今回は、これらの環境変化に対応していくための経営に役立つGAPについて紹介します。
農業人口の減少・高齢化、経営体の変化
現在、基幹的農業従事者数は減少傾向にあり、2020年は2015年と比較すると22%減少しています(図1)。また、2020年の基幹的農業従事者数のうち、65歳以上の階層は全体の70%を占め、農業人口の高齢化、減少は待ったなしの状況となっています。
これを農業経営体数で見ると、2020年は2005年の経営体数と比較して46%減少しました(図2)。その中にあっても、法人経営体を含む団体経営体数は徐々に増加する傾向にあり、団体経営体の管理する農地は大規模化しています。大規模化した団体経営体では、農産物の安全性・品質管理を統一することが重要になります。このため、GAPでの管理がより有効となります。
また、経営を次の世代に引き継ぐ際には、GAPで作成する「工程管理資料」が次世代農業従事者への有効なマニュアルとなります。
日本の農産物マーケット
2000年代に入り、消費者の農産物の安全性を重視する動きと相まって、国内では流通・JA・行政等で様々なGAPが作られました。東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会では、GAP認証農産物が食材の調達コードに指定されたことにより、生産者のGAPへの認識が一段と高まりました。その後、大手コンビニエンスストアが“「持続可能な調達」の実現を目指して、GAP認証を受けた農産物の取り扱いを拡大する”と宣言したことから、生産者の間にGAP認証を取得する動きが広がりはじめました。
宣言した当初は市場に出回るGAP認証農産物が少なく、青果バイヤーは生産者が「これからGAP認証を取得する」という前提のもとに農産物を仕入れる状況でした。しかし、現在は市場でもGAP認証農産物が多く見られるようになり、実際ここ数年ASIAGAP/JGAP青果物の認証農場は増加傾向となっています(図3)。青果バイヤーが容易にGAP認証農産物を仕入れる事ができるようになったため、認証を取得していない生産者が「契約ができなくなった」という事例も発生しています。
※毎年3月末。2018年以降は畜産を含む
GAP認証を受けた農産物を求める動きは大手コンビニだけでなく、大手スーパーや食品加工会社にも広がっています。GAP認証農産物を求める意向を有する実需者として農林水産省が登録している「GAPパートナー」は農林水産省のHPで確認できます。
2025年に開催される大阪・関西万博においてもGAP認証の農産物が食材の調達コードに指定されていますので、今後ますますGAP認証農産物の需要拡大が見込まれます。
海外の農産物マーケット
人口減少等による国内市場の縮小が見込まれる中、今後拡大が期待される海外市場へ進出するにあたっては、海外でも通用するGAPの第三者認証を取得していることが、商談を優位に進めるために必要となります。認証がないと商談に進めない場合も多くなるでしょう。
海外で通用するGAPとは、GFSI(Global Food Safety Initiative)承認を取得したGAPのことで、日本ではGLOBALGAPやASIAGAPがよく知られています。また、JGAP認証に加えて新たな付加規格「+SA」(FSA(Farm Sustainability Assessment))を取得することにより、世界レベルの持続可能な農業を行っていることがアピールできます。
持続可能な農業を行うのに不可欠なGAPとSDGs
SDGs(持続可能な開発目標)とはご存じのとおり、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための17の国際目標です(2030年限)。日本も国際社会とともに目標を達成するための活動に取り組んでいくことになりました。この目標を達成するために農業分野では、GAPに取り組むことでSDGsに貢献できると言われています。
今後、持続可能な農業を行っていく上でGAP認証の取得はさらに不可欠なものとなるでしょう。
GAPは将来の農業経営へ進むための「パスポート」
経営環境の急激な変化は、考え方によってはチャンスととらえることができます。事前にできる準備を行い、チャンスをものにしてください。
国としても、この変化を乗り切るために様々な支援策を用意し、持続可能な農業が行えるための施策を打ち出しています(図4)。
農林水産省は、農業関係の補助金申請にあたり環境負荷低減クロスコンプライアンスを導入することにしています。環境負荷低減クロスコンプライアンスの内容はGAPと近似的な考えを有するため、GAPがさらに注目を集めるものと思われます。
みなさんもアンテナを高く広く張り巡らせて、早めに対応をしていきましょう。GAPを実践することは、将来の農業へ進むための「パスポート」となることでしょう。