退緑黄化病を引き起こすウイルスは、体長約0.8mmのタバココナジラミという小さな虫によって、ウイルスに感染した株から健全な株へと広がります。このウイルスは急速にまん延し、ハウス全体に感染が広がるケースも見られます。また、一度感染すると治療法がない上に、感染した株は新たな伝染源となるため、ウイルス感染株をできるだけ早く見つけ、感染株の抜き取りや媒介虫であるタバココナジラミの防除対策を講じる必要があります。しかし、病気の発生初期には生理障害との区別が難しいため、指導機関や生産者などから退緑黄化病を簡易に診断できる方法が求められていました。
茨城県では、退緑黄化病の早期発見のために、目視による診断が困難な場合は遺伝子診断法(PCR法)による検定を行ってきました。しかし、PCR法は専用の機器や試薬、技術が必要であり、研究所などでしか実施できないため、診断結果が出るまでに時間がかかっていました。
そこで、生産現場で迅速に診断できる簡易検査キット(抗原検査キット)を株式会社ニップンと共同で開発しました。
簡易検査キットを企業と共同開発
茨城県では、ウイルス検査のための肝となる抗体を作製しました。この抗体を用いた簡易検査キットの商品化に向けて、株式会社ニップンと共同研究を行い、試作キットを使用して、検出に最適な植物の採取部位や量、抽出法などを明らかにしました。令和5年6月にキットの販売が開始され、令和6年2月には株式会社ニップンと共同で特許出願を行いました。
キットには試験紙本体のほか、摩砕袋とスポイトが付属しており、このセット一つで迅速診断が可能です(写真2)。5回分ずつ個包装され、10回分(2包装)で販売されています。「Agripalette® ウリ類退緑黄化ウイルス」という商品名で、株式会社ファスマックより販売されていますので、詳しくはこちらをご覧ください。
キットの使い方はとても簡単
キットの作業手順は簡単で、誰でもどこででも行うことができます(図1)。
まず、退緑黄化病が疑われるメロンなどのウリ類の本葉部分を1㎝×2cm(2cm²)に測り取り、キットに付属している摩砕袋に入れます(①・②)。袋のチャックを閉め、ペン先などで葉の部分を袋の上から擦って摩砕します(③・④)。その摩砕液を付属のスポイトで試験紙本体に滴下し(⑤)、15分程度で赤い線が現れます。2本の赤い線が現れれば陽性、1本の場合は陰性と判断できます(⑥)。なお、コントロールラインに赤い線が現れなかった場合は検定失敗と判断し、再度検査を行います。
現地診断ですぐに対策を現地圃場で退緑黄化病が疑われたキュウリをこのキットを用いて検定したところ、PCR法で陽性と診断された葉はキットでも陽性と判定されました。一方、生理的に生じた黄化葉はキットで陰性と判断されました。
今回開発した簡易検査キットを使用することで、専用の機器を使わずに精度よく、従来のPCR法に比べて迅速な診断が可能となりました(図2)。
生育初期にウイルスに感染して退緑黄化病が発生すると、大幅な収量減少につながるため、まずタバココナジラミを「入れない」「増やさない」「出さない」対策を心がけ、特に育苗期~定植直後の防除を徹底してください。ウイルス感染が疑われる苗や株を見つけた場合は、キット等により検定を行い、陽性だった場合は速やかに苗の除去や株の抜き取り処分とタバココナジラミの防除を徹底してください。
このキットにより、退緑黄化病の早期発見と適切な防除対策が行われ、病気のまん延を防止できれば幸いです。当研究所では、県内のウリ類で近年問題となっているパパイア輪点ウイルス(PRSV)やスイカモザイクウイルス(WMV)についても同様のキットを共同開発し、それぞれ令和4年6月と令和6年9月から販売しています。また、トマトの重要病害の1つであるトマト黄化葉巻病を引き起こすトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)についても同様のキットを共同開発しています。詳細はこちらで紹介していますので、興味を持たれましたら、ぜひご覧ください。
園芸研究所では、その他の植物ウイルス病害の診断キットに関しても、商品化を目指して開発を進めてまいります。