(株)筑波農場は、筑波山の麓で代々続く米農家です。独自のブランド米「常陸小田米」を生産するほか、スマート農業にも取り組み先進的な農業経営を行っています。あわせて、6次産業化部門を立ち上げ、加工品製造販売、委託加工による加工品開発など多角的な経営を行っています。
今回は、6次産業化の取り組みについて紹介します。
6次産業化導入のプロセス
2011年に収益アップや自社ブランド米の知名度向上のため、また、筑波農場社長の長年の夢でもある自社米を使ったおにぎりを販売する店舗経営への挑戦を始めました。
店舗の建設予定地は、多くの登山客や観光客で賑わう筑波山の大鳥居の前。しかし、大きな課題に直面します。この場所は、水郷筑波国定公園に位置しているため、景観や排水処理など自然公園法に基づく様々な制約があり、建築費用が想定以上の金額になることが判明しました。資金調達のため、計画を一時中断せざるを得ませんでした。
そこで、6次産業化プランナー等の支援を得ながら6次産業総合化事業計画書を約1年がかりで作成。計画が認定され、6次産業化推進事業(連携施設整備事業)の認可を受けることで資金調達のめどが立ち、ついに店舗の建設に至りました。
しかし、店舗の完成から開店までの準備期間は、約2か月間のみ。そこから本格的にメニュー開発や包装、調理方法の検討を進めました。ほぼ毎日炊飯の練習と試作の日々。初めての飲食店経営でノウハウがありません。このため、茨城地域産業6次化サポートセンター(現:茨城農山漁村発イノベーションサポートセンター)と普及センターが連携し、商品開発や食品表示、衛生管理等に関する現地指導や講習会などを通じて、知識、技術の習得を支援しました(図)。
そして、挑戦をはじめてから3年後の2014年「釜炊きおにぎり筑波山縁むすび」が開店しました(写真1)。
商品の魅力アップと店舗以外の販路開拓
開店後は、おにぎりの品質向上、季節商品を開発しメニューを増やしたりと、商品の魅力アップに取り組んできました。同時に6次化サポートセンターの支援を受けながら、店内レイアウトや商品パネルなどの店舗改善を行いました。
また、主な客層が観光客のため、観光シーズンである繁忙期と閑散期の販売量の平準化が課題でした。このため、市内物流施設において従業員向け弁当の販売を開始し、店舗以外にも販路を広げ、販売量の平準化により、雇用も確保され売上向上につなげています。
新たなお土産「米粉バウムクーヘン」の開発
筑波山観光のお土産の商品開発を求められていたことから、新たな商品づくりに取り組みました。これまで委託製造で米粉バウムクーヘンを製造していましたが、味や商品の形など、理想の製品にすることができていませんでした。そこで、おにぎり店の建物を改修して、米粉バウムクーヘンの自社製造に取り組むことにしました。
商品化にあたり、再び6次化サポートセンター等の支援を受け、6次産業化総合化計画を策定し、計画を進めていきました。
まず、米粉バウムクーヘンの製造技術の習得のため、バウムクーヘン機器メーカーの実地研修を受け、実践的な技術習得に取り組みました。
またその当時、食品衛生法が改正され、原則としてすべての食品関連事業者に、HACCPに沿った衛生管理が義務化されると見込まれていました。そこで、より安心安全な製品を製造するため、HACCP導入を見据えた衛生管理の知識の習得に取り組みました。知識習得に当たっては、6次化サポートセンターや普及センター、県農産加工指導センター、保健所など関係機関の支援を受けて、より高度な衛生管理の知識を身に着けていきました。
商品化した米粉バウムクーヘンは、つくば市の「つくばコレクション」に認定されているほか、令和3年度いばらき農の6次化商品コンテストで入選するなど、地域を代表する商品に成長しています(写真2)。
これまでの6次産業化の取り組みを振り返って
コロナ禍で観光客が来ない時期も乗り越え、開店から10年目を迎えました。現在店では、おにぎりのほか、あられ、地元酒造メーカーとコラボした日本酒など、様々な商品展開により、順調に売り上げを伸ばしています。
今回、話を伺った筑波農場の小久保美幸さんは「始めるときにどこに相談していいのかわからなかったが、普及センターなどとは普段から相談しやすい関係があった」「複数のことを同時進行で進めていかなければならかった」と6次産業化を始めた当時を振り返っていました。
今後も筑波農場には、6次産業化を通じて地域農業の発展や地域振興への貢献が期待されています。