スマート農業は、近年のRT(ロボティックス)、ICT(情報通信技術)、 AI(人工知能)といった先端技術の発展を背景としており、その普及を加速化していくために、令和元年度より、農林水産省の事業である「スマート農業実証プロジェクト」が開始されました。本事業は、これまで(2022年時点)、全国205地区で展開されており、茨城県でも合計5地区、6経営体(水田作は5経営体)において実証試験が進められてきています。ただし、これらは前述のプロジェクトに参加された経営であり、スマート農業に関してはさらに多数の経営体において、様々な内容で実施されていると思われます。
技術の特徴
スマート農業の具体例としては、表に示すような機械や技術がありますが、前述のスマート農業実証プロジェクトにおける茨城県の水田作での取組みを見ると、①圃場水管理システム、②自動運転田植機、③ロボットトラクター、④食味・収量コンバイン+データ連携玄米選別機、⑤栽培管理支援システム+営農管理システム、⑥密苗対応オート田植機、⑦リモートセンシング用ドローン、⑧スマート追肥、⑨ラジコン草刈機、⑩高精度水田用除草機といったスマート農機や技術を用いた実証が進められています。
ロボティクス関係 | ICT関係 |
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AI関係 | |
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注:ここでは一部のみ記載しているが、この他、農林水産省のスマート農業技術カタログにおいても様々な技術、機械・機器が紹介されている
このうち、ロボットトラクターについては、オペレーターが操作・監視する有人機と無人機が、同一、あるいは近接する圃場において、耕起や整地を2台のトラクターによる協調作業として実施されています。自動運転田植機は、プロジェクト発足当初は市販機がなかったことから農研機構の試作機が用いられましたが(現在は市販されています)、事前のプログラムにより経路を設定し、移植作業を無人で行うことでオペレーターは苗補充に専念することが可能となっています。
なお、この自動運転田植機は、アタッチメントを播種機に交換することで、水稲湛水直播栽培における播種作業を無人で実施することも試みられています。
経営全体の所得や利益の増加に期待
スマート農業に期待される効果は様々ですが、その具体例としては、①自動化農機やドローンによる省力化、②自動操舵など運転支援技術を活用することによる従業員の技能向上と作業の高精度化、③収量コンバインによる圃場別収量データやドローンによる生育データを活用した栽培管理(品種・作型の再配置)および可変施肥による収量向上、④局所施肥や部分散布などによる環境負荷軽減と低コスト化、などがあります。
そして、これらの技術と、新たな栽培技術導入や圃場条件の改善等を組み合わせていくことで、経営全体の所得や利益の増加が期待されます。
データを活用する農業の展開
スマート農業は、一般的には、ロボットトラクターやドローンなどスマート農機が注目されがちです。そして、そのような機械の導入には多くの経費がかかるので、スマート農業は高コストであるという印象を持たれている方も多いと思います。しかし、例えば、直進アシスト田植機などは、慣行機に比べおおむね50~70万円程度の価格上昇であり、すべてのスマート農機が高額ということではありません。
また、そのようなスマート農機の利用に加え、スマート農業のもう一つの側面である「データの活用」という点をもっと重視していいように思います。
日々の営農活動の中で各種の作業の実施状況や資材の投入、作物生育に関わるデータを記録し、それらを分析して経営改善を進めていくこともスマート農業です。その際、パソコンやスマホを用いて、自分の目的に合ったデータを中心に記録していくという方式であれば、必ずしも多くの経費はかかりません。
茨城県の実証では、収量コンバインで圃場別データを収集し、それらをもとに品種や作型を再配置することが行われています。また、品種ごとに移植時期を設定すると成熟期が予測できる栽培支援システムを用いて、収穫作業の平準化も意識しながら、適期に移植作業が終えられるような栽培計画の作成も実施されています(図1)。これらの取り組みを行ったある経営では、ドローンによる追肥の効果も加わり、作況補正値で2割を超える水稲収量の向上が実現できています。これにより、面積拡大と併せて、総生産量は約4割増加しました(図2)。このような技術は、圃場枚数が多く、規模拡大が進む中で作業期間も適期幅を超えるような状況にある大規模経営において、特に有効です。
注:本図は、栽培支援システムの活用のイメージを示したものである。なお、栽培支援システムについては、農研機構・農業環境研究部門のホームページにおいて説明を行っている
注:農研機構・スマ農成果ポータルサイト。なお、このページのデータ駆動型生産の有効性実証から引用し、加工を行っている
また、ロボット農機に比べると比較的安価な自動操舵システムや直進アシスト田植機など運転支援機能を有する機械を活用して、若い従業員の技能向上を図る取組みも実施されています。図3は、自動運転田植機と直進アシスト田植機を導入した経営におけるオペレーターごとの機械の稼働状況の変化を整理したものです。この図に示すように、2020年には、従業員は自動運転田植機を担当していましたが、それによりノウハウを習得した翌年には、慣行機を用いた作業が半分以上を占めるようになっています。これらは人材育成へのスマート農機の活用という点で注目されますが、この技術は、特に、家族を中心に展開してきた農業経営が、規模拡大が要請される中で、若い従業員を新たに雇用してそれに対応していこうとする場合に有効な技術と言えるでしょう。
注:清水ら(2023)「大規模稲作経営の規模拡大と作業構造の変化―100haを超える家族経営を事例として―」農研機構研究報告第14号、19-28より引用
なお、上記で紹介した経営では、先端技術の導入と併せて、農地の面的集積や作付品種の集約と団地化、水稲湛水直播栽培面積の拡大など、栽培技術や圃場条件に関しても新しい取組みが実施されています。スマート農業をより広くとらえ、データの積極的な収集・活用を図るとともに、既存の農業生産の仕組みも変えていくことが重要であり、それにより、地域・経営条件に合ったスマート農業技術の活用の仕方が見えてくるように思われます。