2023年は年間を通して高温傾向
2023年(令和5年)の夏や秋のはじめ頃、特に暑かった印象があるかと思います。平年と比べた全国各地方の平均気温の経過を見ると(図1)、2023年は一時的に平年の値を下回る時期はあったものの、年間を通して平年よりも高温傾向で推移しており、特に北・東・西日本は記録的な高温の年となりました。
茨城県ではどうであったかを2023年の水戸(水戸地方気象台(水戸市))の日平均気温の変化で見ると(図2)、平年値(赤線)に比べて気温の高い期間がほとんどであることに対して、低い期間はとても少なかったことがわかります。
水戸では1897年の観測開始以来、年平均気温が高い方からの記録を更新して第1位となり、高温が顕著であった年となりました。これらの要因は、偏西風の蛇行により日本付近が暖かい空気に覆われやすかったことなどに加えて、地球温暖化に伴う全球的な高温傾向の影響も背景にあると考えられます。
水戸の年平均気温は100年で1.6℃上昇
茨城県では水戸(水戸地方気象台)と、つくば(高層気象台(つくば市))の2地点で100年以上の気象観測を継続しており、地球温暖化による影響がその観測結果にあらわれています。水戸における年平均気温は、100年で1.6℃の割合で上昇しており(図3)、つくばでも上昇傾向(100年で2.4℃)にあります。
●降水現象が極端化
茨城県のアメダス23地点における1時間降水量50mm以上(滝のように降る雨)の年間発生回数は、10年で0.03回の割合で増加傾向にあります(図4)。
一方、水戸における年間無降水日数は、100年で14.5日の割合で増加しています(図5)。地球温暖化によって、災害を発生させるような短時間に降る強い雨の頻度が増える一方で、雨の降らない日も増えて降水現象が極端化すると言われており、地球温暖化による影響が茨城県内の観測結果にもあらわれていると言えます。地球温暖化の進行に伴い、大雨による災害がさらに頻繁化、激甚化していくことや渇水のリスクにも注意が必要です。
●地球温暖化により桜の開花が早まる
地球温暖化の影響は、植物の生育にもあらわれています。水戸における桜の開花日の平年差(図6)とカエデの紅葉日の平年差(図7)を見ると、平年と比べて桜の開花が10年で1.7日の割合で早まり、カエデの紅葉が10年で1.0日の割合で遅くなっています。これらの観測結果から県内の植物や農作物にも地球温暖化の影響が及んでいることが示唆されます。
茨城県における気候の将来予測
今後の世界平均気温が2℃上昇シナリオ(RCP2.6)および4℃上昇シナリオ(RCP8.5)で推移した場合の将来予測(注)における関東甲信地方の気候の変化(図8)を見てみると、茨城県では、20世紀末に比べて今世紀末の年平均気温は、2℃シナリオで約1.3℃の上昇、4℃シナリオで約4.2℃の上昇が予測されています。
今世紀末には茨城県でも、冬日が減る一方で猛暑日や熱帯夜などの増加が予測されており(表1)、これまで以上に暑さ対策が必要になります。また、災害をもたらすような大雨や雨の降らない日が増えることも予測されており(表2)、災害への備えが重要となります。
2℃上昇シナリオ | 4℃上昇シナリオ | |
---|---|---|
1時間降水量50mm以上の年間回数 | 約1.9倍に増加 | 約3.2倍に増加 |
日降水量200mm以上の年間日数 | 有意な変化はみられない | 約2.8倍に増加 |
雨の降らない日の年間日数 | 有意な変化はみられない | 約8日増加 |
(注)それぞれ、「パリ協定の2℃目標が達成された世界(21世紀末の世界平均気温が、工業化以前と比べて0.9~2.3℃上昇する可能性が高い)」と「追加的な緩和策を取らなかった世界(21世紀末の世界平均気温が、工業化以前と比べて3.2~5.4℃上昇する可能性が高い)」であり得る気候の状態に相当します。
緩和策と適応策で地球温暖化に対応
2023年(令和5年)3月のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書(AR6)では、「人間の影響が大気、海洋、および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と報告されており、地球温暖化への対応が重要な課題となっています。
この対応には2つあって、温室効果ガスを減らす緩和策と温暖化による悪影響に備える適応策をともに推進していくことがとても重要です(図9)。
農業分野においても、すでに起こっている・将来起こると予測される変化に対応するための適応策が求められています。具体的な例としては、高温耐性品種の開発、高温に適した作物への転作、農作業時の熱中症対策、ハザードマップによる災害リスクの確認、大雨や洪水に備えた防災気象情報の入手・活用、BCP(事業継続計画)の策定などが挙げられます。
この内、気象庁が発表している防災気象情報としては、熱中症警戒アラート、土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度の高まりを面的に確認できる「キキクル(危険度分布)」などがあり、PCやスマホ等でこれらの情報を入手して積極的に活用することにより被害低減に結びつけることがとても重要です。
最後に、気象庁は地球温暖化に関連する観測の継続、適応策や緩和策のための基礎的なデータの提供、将来の気候予測とこれらの成果の公表によって、これからも地球温暖化対策に貢献してまいります。
【参考資料】
●報道発表(2024.1.4) 2023 年(令和5年)の天候
●ホームページ 関東甲信地方の気候の変化(茨城県は水戸を掲載)
●リーフレット 茨城県の気候変動(これまでの気候変化と21世紀末における気候予測)
●冊子 日本の気候変動2020(-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-)
●IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年12月22日版)