2023年10月5日
第2回 人と人とのつながりが大きな輪になって
つくば市 つくばいしだファーム(旧 石田農園) 石田真也さん
茨城県農業改良協会事務局県南農林事務所 つくば地域農業改良普及センター
有機農業の先駆者として
県内でもつくば市は、有機農業の法人や農家が多い地域です。県が把握しているだけでも、20以上の経営体が有機農業に取り組んでいます。
これらの創業者の多くは、つくば市に農場を構える前には、石田農園につくば地域の有機農業技術について話を聞きに来たそうです。また、有機農業経営を志す新規就農者に対しては、石田さんが就農支援アドバイザーとして、指導・助言を行いました。
石田さん親子は、自ら確立した有機農業技術を惜しみなく公開しています。それにより、石田農園は、つくば地域の有機農業の発展に、大きな役割を果たしてきたと言うことができます。
石田さんは「農家は良い技術があっても囲い込んで公開しないことが多い。良い技術・情報があれば、自分だけのものとせず周囲と共有するべきだ。そうすることで、自分自身もレベルアップしていく」と力説します。
有機農業の指導者として
つくばいしだファームでは、父親の代から、就農を志す研修生を受け入れてきました。研修期間は1~2年程度です。
石田さんは、これまで6名の研修生を受入れてきましたが、うち5名が独立就農し、農業経営者として定着しています(うち4名はつくば地域に定着)。
「就農希望者には、畑で誰かに出会ったら今日は暑いですねとか寒いですねでもよいから必ず挨拶することなど、農家でなければ教えられないことを教えている。農家は周囲の人たちとのつながりが大切。信頼されないと、畑も貸してもらえない」と石田さんは言います。
また、研修生には、研修後すぐに独立就農できるように、研修中に畑を借りて準備を進めるよう指導しています。将来の自分の経営を描き、営農のためには、どのような施設・機械、そしていくらの資金が必要か、どのような技術を用いるのかなどをシミュレーションするよう促し、営農計画を定めて、就農計画の認定を受けられるよう支援しています。
これらの取り組みは、80%以上いう高い定着率となって現れています。
2008年度に茨城県農業経営士に認定され、現在はつくば分会の副分会長としてご活躍されています。つくば地域の就農支援アドバイザーも務められており、新規就農者への的確かつ優しいアドバイスには定評があります。
「農福連携」の先駆的な取り組み
石田さんは「農福連携を成功させるポイントは何ですか?」と聞かれることが多いそうです。その時は、「施設利用者を引率する事業所職員の農業に対する知識と理解が重要だ」と答えるそうです。
農福連携のきっかけは、近隣の福祉事業所職員から、事業所内に水耕栽培施設を作ったので指導に来てほしいと頼まれたことです。しかし、指導してもあまりうまく栽培できません。そこで、石田さんの農場を働く場として提供することを提案しました。当時、石田農園は人手不足であったこともあり、少しでも作業を手伝ってもらえればありがたいという気持ちがありました。
2018年に、就労支援についての契約を交わして、農福連携がスタートしました。
現在、ほぼ毎日障がい者が作業しており、利用者2~3名に職員1名が同伴するので、圃場管理、収穫・調製までほとんどの作業を任せることも可能です。
成功の秘訣は、生産者も事業所も福祉と農業の両方に理解があることです。この事業所の担当職員はもともと就農を目指して、県立農大の「いばらき営農塾」で学んだ経験をもつ方でした。そして現在、独立してつくば市内に農福連携専門の事業所を立ち上げて、活動を展開しています。
不思議なことですが、様々なことは、石田さんと一緒に進めるとうまくいくように思います。石田さんのもつ人格者としての魅力がそうさせているのでしょうか。
「人の力を引き出すには、絶対に否定的なことを言ってはいけない。今は自信をなくして自己を否定している若者が多い。なるべく褒めて自信をつけさせること。自己を肯定し自信を回復して良い仕事をしてくれれば自分が楽できるから」と石田さんは言います。
つくばいしだファームのこれから
石田さんは「国からはみどりの食料システム戦略が打ち出され、茨城県でも有機農業の振興に力を入れている今、有機農業には追い風が吹いていると感じている。有機農業を志向する農業者も増えてくると思うが、こうした中でも有機農業に取り組む生産者は競い合うのではなく、互いに連携し協力しあったほうが良い」と言います。
例えば、販路についても、有機農業に取り組む生産者同士が協力して一カ所に荷を集めて販売するほうが、ロットが確保でき有利な取引が可能になります。そして、生産者同士が連携して、世の中に有機農業をもっと知ってもらう活動に取り組むことが重要だと力説します。
「日本では、他の先進国に比べて、有機農業への理解度が低く、その価値に見合った価格帯で販売できていない実情もある。しかし、人間の体を構成するのは食物であり、栄養価が高く安全な食品を摂取することが、健康にとって必要不可欠であることに、多くの消費者が気付いている。生産者は、これからも品質の良い有機農産物を供給する役割を担うことになる」と言います。
有機農産物の安定供給の一翼を担うつくばいしだファームでは、労力の確保が一番の課題です。後継者と期待するご子息(20)は、宅配ビジネス界にて修行中で、就農までにはもう少し時間がかかりそうです。
つくばいしだファームでは、目下、将来農場を任せることのできる人材を求めています。有機農業について深く理解したい、将来有機農業に取り組みたい、我こそはと思う方を募集中です。
つくばいしだファームは、これからもつくば地域の有機農業の核として、有機農産物を育て、また人を育てていくことでしょう。