今回は食品の製造・加工を行う方に向けて、食中毒とその対策について紹介します。
3つに分類される食中毒の要因
食中毒とは、食品(食品添加物や調理器具、容器包装も含む)によってもたらされる健康被害のことを指し、その要因は、①生物学的要因(細菌、ウイルス、寄生虫)、②化学的要因(薬品や毒キノコ)、③物理的要因(異物の混入)の3つに分類されます。
全国および茨城県の食中毒発生状況
令和4年次(1月1日~12月31日)の全国および本県の食中毒発生状況は、表1・図のとおりです。全国の状況をみると、寄生虫(アニサキス)による食中毒の件数が最も多くなっています。アニサキスによる食中毒は、1件あたりの患者が1名程度と少ないケースが多く、一方で大規模化する傾向にあるのはウイルスや細菌による食中毒です。
事件数(件) | 患者数(人) | 死者数(人) | |
---|---|---|---|
全国 | 962 | 6,856 | 5 |
茨城県(水戸市含む) | 5 | 29 | 0 |
食中毒の主な原因と特徴
表2では、食中毒の主な原因について紹介します。厚生労働省のHPでも食中毒の原因や対策について紹介されていますので、情報収集に活用してください。
代表的なもの | 主な症状 | 特徴・事例 | ||
---|---|---|---|---|
生物学的要因 | 細菌 | カンピロバクター 腸管出血性大腸菌 黄色ブドウ球菌 サルモネラ |
発熱、下痢、腹痛、 嘔吐等の胃腸炎症状 |
・家畜の腸管や水、土壌などの環境中に広く存在する ・細菌の多くは熱に弱い ・細菌が産生する毒素(耐熱性)が原因になることもある ・お年寄りや子供は重篤化する場合あり |
ウイルス | ノロ ウイルス |
ノロウイルスは発熱、下痢、腹痛、嘔吐等 | ・ノロウイルスは熱に弱い ・汚染された二枚貝を食べて感染する場合と、 感染した人が食品を汚染する場合の2つのパターンがある ・大規模化する傾向あり |
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アニサキス | 食後数時間で胃の 激しい痛み 悪心・おう吐 |
・加熱・冷凍処理を経ていない魚介類が原因となる ・酢やわさびでは死滅しない |
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化学的要因 | 植物性 自然毒 |
スイセン ジャガイモの芽 毒キノコ |
食後30分~数時間で発症 消化器症状や神経症状等、多岐にわたる |
・重篤化し死亡する場合がある ・知人から譲り受けたキノコで食中毒になることもある ・長年キノコ狩りをしている人でも注意が必要 |
動物性 自然毒 |
フグ | 手足のしびれ、歩行困難、呼吸困難などの神経症状 | ・重篤化し死亡する場合がある ・有資格者以外はフグの調理を行わないこと |
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その他 | 洗浄剤 消毒剤 |
異味、異臭など | ・施設内で使用する食器用洗剤や消毒剤の混入 | |
銅 | 頭痛、めまい、吐き気 | ・金属製の容器に酸性の飲料を長時間入れたことによる銅の溶出 | ||
物理的要因 | 調理器具の破片 | 異物により口腔内を損傷 | ・給食施設で使用していた機器が破損し、その破片が給食に混入 ・調理器具や食器等の日常的な点検が必要 |
食中毒予防のポイント
●生物学的要因の対策
食中毒予防の三原則は、「付けない」「増やさない」「やっつける」です。
【付けない】手洗いの徹底、器具の洗浄・消毒
【増やさない】原材料、製品の温度管理
【やっつける】十分な温度・時間での加熱
食中毒予防の三原則は、細菌による食中毒の予防を想定しています。これに以下の2項目を加えることでノロウイルスによる食中毒の予防対策にもなります。
【持ち込まない】毎日の健康チェック(自分の食べ物や家族の健康状態も注意)
【拡げない】トイレや手洗い設備の維持管理、清掃・消毒の徹底
※ウイルスは食品中では増殖しません。
●化学的・物理的要因の対策
例として以下のものが考えられます。
・薬品や消毒剤の管理簿、使用マニュアル、保管場所の整備
・原材料の検収の徹底
・作業前の身だしなみチェック
・調理器具や機器の定期的な点検(破損の有無、修繕の必要性を確認)
HACCPに沿った衛生管理
食品を製造・加工する場合は、食品衛生法に基づきHACCPに沿った衛生管理を実施する必要があります。HACCPに沿った衛生管理とは、食品の製造・加工現場において、長年の経験則に頼っていた衛生対策を科学的根拠に基づき「見える化」するものです。毎日の「やるべきこと」と「やったこと」を文書化することで、問題点の把握と食中毒等が発生した場合の振り返りが容易になります。施設の衛生管理計画に食中毒予防対策が入っていない場合は、ぜひ加えてください。
厚生労働省HPには、小規模事業者向けの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」が業種別に公表されています。業種ごとのポイント解説や記録様式などもありますので、こちらも活用してください。
より良い衛生管理のために
今回紹介した食中毒予防対策は簡単に見えますが、ひとつひとつの対策を一定のレベルで継続することは想像以上に難しいものです。
例えば、従業員によって衛生レベルが異なっている、繁忙期にはいつもの衛生管理ができないほど忙しくなってしまう、ということはないでしょうか。「いつでも」「誰でも」「同じレベル」で衛生管理が実施できているかどうかが大切です。従業員ごとの衛生レベル、繁忙期の受注状況等を改めて確認してみてください。
また、作成した衛生管理計画をしばらく運用したら、計画に無理がないか、改善点がないかを定期的に確認するようにしましょう(「PDCAサイクル」P=plan:計画 D=do:実行 C=check:評価 A=act:改善 の各手順を繰り返すもの)。
食品の衛生管理についてご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。