そこで、農林水産省の助成を得て海外での品種登録出願の支援や、育成者権をはじめとする農業分野の知的財産の保護・活用の支援を行っているJATAFFが、農業者の皆さんに、種苗法や育成者権について紹介します。
「種苗法」に定められている育成者権
「育成者権」とは、「植物の新品種」という知的財産を対象にした、特許権や商標権、著作権などと同様の知的財産権です。「種苗法」という知的財産法によって定められており (表1)、植物の新品種を農林水産省に出願登録することによって発生します。新品種を開発するには専門的知識のみならず、長い年月と膨大なコストがかかります。しかし、そのコピーを作るのは簡単なので、無断でどんどんコピーが作られると、新品種の育成者は開発にかかったコストを回収することができず、次の新たな品種の開発に取り組むことが難しくなります。そうなると、農業者も優れた新品種を入手することが難しくなり、消費者も多様で豊かな食生活を送ることができなくなってしまいます。
知的財産 | 知的財産権 | 知的財産法 |
---|---|---|
発明 | 特許権 | 特許法 |
考案 | 実用新案権 | 実用新案法 |
植物の新品種 | 育成者権 | 種苗法 |
意匠 | 意匠権 | 意匠法 |
著作物 | 著作権 | 著作権法 |
商標 | 商標権 | 商標法 |
営業秘密 | 法律上保護される利益 | 不正競争防止法 |
令和2年の種苗法の改正
近年、日本の新品種(登録品種)が海外に流出しており、流出した品種の産地化が進んで問題になっています。改正前の種苗法では、登録品種が正規に販売された後に中国や韓国などのUPOV条約加盟国に持ち出されることは違法ではありませんでした。また、農業者の自家増殖 (収穫物の一部を次の作付けのための種苗として用いること)が認められていたため、登録品種の種苗の増殖(種苗の数を増やすこと)の管理が困難で、違法増殖された種苗の販売や海外への持ち出しを防ぐことができませんでした。そこで、登録品種の海外流出防止等、より実効的に新品種を保護するために令和2年12月、種苗法が改正されました(表2)。
なお、種苗法において保護される品種は、新たに開発され、種苗法で登録された品種に限られ、それ以外の一般品種(在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種)の利用は何ら制限されません。
改正内容 | 施行日 |
---|---|
1.輸出先国の指定(海外持ち出し制限) | |
2.国内の栽培地域指定(指定地域外の栽培の制限) | 令和3年4月1日 |
3.登録品種の増殖は許諾に基づき行う | 令和4年4月1日 |
4.登録品種の表示の義務化 | 令和3年4月1日 |
5.審査手数料の設定と、出願料及び登録料引き下げ | 令和4年4月1日 |
6.育成者権を活用しやすくするための措置 ①特性表の活用 ②訂正制度の導入 ③判定制度の創設 |
令和4年4月1日 |
7.職務育成規定の見直し | 令和3年4月1日 |
8.在外出願者の国内代理人の必置義務化 | 令和3年4月1日 |
9.指定種苗の販売時の表示の在り方の明確化 | 令和3年4月1日 |
10.その他の主な改正事項 ・育成者権が譲渡されても、引き続き許諾の効力が有効となるようにする ・裁判官が証拠提出命令を出すか否かの判断をする際に、対象書類を実際に確認できる手続を拡充する |
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種苗を増殖する(種苗の数を増やす)場合の注意
令和4年4月1日から登録品種の収穫物の一部を自分の種苗として使うこと(自家増殖)にも、育成者の許諾が必要になりました(育成者が認めていれば増殖でき、団体を通じた簡易な許諾手続きも可能です)。また、増殖した登録品種の種苗は、種苗法改正前と同様に、許諾なしには譲渡や販売はできません。
なお、登録品種も、個人(ご自身)や家庭で消費する菜園、花壇などでは自由に使えますが、増やした種苗やそこからの生産物を他人(親戚や近所の人を含む)にあげることはできません。自分の消費や楽しみの中で使うのは問題ありませんが、増やして他人にあげることは無償であっても問題になります。
種苗法改正のポイント(農業者向け)
種苗法改正のポイント(家庭菜園向け)
登録品種かどうかや、品種の利用条件は、「流通品種データベース」でお調べください
「流通品種データベース」は、国内の登録品種およびおおむね過去5年以内に一般に流通しているすべての品種を対象とし、登録された品種名称だけでなく、流通名(商品名等)でも、育成者権のある登録品種であるかどうか、自家増殖に許諾が必要かどうかなどを含め、品種に関する情報の検索が可能なデータベースです。
例えば、有名なイチゴの「あまりん」について、農林水産省の品種登録データベースは「埼園い3号」という「あまりん」の品種名称を知っていないと検索できませんが、流通品種データベースは商品名の「あまりん」を知っているだけで検索できます。このデータベースは、農林水産省の助成を受けて、植物品種等海外流通防止コンソーシアム(代表機関:JATAFF)が運営しています。
流通品種データベース(チラシ)
海外への種苗の持ち出しや栽培地域の限定にご注意ください
種苗法改正により令和3年4月1日から、登録品種の種苗を業として譲渡する場合や販売のための広告の際に、①登録品種であること、②海外持ち出し制限があること、③国内栽培地域の制限があることの表示を付すことが義務化されました。
「海外持出禁止」という表示のある種苗は、海外への持ち出しは種苗法違反になります。登録品種の多くは、海外への持ち出しが禁止されています。また、登録品種の種苗を持ち出す人に売ったり、あげたりすることもできません。
「〇〇県内のみ栽培可」などの表示のある栽培地域が限定された登録品種は、指定地域以外での栽培が制限されています。
登録品種の種苗には、「登録品種」「海外持出禁止」「栽培地域の制限」などの表示があります。種苗を購入する際には、表示をよく確認しましょう。
登録品種の表示が義務化
フリマサイト等における育成者権侵害品の取引にご注意ください
近年、フリマサイトなどで育成者権者の許諾を得ずに種苗を増殖・販売している疑いのある出品が数多く確認されています。しかし、育成者権者からの許諾を得ずに登録品種の種苗を増殖・販売する行為は、育成者権の侵害に当たり、種苗法違反になります。実際に、イチゴの登録品種では、種苗法違反の疑いで、逮捕・書類送検される事例も発生しています(農水省HP)。
また、無断で増殖された種苗を購入した場合、育成者権を侵害した物品として損害賠償請求の対象となるおそれもあります。販売されている種苗が無断増殖されたものかどうか不明な場合は、販売者に育成者権者の許諾の有無を確認するなど、ご注意ください。