家畜ふん堆肥等の有機物の施用は土壌の物理的・化学的・生物的性質を良好な状態で維持するために必要です。また、現在流通する家畜ふん堆肥は肥料成分が多く含まれており、肥料としての効果が高いため、堆肥中の肥料成分を考慮して化学肥料の施用量を削減することができます。そして、このことが肥料コストの低減や環境負荷の低減につながります。今回は園芸作物における化学肥料の代替方法や、注意点について紹介します。
県内で流通する家畜ふん堆肥の肥料成分
家畜ふん堆肥の窒素、リン酸、カリの成分の平均値をみると堆肥の原料となる畜種によって、成分が大きく異なることがわかります(表1)。また、CN比(炭素と窒素の比率)を比べることで、おおよその窒素肥効が判断でき、CN比が低い程、窒素肥効が高くなります。一方、CN比が高い堆肥は土づくり効果が高くなります。
種類 | 窒素 | リン酸 | カリ | CN比 |
---|---|---|---|---|
現物(%) | ||||
牛ふん堆肥 | 1.3 | 1.6 | 1.9 | 19.2 |
豚ぷん堆肥 | 2.4 | 4.1 | 2.2 | 13.1 |
鶏ふん堆肥 | 2.5 | 5.2 | 3.6 | 9.7 |
茨城県堆肥利用促進協議会 堆肥生産者名簿令和5年3月の平均値を用いた
家畜ふん堆肥の肥効率
家畜ふん堆肥に含まれる肥料成分は、すべてを化学肥料のように利用できる訳ではありません。堆肥中の肥料成分の肥料効果を評価するためには、全含有量に肥効率を乗じて算出します。肥効率とは、化学肥料の肥料効果を100%とした場合の堆肥に含有する成分の肥料効果となります。
堆肥中に含まれるリン酸やカリはク溶性(2%のクエン酸に溶ける成分)や水溶性の形態で存在しており、肥効率はすべての畜種において80~90%となっています。一方、窒素の肥効率は畜種による差が大きく、施用時期(夏季と冬季)や連用年数によっても変動するため、窒素の施肥を家畜ふん堆肥で代替する際は、施肥基準の基肥量の50%を上限とすることを基本とします(表2)。
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項目 | 種類 | 窒素 | リン酸 | カリ |
---|---|---|---|---|
肥効率※1 | 牛ふん堆肥 | 30% | 80% | 90% |
豚ぷん堆肥 | 50% | 80% | 90% | |
鶏ふん堆肥 | 70% | 80% | 90% | |
代替率※2の上限 | 各堆肥 | 基肥の50% | 施肥全量 (100%) |
施肥全量 (100%) |
※1肥効率:化学肥料由来成分の肥効を100%とした場合の家畜ふん由来成分の肥効
※2代替率:家畜ふん由来成分(肥効率換算値)で代替できる割合
窒素は基肥が対象、リン酸・カリは総量(基肥+追肥)を対象としている
家畜ふん堆肥は有効成分量に注意し施用
各堆肥を1t施用した時の有効成分量(各肥料成分量に肥効率を乗じた値)をみると、窒素に対し、リン酸、カリ量が多いことが分かります(図1)。特に豚ぷん、鶏ふん堆肥のリン酸については1t/10aの堆肥を施用すると、多くの野菜・果樹類の栽培基準の施肥量を上回る数値となります。堆肥の有効成分のバランスはリン酸、カリが偏重になっているのに対し、作物栽培における窒素、リン酸、カリの施肥バランスはおおむね1:1:1です。つまり窒素を基準に施肥設計をすると、リン酸やカリが施肥基準以上の施用量となる場合があり、土壌への過剰蓄積が懸念されます。
例えばハクサイ栽培において、リン酸の有効成分量が最も多い豚ぷん堆肥を利用した場合を想定し、リン酸が過剰にならない施肥設計を考えます(図2)。リン酸を施肥基準まで堆肥で全量代替すると、堆肥の施用量は450kg/10aとなります。豚ぷん堆肥由来の窒素とカリはそれぞれ5.5kg、9.0kgとなるので、不足分を単肥や、リン酸が低成分の配合肥料で補足し、リン酸を基準量以上施用しないように施肥設計します。堆肥と化学肥料を分けて散布することは労力がかかるので、比重の異なる資材を均等に混合して散布するブレンドキャスターのような散布機の活用も有効です。
早生ハクサイの施肥基準
窒素:リン酸:カリ=15kg:15kg:15kg/10a
豚ぷん堆肥(窒素:リン酸:カリ=2.4:4.2:2.2%)の施用量:450㎏/10a
このように家畜ふん堆肥で化学肥料を代替する場合は、茨城県畜産協会HPに掲載されている「たい肥ナビ!Web版」が活用できます。これには県内に流通する主な家畜ふん堆肥の情報がデータベース化されており、作物や作型ごとに施肥設計が簡易にできますので、ご活用ください。
施設栽培における堆肥利用上の注意点
施設栽培では一定量の潅水を実施しても、土壌表面の乾燥により土壌水分が上方へ移動するため、水に溶けた塩基類や硝酸イオンや硫酸イオンなどの肥料成分が土壌表層に集積し、EC(電気伝導度)が高まりやすい傾向があります。家畜ふん堆肥の肥料成分を考慮しないで施肥をした場合、ECが徐々に高まっていき、作物の根が養水分を吸水できなくなるおそれがあります。家畜ふん堆肥の中では、牛ふん堆肥がECを上昇させやすい硫酸イオンの含有量が低いので、堆肥の肥料成分を考慮し化学肥料の施用量を減らすことで塩類集積を抑えることができます。
また、施設栽培では外気と遮断されるため、ガス障害の発生が多くなります。未熟な堆肥を多量に施用すると、有機物の分解によってできたアンモニアがハウス内の温度が急激に上昇するとガス化して作物の中下位葉の黄化、葉脈間の褐変等が生じます。また、堆肥などの有機物は分解してアンモニア態窒素、さらに亜硝酸、硝酸に変化します。通常、亜硝酸は速やかに硝酸に代わり亜硝酸ガスは発生しません。しかし、土壌の硝酸態窒素が多くpHが低下すると、硝酸菌の活性が低下して亜硝酸が蓄積し、ガス化する恐れがあります。
施設栽培では地温が高く、有機物が分解しやすい栽培環境のため有機物の施用は重要ですが、土壌のECやpH、硝酸態窒素の分析結果を参考に適正な堆肥の施用に努めましょう。