イネ縞葉枯病は、ヒメトビウンカが媒介するウイルス病であり、発病すると穂の出すくみや不稔を生じ、減収被害を引き起こす病害です(写真)。茨城県では県西地域を中心に発生の多い状況が続いており、令和5年時点では県内全域で発病が確認されています。縞葉枯病は発病すると治療方法がなく、被害を減らすためには媒介虫のヒメトビウンカを防除することや、抵抗性品種の作付けを行うことが重要です。
そこで、今回はヒメトビウンカにフォーカスを当てながら、イネ縞葉枯病の防除方法および抵抗性品種による保毒虫率の変化について紹介します。
ヒメトビウンカを防除して縞葉枯病も防ぐ
ヒメトビウンカはイネの収穫後、刈り株から伸びた再生稲(ひこばえ)や水田周辺のイネ科雑草に生息し、幼虫で越冬します。4月上旬ごろになると成虫となり、麦畑に飛来して増殖し、5月下旬~6月中旬にかけて水田内に飛来します。水田内でイネ縞葉枯ウイルスを保毒したヒメトビウンカにより稲株が吸汁されることで感染し発病します。
イネ縞葉枯ウイルスを保毒した虫の割合を保毒虫率と呼び、保毒虫率が高いこと、およびヒメトビウンカの虫数が多いと感染機会が増えるため、発病リスクが高まります。
以上のことから、ヒメトビウンカを防除することが縞葉枯病の防除につながります。
二つの防除方法で発病を抑える
ヒメトビウンカの防除方法は大きく分けて、①耕種的防除、②薬剤防除の2つあります。
①耕種的防除
再生稲の秋季耕起や水田周辺の除草などにより、ヒメトビウンカの越冬場所を減らすことです。再生稲ではウイルスに感染していても栽培期間中に発病しなかった稲株も発病することがあります。発病株の存在はヒメトビウンカのイネ縞葉枯ウイルスの新規獲得を助長し、保毒虫率を高める危険性があります。
地域内の保毒虫率およびヒメトビウンカの密度を低減するためにも、秋季耕起や水田周辺の除草に努めてください。
②薬剤防除
育苗箱施用と本田散布があります。育苗箱施用は、5月下旬~6月中旬にかけて水田に飛来する成虫を防除して産卵数を減らすとともに、孵化幼虫に対する殺虫効果も期待できるため、幼虫の発生量も減らします。本田防除は、6月中旬ごろに増加する幼虫を防除することを目的として実施します。
いずれの防除方法も、ヒメトビウンカの数を減らすことで感染株の増加を抑制します。発病の多い地域では、育苗箱施用剤と本田散布を組み合わせることで効果的に発病を抑えることができます。
抵抗性品種作付けによる保毒虫率低減効果
縞葉枯病に対して抵抗性を持つ品種はいくつかあります(表)。
品種名 | 熟期 | |
---|---|---|
主食用品種 | 一番星 | 早生 |
ふくまるSL | 早生 | |
にじのきらめき | 中生 | |
あさひの夢 | 晩生 | |
ほしじるし | 晩生 | |
飼料用品種 | 夢あおば | 早生 |
オオナリ | 中生 | |
月の光 | 晩生 |
このうち「にじのきらめき」と「ほしじるし」について、発病の様子とヒメトビウンカの保毒虫率を縞葉枯病感受性品種である「コシヒカリ」と比較しました。発病の様子として抵抗性品種では発病が認められませんでした。また、各品種の作付け圃場で採取したヒメトビウンカ幼虫の保毒虫率を見ると、抵抗性品種は8月下旬時点で「コシヒカリ」よりも低い値を示しました(図1)。
以上のことから、抵抗性品種の作付けはヒメトビウンカの保毒虫率低減に効果的であることが分かりました。注意すべき点として、縞葉枯病抵抗性品種にはヒメトビウンカを減らす効果はなく、圃場内の生息密度は地域内の密度に依存します(図2)。地域内のヒメトビウンカを増やさないために、抵抗性品種においても薬剤防除を実施してください。