一方で、我が国は肥料資源に乏しく、肥料(窒素、リン酸、カリ)原料のほとんどを輸入に頼っています。そのため肥料価格は、輸送費(原油価格)や世界的な肥料ニーズの変動など国際情勢の影響を受けやすく、近年高騰しています。
本県は畜産業が盛んであり、家畜排せつ物を原料とした肥料成分に富む堆肥(家畜ふん堆肥)が多く生産されています。耕種農家は、この家畜ふん堆肥を主に土づくり資材として利用していますが、豊富に含まれる肥料成分を活用したいというニーズも高まっています。しかし、家畜ふん堆肥は、畜種や製造工程の違いまたは製造時期などにより含まれる肥料成分が大きく変動するなど、肥料として使いにくいという問題があります。
堆肥を原料とした肥料が増加中
これらの課題を背景に、近年では国の肥料制度が改正され、堆肥を原料とする新たな肥料規格が認められています。平成24年には、「混合堆肥複合肥料」の公定規格が設けられました。これにより、条件付ではあるものの、肥料の原料に家畜ふん堆肥を用いることができるようになりました。また、令和元年には新たに「指定混合肥料」の規格が設けられ、原料堆肥の条件が緩和されるなど堆肥の肥料化がしやすくなりました。
このような規格創設によって、堆肥を原料とした肥料のバリエーションが増えており、生産量も増加しています(図1)。近年では、茨城県内の豚ぷん堆肥を原料とした肥料も生産され、県内資源の循環利用が進んでいます。
「ポケット肥料要覧」(農林統計協会)に基づき、新たにデータを加えて作図
混合堆肥複合肥料の特徴
混合堆肥複合肥料は、主に養豚や養鶏由来の家畜ふん堆肥と化成肥料を混合して、粒状またはペレット化した肥料です。
この肥料は、造粒されているので、一般的な肥料と同様にブロードキャスターなどの機械散布が可能であり、堆肥と比べて散布作業が省力的です。また、市販の混合堆肥複合肥料は、肥料三要素(窒素、リン酸、カリ)の配合割合の異なった多くの銘柄があるので、作物や土壌の条件に応じて過不足のない精密な施肥設計が可能です。
さらに、混合堆肥複合肥料に含まれる堆肥由来有機物は、土づくりとしての有機物供給効果が期待できます。ただし、混合堆肥複合肥料の施用による有機物の供給量は、堆肥の一般的な施用量を施用した場合と比べて少ないため、やせ地など農地の状況によっては、別に有機物の補給方法を検討する必要があります。
なお、混合堆肥複合肥料は、原料の家畜ふん堆肥が比較的安価に取引されているため、同等の肥料成分をもつ有機化成と比較して10~30%程度安価に設定されているようです。
露地野菜での活用事例
本県において、混合堆肥複合肥料は、園芸品目や水稲など多岐にわたって利用が進んでいます。ここでは、本県の主要な露地野菜品目であるハクサイ栽培とキャベツ栽培について、混合堆肥複合肥料の適用性を評価した研究成果を紹介します。
●栽培圃場の土壌はカリ成分がやや過剰であったため、混合堆肥複合肥料は豚ぷん堆肥を混合した低PKタイプを用いました。この混合堆肥複合肥料に含まれる窒素の効き方は、化成肥料の硫安と比較して、やや緩やかであることが分かりました。
具体的には、9月中旬施肥で12月上旬収穫の条件において、施肥後11日目に、硫安は含有窒素の9割が有効化してその後ほぼ横ばいに推移したのに対し、混合堆肥複合肥料では含有窒素の有効化割合が約7割でした。混合堆肥複合肥料の窒素は、その後緩やかに有効化が進み、収穫期までに約9割が有効化することが分かりました(図2)。
●混合堆肥複合肥料を用いて秋冬どり作型のハクサイおよびキャベツ栽培を行い、化学肥料を用いて栽培した対照区と比較しました。その結果、収量性の指標として調査した全重や調整重はいずれの肥料でも同等であり、本県の野菜栽培基準にある標準収量(ハクサイ8,000kg/10a、キャベツ5,000kg/10a)を上回りました(表)。
実施年 | 品目 (実施 場所) |
試験区 | 窒素施肥量(Nkg/10a) | 収量性 | 地上部 窒素吸収量 kg/10a |
|||
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基肥1) | 追肥2) | 総量 | 全重 | 調整重 | ||||
kg/10a | ||||||||
H27 | ハクサイ (茨城 園研) |
混合堆肥複合肥料区 | 15 | 5 | 20 | 22,580 | 16,361 | 31.9 |
対照区 | 15 | 5 | 20 | 21,219 | 16,038 | 29.0 | ||
H28 | ハクサイ (茨城 園研) |
混合堆肥複合肥料区 | 15 | 5 | 20 | 21,039 | 15,543 | 28.8 |
対照区 | 15 | 5 | 20 | 21,603 | 16,172 | 33.4 | ||
キャベツ (茨城町) |
混合堆肥複合肥料区 | 10 | 6 | 16 | 9,232 | 5,724 | 27.6 | |
対照区 | 10 | 6 | 16 | 8,878 | 5,707 | 25.9 |
1)混合堆肥複合肥料区はいずれも低PK銘柄(10-5-5)を用いた。対照区は、ハクサイ栽培は硫安(20-0-0)、キャベツ栽培はA化成(10-10-10)を用いた
2)追肥は、対照区と混合堆肥複合肥料区ともに、ハクサイ栽培はNK化成(16-0-16)、キャベツ栽培はオール14(14-14-14)を用いた
※耕種概要:H27年ハクサイ 品種:黄ごころ80、播種8/20、基肥・定植9/14、追肥10/2、収穫12/8、
株間45cm×畦間60cm、栽植株数3,703株
耕種概要:H28年ハクサイ 品種:黄ごころ80、播種8/22、基肥・定植9/12、追肥10/4、収穫12/9、
株間40cm×畦間60cm、栽植株数4,166株
耕種概要:H28年キャベツ 品種:冬藍、播種8/10、基肥・定植9/3、追肥10/5、収穫12/16、
株間40cm×畦間60cm、栽植株数4,166株
なお、混合堆肥複合肥料の窒素成分の効き方は化学肥料と比べてやや緩やかであるため、混合堆肥複合肥料を用いた栽培では初期生育がやや抑制されます。しかし、後半には生育旺盛となり、収穫期には化学肥料での栽培と同等の生育量になります。このため、混合堆肥複合肥料を用いた場合、これまでと比べて初期生育がやや遅れる可能性がありますが、後半に窒素が有効化するので、追肥を過剰に施用しないように注意する必要があります。