今回その中から、やせ地、肥沃地、排水不良地のそれぞれに対応した対策事例を紹介します。
再生農地でのカンショ栽培を始める前に
ステップ1:農地の前歴情報をできる限り集めましょう。
ステップ2:土壌診断をしましょう。
ステップ3:肥料成分の多い・少ないや、圃場の水はけにあわせて対策をしましょう。
やせ地における対策の効果
リン酸が不足している畑の場合、可給態リン酸を10mg/100g以上を目標に改良します。基本はようりんなどのク溶性リン酸を含む資材を使いますが、pHが高い場合は立枯病発生を避けるため、過リン酸石灰などpHが上がらない資材を選びましょう。また、資材コスト低減のため、堆肥などを利用してリン酸や有機物を補給することも効果的です。
【事例1】リン酸改良の効果
土壌診断の結果、リン酸が不足していた圃場(3.2mg/100g)にリン酸肥料を入れた結果、リン酸改良を行わなかった区と比べて収量・品質が大幅に向上しました。
改良目標値を10mg/100gにした場合と20mg/100gにした場合で、効果に差はありませんでした(図1)。
肥沃地における対策
肥料、特に窒素が多いと地上部が過繁茂になり、いもが肥大しない「つるぼけ」の状態になるので、栽培前の可給態窒素によって施肥窒素量を調整します(表1)。可給態窒素が6mg/100gよりも多い場合はプラウ等による反転耕も組み合わせましょう。また、リン酸・カリが土壌改善基準値(表2)よりも多く蓄積している場合は、減肥(表3・4)により品質向上が期待できます。
作前の可給態窒素 (mg/100g) |
施肥の目安 | 備考 |
---|---|---|
0以上~3未満 | 標準的な施肥窒素量(3~4kg/10a) で目標収量2500kg/10a以上の収量が見込める |
増肥によってA品率やデンプン含量等の品質が高まる場合もある |
3以上~4未満 | – | |
4以上~6未満 | 減肥によってA品収量が高まる傾向 | |
6以上 | 窒素減肥のみでは目標収量の達成が難しいため、プラウ等により地力窒素の低減を図る 可給態窒素が6未満にならない場合は無窒素栽培を実施 |
※可給態窒素(mg/100g)は30℃、4週間畑培養による数値
pH (KCI) |
リン酸 | 石灰 | 苦土 | カリ | |
---|---|---|---|---|---|
基準値 | 5~5.5 | 10~60 | 250~350 | 35~75 | 25~50 |
(mg/100g乾土)
分析値 (mg/100g) |
リン酸施肥量(考え方) |
---|---|
10~60 | 10kg/10a(標準施肥量) |
61~100 | 3.4kg/10a(カンショ吸収量) |
100以上 | リン酸無施肥 |
施肥量(kg/10a)=10 -(A – B) | |
---|---|
土壌分析値 | A mg/100g(=Akg/100t) |
改善基準の上限値 | B mg/100g(=Bkg/100t) |
カンショのカリ施肥基準量 | 10 kg/10a |
※通常、作土の重量に応じた係数(作土として深(cm)×仮比重÷10)を(A – B)にかけますが、一般的な黒ボク土は1として計算
カリ施肥量(kg/10a) = 10 – (45 – 40)= 5
【事例2】窒素・リン酸・カリ減肥の効果
肥沃地(表5)において、窒素、リン酸、カリを減肥して栽培した結果、無施肥の試験区が最も収量・品質が良くなりました。プラウをかけて土壌を反転し、改善なしと同様の施肥を行った試験区は、作土の可給態窒素を下げることができ、反転しなかった場所と比べると収量が増えました(図2)。
pH (KCI) |
EC (mS/cm) |
可給態 リン酸 |
交換性 石灰 |
交換性 苦土 |
交換性 カリ |
CEC (cmol(+)/kg) |
可給態窒素 (mg/100g) |
全炭素 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(mg/100g) | ||||||||
5.8 | 0.1 | 14.6 | 514 | 49 | 99 | 33.8 | 10.8 | 6.0 |
※カリが多い(青色)
※可給態窒素が多い(赤色)
排水不良地における対策
カンショは湿害に弱いので、水はけのよい畑(地下水位60cm以下、1日に30mm程度の雨が降った2~3日後には滞水がない)を選んだ上で、適切な排水対策(額縁明渠・レーザーレベラーによる圃場傾斜化・プラソイラ等による耕盤破砕)を実施します。
【事例3】排水改善の効果
降雨後に滞水する陸田にレーザーレベラーで畑に0.2%の傾斜をつけた結果、排水性がよくなり、傾斜をつけなかった試験区と比べて収量・品質が良くなりました(写真・図3)。
これらの事例を含む「再生農地におけるカンショ栽培事例集(第2版)」は、茨城県農業総合センターのHP(広報資料)に掲載されていますので、ご活用ください。