茨城県では、国内外で需要が増加しているサツマイモの生産拡大に取り組んでいます。
本県のサツマイモ産出額は全国1位であり(令和3年)、作付面積も年々増加しています。従来、サツマイモは栽培に適した畑で作付けされてきましたが、需要の増加に伴い畑だけでなく水田でもサツマイモを作付けし、より生産量を拡大したいという要望があります。水田として営農している農地を畑地化し、サツマイモを栽培することで、さらなる収益向上が期待できます。しかし、一般的に水田圃場は、畑圃場に比べ過湿となりやすいため、湿害を軽減することが最も重要です。
今回は、レーザーレベラを用いた傾斜化圃場造成による湿害軽減技術の試験結果を紹介します。
十分な耕うんと砕土をしてから切り土と盛土
圃場に傾斜をつける前に、十分に耕うん・砕土を行います。その後、レーザーレベラにより、圃場の水尻側を切土、水口側を盛土することで、水尻側が低く、水口側が高い傾斜をつけることができます(写真)。
作業幅4mのレーザーレベラの場合、設定傾斜度0.1%(100mで10cmの傾斜)の傾斜化圃場を造成するのに作業時間は、0.5時間/10a程度でした。
注)試験で使用した機種(A社GL720)。傾斜度を0.1%(100mで10cm)に設定する
一度施工すれば数年は勾配が持続
傾斜化圃場の傾斜度が、サツマイモ栽培を繰り返すことで変化しないか確認しました。
その結果、造成直後0.090%→1作後0.088%→2作後0.088%と年次による変化はほぼなく(図1)、一度施工すれば数年は勾配が持続します。
注)作付け終了後~翌年作付け前3回程度耕うん(ロータリー耕)を実施した
湿害軽減効果の違いは降雨時に
傾斜化区(傾斜をつけた水田圃場)と対照区(傾斜をつけない水田圃場)における畝内の土壌水分を比較しました。雨が降らなければ土壌水分はほぼ同じでしたが、傾斜化区では降雨日からその数日後にかけて、対照区より低い傾向でした(図2)。
注)土壌水分センサー(型式:EC-5)を使用。センサーは、圃場中央付近でプローブを畝の基部に横方向に挿入して設置した
収量およびA品質の向上
サツマイモの欠株率は、傾斜化区と対照区では同程度でした(データ略)。
一方、傾斜化区の上いも収量は、対照区に比べ8%多くなりました。傾斜化区内の作付け位置(水口側・中央・水尻側)による大きな収量差はありませんでした(表)。
また、傾斜化区のA品率は、対照区に比べ高い傾向でした。これは、障害いものうち「曲り」および「くびれ」の発生率が、傾斜化区で低く抑えられたことによります(表)。
試験区 | 上いも重 (kg/a) |
同左対照比 (%) |
上いも 1個重 (g) |
1株上 いも数 (個) |
形状品質割合 (数量%) |
障害いも発生率 (数量%) |
|||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A品 | 丸品 | B品 | C品 | 裂開 | 皮脈 | 条溝 | 曲り | くびれ | 尻こけ | ||||||
傾斜化区 | 水口側 | 209 | 106 | 213 | 3.2 | 31.5 | 3.7 | 39.6 | 25.2 | 5.1 | 16.1 | 3.5 | 16.3 | 32.1 | 4.5 |
中 央 | 207 | 105 | 217 | 3.2 | 41.6 | 2.0 | 29.0 | 27.4 | 5.3 | 20.5 | 1.2 | 19.7 | 14.8 | 3.0 | |
水尻側 | 222 | 112 | 225 | 3.4 | 45.7 | 2.0 | 29.3 | 23.0 | 8.1 | 21.6 | 0.8 | 16.1 | 20.3 | 2.4 | |
平均 | 213 | 108 | 218 | 3.3 | 39.6 | 2.6 | 32.6 | 25.2 | 6.2 | 19.4 | 1.8 | 17.4 | 22.4 | 3.3 | |
対照区 | 198 | 100 | 239 | 2.7 | 31.4 | 1.0 | 36.9 | 30.7 | 4.6 | 21.2 | 5.3 | 25.8 | 28.7 | 1.7 |
注)1. 傾斜化区の水口側は圃場の水口側の辺から15m付近、中央は中央付近、水尻側は水尻側の辺から15m付近に設置した。
2. 品種:「べにはるか」、挿苗:H30/4/24(傾斜化区)および4/26(対照区)、H31/4/21(傾斜化区)および4/27(対照区)、R2/4/24。
収穫:H30/9/19、R1/9/10、R2/8/27。
造成する時の留意事項
①本試験は、長辺80~100mの水田圃場で実施しました(猿島郡五霞町、多湿黒ボク土、前作:サツマイモ)。長辺がこれよりも短い圃場では、圃場面に凹凸が生じても圃場の表面水の流れが遮断されないよう、水口側から水尻側にかけて10㎝程度の高低差を設ける傾斜度設定が適当と考えられます。
②傾斜化圃場では、水尻側に流れた水を圃場外に排出するため、額縁明渠も施工する必要があります。また、枕地部分にも作付けする場合は、枕地と本圃の間にさらに明渠を施工してください。
③本技術は表面排水技術であり、土壌下層への浸透水を排出する機能はありません。
このため、水田における野菜作では、排水の良好な圃場を選定するとともに、本暗渠や補助暗渠を施工して排水に努めてください。
④レーザーレベラは、県西地域や県南地域の大規模水稲農家でよく使用される機械です。機械をお持ちでない方は、作業受託を依頼するとよいでしょう。その際、発光機の種類により傾斜の設定ができない場合もありますのでご注意ください。