本種は、平成18年にスペインへの侵入が確認された後、ここ十数年で欧州、中東、アフリカ、アジアにも急速に分布を拡大し、日本国内においても、侵入・発生を警戒していました。
国内では、令和3年10月に熊本県のトマトで初めて発生が確認されました。その後、侵入警戒のために設置したフェロモントラップ調査において、沖縄県から北海道までの国内各地で誘殺が確認されており、茨城県でも令和5年10月にトラップでの誘殺を確認しました。令和5年12月現在、茨城県では、農作物での発生および被害は認めていませんが、今後、圃場での発生にも注意が必要です。
トマトキバガの生態
国内における生態の詳細は不明で、現在、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)等が調査・研究を行っています。海外の知見では、繁殖力が高く、発生世代数は環境条件によって異なりますが、原産地の南米では年に10~12世代発生することが報告されています。卵~成虫になるまでの期間は 24~38日程度で、気温が低い時期はさらに延びます。成虫は夜行性で、日中は葉の間に隠れていることが多いようです。雌成虫は一生のうち平均で約260個の卵を寄生植物の葉の裏面などに産み付けます。幼虫は1齢~4齢までの生育ステージがあり、土中や葉の表面で蛹となります。
トマト、ナス、ピーマン、バレイショ等の主にナス科を加害するほか、マメ科のインゲンマメも寄主植物として報告されています。
成虫と幼虫の特徴
成虫は翅を閉じた静止時で体長5~7㎜で、前翅は灰褐色で黒色の斑点が散在します(写真1)。「キバガ」の名前のとおり、下唇鬚(かしんしゅ)は発達して牙状となり、上の方に湾曲します(写真2)。
幼虫は終齢で体長約8mm、体色は淡緑色~淡赤色で、前胸の背面後方に細い黒色横帯があります(写真3)。
体長5~7mm。触角は細長く、灰色と褐色の縞状である
「農林水産省植物防疫所原図」
下唇鬚(矢印)は牙状で、上方に湾曲する
体長は終齢で約8mm。前胸背面(頭部の後ろ)に細い黒色横帯(矢印)がある
「農林水産省植物防疫所原図」
トマトでの被害の様子
トマトでは、葉や茎の下面に産卵されることが多く、ふ化した幼虫は葉に潜って食害するほか、茎や果実にも食入します。
葉では、内部に幼虫が潜り込んで食害し、食害部分は表面のみを残して薄皮状になります。同様に葉肉を食害するハモグリバエの食痕が白線状なのに対し、トマトキバガの食痕はそれよりも幅広で、白~褐色の透けた袋状になります(写真4)。
果実では、幼虫が食入し、内部組織を食害するため、果実表面に数mm程度の穴があき、食害部分の腐敗が生じます(写真5)。
「農林水産省植物防疫所原図」
「農林水産省植物防疫所原図」
防除対策
●圃場で発生を見つけ次第、捕殺します。
●発生を拡大させないために、被害葉や被害果実は、すみやかに圃場から持ち出し、野外に放置せずに、ビニール袋で密閉し成幼虫を死滅させる等、適切に処分しましょう。
●施設栽培では、コナジラミ類等の微小害虫対策も兼ねてハウス開口部に防虫ネットを設置し、施設内への侵入を防止しましょう。
●令和5年12月現在、トマトとミニトマトで登録農薬があります。薬剤による防除を行う場合は、最新の農薬登録を確認し、薬剤抵抗性の発達を抑えるため、IRACコードの異なる薬剤をローテーション散布しましょう。
なお、海外では、一部殺虫剤に対する抵抗性を獲得した個体群の発生が報告されていますので、国内でも抵抗性を発達させないように注意が必要です。
茨城県は全国有数のトマト産地です。施設栽培だけでなく、加工用トマト等の露地栽培も盛んですので、圃場をよく観察し、トマトキバガの発生に注意しましょう。
トマトキバガの発生が疑われる場合は、お近くの農業改良普及センターまたは病害虫防除部へご連絡ください。