スマート農業実証プロジェクトへの参画
メガファーム事業と社長業に邁進する山口さんに、何度目かの転機が訪れました。「スマート農業実証プロジェクト」への参画です。これは、(国研)農研機構、農業者、民間企業や県等が参画して、スマート農業技術を実際に生産現場に導入し、技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果を明らかにすることを目的とする事業です(農林水産技術会議HPから一部抜粋)。2019年に、この事業への参画を決断しました。
この事業で、圃場管理システムや収量コンバインをはじめ、ロボットトラクター、自動運転田植機やスマート乾燥システムなどを体系化したスマート農業の実証試験に取り組みました。
事業に取り組んで、「スマート農業に対して少し抵抗はあったが、今は経営に欠かせないものとなった。自分の中では十分効率化できていると考えていた作業体系でも、スマート農業に取り組むことでさらに効率化できることが実感できた。」とのこと。しかし、全圃場をマップに落としたり、作業の始まりと終わりにボタンを押したりなど、スマート農業ではこれまでの作業にない一手間がかかり、それが導入の壁となることもありますが、もともと几帳面で面倒臭がらない性格に加えて、JGAP認証で何でも記録する癖が付いたことが、スマート農業の導入にも役だちました。
プロジェクトの成果を継続させたい
一方、プロジェクトでは、第一線で活躍する国や企業の研究者や技術者と直接議論をする機会を得ました。専門の研究者が、より厳密に調査し記録するのを見て、自分自身の「普通」のレベルが上がったと言います。また、営農計画の立て方などを質問すると、極めて的確な回答が返ってきて、年間の作業がうまく回るようになったことも経験しました。事業が終わっても、知り合った研究者との交流は続いており、事業の成果を経営に確実に反映させ、それを継続して発展させていきたいという、山口さんの強い意志を感じます。
山口さんが描くスマート農業の未来予想図
一方、プロジェクトでは、様々なスマート農業関連機器を実際に使用し、経営に取り入れることができました。中でも、圃場管理システムは、圃場ごとの作業の進捗状況や水管理などを確認し、従業員間で情報共有する手段として、最も有効に活用しています。ロボットトラクターはオペレーターがいる条件で直進アシスト機能による飛躍的な作業速度向上に、収量コンバインは圃場ごとの栽培改善に、スマート乾燥システムは乾燥状態や空き状態を圃場にいながら知ることができ効率的な収穫・乾燥作業に活用しています。
山口さんが描くスマート農業の未来は、スマート農機が圃場間を無人で移動するエリアで、
作業を行うごとに圃場管理システムが自動的に作業データ(作業面積、時間、資材・燃料使用量など)を吸い上げ、リアルタイムでデータを確認でき、次に実施すべき作業の最適な時期・方法を知ることができるものです。例えば田植機であれば、作業速度や燃料使用料などが自動的に記録され、その結果から作業効率がわかりオペレーターの振り返りに活用できます。このような圃場管理システムとロボットトラクター、収量コンバインや乾燥機などすべての農機がメーカー横断的に統合される。そのような未来予想図を描いています。
現在、国の主導により、メーカー横断的なデータ駆動型農業を描いていこうとする動きが始まっています(WAGRI)。山口さんの描く未来予想図は間もなく実現することと思います。
100haを達成して見えてきたものは
短期間で100haを達成した山口さんは、今どのような景色を見て次のステップに踏み出そうとしているのでしょうか。
「やはりスケールメリットを感じている。販売でも資材購入の面でも、もちろん作業効率の面でも、様々な点で有利になった。」実際に、山口さんの販売先は、関係者なら誰でも知る米穀卸売であり、全量フレコンで出荷しています。
また、県の事業やプロジェクトに参画する中で、スマート農業を前提に、施設・機械等の装備に始まり、営農計画作成から生産・出荷までを、どのように行えば水稲100haを効率的に経営できるかがわかり、その一連の流れを自分の中で「パッケージ化」することができたと言います。
現在全国的に、水田農業の担い手不足が地域によっては深刻な問題となっています。山口さんの次のステップでは、水田農業の担い手を求めている地域があれば、現在の農場を右腕となる人材に任せ、自らは新たな地域で「パッケージ」を展開し、大規模水稲作経営を確立させたいと考えています。そのための準備もあり、社長としての「信用」を高めながら、従業員2名が農場経営を任せられる人材になるよう配慮しています。従業員は特定の作業に専門化することなく、年間を通して一連の作業を経験し、営農体系全体を習得できるよう工夫しています。
国境を越える?「山口ブランド」
山口さんはかねてより「山口ブランド」を確立したいと願ってきましたが、そのイメージは規模拡大の過程で変化してきました。拡大前は、「付加価値を付けて高く販売する」というものでしたが、現在はスケールメリットを活かして販売するいわゆる「日本一の原料供給メーカー」を目指すということに変わってきました。山口さんの「パッケージ」を複数の地域に展開して大規模経営を行う拠点が増えれば、豊富な生産力をバックに「日本一の原料供給メーカー」の夢が現実のものとなるかもしれません。
「山口ブランド」とは、山口さんの営農のあり方をモデルに経営方法をパッケージ化したものを、他の地域にも展開して農業を活性化させることであると言うことができます。
「山口ブランド」は、県境を越えやがては国境を超え、その地域や国の農業を活性化させて豊かにする日がやって来るかもしれません。まだ、30代(インタビュー時点)と残された時間を豊富に持つ山口さん。これからの活動から目を離すことができません。