(参考:農林水産省プレスリリース「令和3年の農作業死亡事故について」)
令和3年の農林水産省の統計によると全国で242人、過去データを見ても毎年300人程度の人が農作業で亡くなっている状況です。ちなみに、茨城県においては令和3年の農作業による死亡者は6人となっています(引用元:農林水産省プレスリリース「令和3年の農作業死亡事故について」)。
農作業での死亡事故における原因
農作業における死亡事故の原因として一番多いのが、乗用型トラクターの転倒や転落などによって引き起こされる事故となっています。
最近の農作業は効率化を図るために機械を使用して行うことが多くなっており、高齢の農業者でも大面積の栽培が可能になっています。逆に乗用型トラクター等の機械を使用しなければ、経営が成り立たない状況とも言えるでしょう。
農作業の中でも死亡事故につながっている農業機械を使った作業は、令和3年の農林水産省の調査によると、乗用型トラクター(58人)、歩行型トラクター(22人)、農用運搬車(21人)、自脱型コンバイン(16人)、動力防除機(16人)、動力刈払機(11人)、農用高所作業機(1人)、他(26人)と農業機械作業に係る事故が合計171人(70.7%)となっています。どれもが農作業を効率化するための機械により事故が起こっていることになります(図2)。
(農林水産省プレスリリース「令和3年の農作業死亡事故について」より)
GAPでは、起こりうる農作業事故のリスクを洗い出して、そのリスクをどの様に回避するかを検討し、回避策を実行することを求めています。
乗用型トラクターによる事故
具体的に乗用型トラクター事故のリスクを考えてみましょう。乗用型トラクターは、色々なアタッチメントを装着することにより、耕うんや天地返し、畝立てなど様々な仕事を行うことができます。農作業をする人にとって、これほど頼もしい相棒はいないでしょう。ナンバー登録をすることにより、公道も走ることができます(運転者も相応の免許が必要)。
このように体の大きい力持ちですので、操作を間違えれば人間に牙をむくこともあります。その牙をむかせないためにはどうすればよいでしょうか?乗用型トラクターは自ら暴走することはありません。例えば、道を走行するときに、左右のブレーキペダルを連結しておらず、片側のみブレーキを踏んだためにハンドルを取られ側溝に落ちたり、他の車両と衝突したりすることがあります。また、無理な傾斜を斜め走行して転倒したりと、オペレーターの操作・判断ミスが大方の事故につながっています。点検整備が行き届いていないことによるトラブルも、オペレーターのミスの1つです(図3)。
そこで、JGAPでは各農場での乗用型トラクターの使用場面を想定し、起こりうるリスクを洗い出して、その対策を書面に書き出し、それをしっかりと実行することが求められています。そのルールづくりと、作ったルールを実行することで、事故のない安全な作業を担保していこうとするものです。また、乗用型トラクター以外の、刈払い機や歩行型トラクター等でも死亡事故が起きており、これらも取扱いを間違えると凶器になる代物です。
(農研機構 「イラストで見る事故事例 事故原因追跡調査結果 事例1」より)
事故が起きた時の対応
もう一つ大切な事があります。事故が起きないようにGAPでリスク管理をシッカリやることは、これまで記載した通りですが、人間のことですから100%リスクを管理するのは難しいです。そこでJGAPでは、事故が起こった時の対策もしっかり検討しておくことを求めています。怪我をした時の応急手当はどうするか、救急箱等の準備はしているか、近くの病院はどこか、責任者への連絡はどうするかなども検討します。
そして、決めたその対策を農場のすべての人で共有し、必要なものは書き出して掲示し、みんなが見てすぐわかるようにしておきます。そうすることにより、事故が起こった時の迅速な対応に繋がり、人命を救うことにもなるでしょう(参考:JGAP2022 農場用管理点と適合基準 青果物 9労働安全管理および事故発生時の対応 9.1~9.5)。
事故が起きてしまった時の災害補償
また、事故が起きてしまった場合の災害補償の問題も考えておく必要があります。仕事中の事故ですので、状況次第ではありますが多かれ少なかれ災害補償が発生することになります。その時のための備えは大丈夫でしょうか?特に従業員に対しては法律によって労働者災害補償保険(労災保険)への加入が義務付けられています(労働者が常時5名以上いる個人事業者または法人)。加入義務が生じない農家でも、いざという時の備えはしておきたいものです。JGAPではいざという時の補償(労災保険)を確認することも求めています(参考:JGAP2022 農場用管理点と適合基準 青果物 9労働安全管理および事故発生時の対応 9.6~9.7)(図4)。
(農林水産省「農業者・農業法人 労務管理のポイント」より)
起きて欲しくない労働災害。そのリスクをできるだけ少なくすること、また、起こってしまった時の対策までGAPは皆さんと一緒に取り組もうとしています。
GAPに取り組むことにより、より安全な職場環境を作っていただくことを心から願っております。