ご存知のとおり整理・整頓・清掃は、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)に含まれる3つを指し、3Sとも呼びます(図1)。
3SはGAPに取り組む第一歩
JGAPの農場用管理点と適合基準2022(青果物12.2)の中にも必須項目として「整理・整頓・清掃の実施」が上げられています。
実際、整理・整頓・清掃ができていないとGAPの認証を取得するのは困難です。3Sは言わば「GAP取り組みの第一歩」と言っても過言ではありません。
皆さんも色々な農場を訪問されたことがあると思います。圃場、倉庫、農産物取扱施設、事務所などを見て、農機具や包装材料などが雑然と置かれていると、農作業の効率、食品の安全性、労働安全などに少なからず疑問を持たれたのではないでしょうか。
JGAPは農場運営、食品安全、環境保全、労働安全、人権の尊重に取り組み、適切な農場管理を行い、安全な農産物の栽培・出荷をし、食品事業者の方への信頼、消費者の方に安心・満足して食べていただけることを目指すとともに、安定した農業経営を確立するための取り組みです。このため、農業生産工程を見える化して、各々の工程が適切に行われているかを確認する必要があります。各工程での整理・整頓・清掃ができていないと確認がしづらくなり、色々な見落としが起こり、トラブルの発生に繋がりかねません。
それでは、どの様に整理・整頓・清掃を行えばよいか、ポイントを探っていきましょう。
●「整理」必要なものだけを持つ
整理とは必要のないものを処分して、必要なものだけを持つと言うことです。
倉庫に不要なものが置いてありませんか。数年使用せず埃を被っているものがきっとあるはずです。いつか使うかもと思われるかもしれませんが、思い切って処分しましょう。しばらく放置され手入れされていない農機具は、急に使っても使い心地が悪く怪我をするリスクも高まります。
農薬保管庫の中にも処分するものがありませんか。有効期限が過ぎた農薬は使用しないでください。栽培する作物が変わり登録上で使用できなくなった農薬も、誤使用等のリスクを避けるため処分の対象となります。農薬を廃棄するときはルールに従って産業廃棄物処理業者等に処分してもらう必要がありますので注意してください。
整理をする過程で、直ぐに不要だと判断できないものもあるかと思います。判断に迷ったものには「要判断」などと記載したシールを作成して貼っておきましょう。シールは目立つものにして、それを見るたびに必要かどうかを考えてみてください。不要と思ったら直ちに処分しましょう(図2)。
●「整頓」置く場所を考える
必要のないものを処分して必要なものだけになったら、それらを置く場所を考えましょう。物を置く場所の広さは限られています。そのスペースに収まるように配置を考え、作業性も考慮して置く場所を決めましょう。倉庫などの限られた面積では、棚や壁などを利用した立体的な収納も考えてみてください。よく使うものは取り出しやすいところに置きましょう。
農薬は鍵のかかる農薬保管庫に収納します。農薬保管庫は農薬を取り出すときに、農産物や農産物の運搬に使用する台車、農産物を出荷する包装材料などに接触しないような場所に配置してください。
乗用トラクターなどの大型の機械は、十分余裕を持ったスペースに格納して、周囲のものに接触せずに楽に操作ができるような状況を保持してください。操作がしにくいようなスペースに格納すると、操作に時間が掛かりその分時間のロスに繋がり、危険も伴います。
限られたスペースの中で最大限作業効率が良く、食品安全、労働安全が確保できるように考えてみましょう。
置く場所が決まったら、置き方にも注意します。包丁や鋏などは複数あると思いますので、雑然と置くのではなく個体識別ができるように並べておくと劣化などに気が付きやすく、管理がしやすくなります。
道具類も写真のように置き場所を決めて管理することにより、探す手間も減り紛失にもいち早く気が付き、迅速に対応する事ができます。
また、袋詰めの肥料なども、雑然と積まずパレットの上にきれいに組んで積み上げると、崩れたりせず、安全も確保できます。見た目が整然としていると、安全も確保しやすいですし使いやすさも向上するでしょう。
●「清掃」職場環境の維持
必要なものを置く場所が決まったら、その状況を維持していく必要があります。
清掃は読んで字のごとく、掃いて清めることです。単に箒でゴミを取り除くだけではなく、掃除をしながら異常個所はないか、置き場所が違っていないかなどに気を配り、職場環境の健全を維持することも清掃の言葉の意味に含まれています。
整理・整頓された環境を清掃によって維持することも重要です。また、清掃をする中で整頓して決めた配置が適切ではないことに気付くこともあるでしょう。使いにくかったり、使用頻度が変わったりした時は、農場のみんなで相談して位置を変えることを考えましょう。情報を共有することも必要な事です(図3)。
継続するとたくさんのメリットも
以上3Sについてポイントを述べてきましたが、さらに「整理・整頓・清掃・清潔・躾(5S)」を行うことにより、次のようなメリットも生まれてきます。
・探し物をする時間が短縮され作業効率がアップします。
・異物混入のリスクが低減します。
・機械などの故障リスクが低減します。
・職場での怪我などが減少します。
・きれいな環境で仕事への取り組み姿勢が改善されます。
参照:生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのマニュアル(基礎編)P8 厚生労働省
3Sは農場経営を行う上で大切な作業で、業務として取り組むことが必要です。疎かにすると作業効率が悪くなり、食品安全、労働安全などにも害を及ぼす可能性があります。農場の全員でルールを作り整理・整頓・清掃に取り組むことにより、農場経営の改善が進み収益の向上につながる事でしょう。ぜひ取り組んでいただき、より良い農場経営を実践いただけることを願っております。
整理・整頓・清掃のイメージができましたら、GAPへの取り組みがまだの方は取り組みを検討されてはいかがですか。さらなる農場経営の改善策を見出すことができることと思います。