や堆肥の成分を化学肥料で補うこと、さらに特殊肥料同士を混合することが可能になりました。これにより施肥と土づくりを同時に行うことができるようになり、さらには堆肥の多様な利用法も考えられます。
今まで以上に、有機物の土壌還元が進むものと期待されています。
終わりに
本講座は「みどりの食料システム戦略」策定に伴い、持続可能な農業生産を進めるにあたって土壌・肥料の立場から基本的な考え方を示しました。
農業は太陽光をエネルギー源として、養分循環そのものを生産の仕組みに取り入れた産業です。農業が循環型社会の実現に向けてナビゲーターとしての役割を果すことを期待しております。
月刊農業いばらき2022年12月号から再掲載