県では本病の早期発見のために、目視による診断が困難な場合は遺伝子診断法(PCR法)により検定を行ってきました。しかし、PCR法は専用の機器・試薬と技術が必要であるため研究所等でしか実施できず、診断結果が出るまでに時間がかかっていました。そこで、生産現場で迅速に診断できる簡易検査キット(抗原検査キット)を株式会社ニップンと共同で開発しました。
簡易検査キットを企業と共同開発
平成29年度までにウイルス検査のための肝となる抗体を作製しました。この成果は、月刊誌「農業いばらき」第68巻7月号に掲載されています。この抗体を用いた簡易検査キットの実用化に向けて、民間企業と共同研究を行い、企業が試作した検査キットを使用して、検出に最適なトマトの採取部位や量、抽出法などを明らかにしました。
令和元年3月に企業と共同で特許出願をし、同年12月に検査キットの販売を始めました。キットには試験紙本体の他に、摩砕袋とスポイトが添付されており、このセット一つで迅速診断が可能です(写真2)。5回分ずつ個包装され、10回分(2包装)で販売されています。
「Agripalette トマト黄化葉巻ウイルス」という商品名で、株式会社ファスマックより販売されていますので、詳しくはAgripalette アグリパレット商品紹介ページをご覧ください。
キットの使い方はとても簡単
キットの作業手順は簡単で、誰でもどこででも行うことができます(図1)。
まず、黄化葉巻病の疑いのあるトマトの葉柄部分0.2gを量り取り、キットに付属している摩砕袋に入れます(①②)。袋のチャックを閉め、ペン先などでトマトの葉柄部分を袋の上から擦ることで摩砕します(③④)。その摩砕液を付属のスポイトで試験紙本体に滴下すると(⑤)、5~30分程度で赤い線が現れ、2本の赤い線が現れれば陽性、1本だと陰性と判断できます(⑥)。
なお、コントロールラインに赤い線が現れなかった場合は検定失敗と判断し、やり直します。
現地診断ですぐに対策を
現地圃場で黄化葉巻病が疑われたトマトをこのキットを用いて検定したところ、大玉、中玉、ミニトマトのすべてにおいてウイルスを検出できました。さらに、黄化葉巻病感受性品種だけでなく、症状の出にくい耐病性品種においてもウイルスの検出が可能でした。今回開発した簡易検査キットを使用することで、従来のPCR法に比べ、専用の機器を使わずに迅速な診断が可能となりました(図2)。
生育初期に本病に感染すると大幅な収量減少に繋がるため、耐病性品種を作付けする場合であっても、タバココナジラミを「入れない」「増やさない」「出さない」対策を心がけ、特に育苗期~定植直後の防除を徹底してください。
このキットにより、本病の早期の発見と適切な防除対策が行われることで、本病のまん延を防止することができれば幸いです。当研究所では、県内のウリ類で近年問題になっているパパイア輪点ウイルス(PRSV)についても同様のキットを共同開発し、令和4年6月からキットが販売されています。その他の植物ウイルス病害の診断キットに関しても、商品化を目指して開発を進めてまいります。