特に、農業用ドローン(以下、ドローン)を活用した水稲生産技術の確立について重点的に支援しました。
ドローンを活用した水稲生産技術の確立
近年、ドローンの活用が農業生産現場で拡大しており、水稲生産においてもドローンによる播種、追肥、薬剤散布と広く活用され始めています。特に、ドローンによる播種は移植栽培より労働時間が短く、規模拡大に役立つ技術であると考えられました。
そこで、坂東普及センターでは、ドローンによる水稲湛水直播栽培技術(以下、ドローン直播)に注目し、その労働時間削減効果と水稲の生育および収量の特性を明らかにしました。
●労働時間を約30%削減
ここに記載するドローン直播とは、代かき約3~4日後に水深約4cm程度湛水した圃場へ、鉄黒コート種子(株式会社華玉製)を乾籾相当で4kg/10aドローンで散播する栽培方法を指します。
通常、慣行の移植栽培の労働時間は作業人員3名で10aあたり約12分かかりますが、ドローン直播は作業人員2名で10aあたり約8分となり、除草剤散布を含む労働時間を約30%削減できることがわかりました(図1)。
2022年、坂東普及センター調べ
注1)作業時間の計測は「ドローン直播+ドローン除草剤散布」が圃場面積36a、「自動操舵システム付き田植機+ドローン除草剤散布」が圃場面積34aで行った
●移植栽培より多収になる可能性も
坂東普及センターは、2020年~2022年の3年間に渡りドローン直播の生育と収量の特徴を調査しました。その結果、移植栽培と比較して、草丈は同等から短く、茎数は同等から多く、葉色は同等となりました。写真のとおり、ドローン直播の生育は、移植よりもバラツキがありますが、移植栽培と遜色ない生育量が確保でき、収量はドローン水稲湛水直播が551kg/10a、移植栽培が574kg/10aと移植栽培と比べて遜色ない収量となりました。
特に、ドローン直播の生育の大きな特徴は、移植栽培より茎数は多くなるものの穂数は同等で、有効茎歩合が低い点です。言い換えれば、栽培管理によって有効茎歩合を高めることができれば、移植栽培より多収が得られる可能性があります。
注)撮影日は2020年7月5日。品種は「ふくまるSL」
●費用対効果とドローン導入診断フロー
ドローン直播の費用対効果を検証した結果、経営面積を維持して本技術を導入する場合、40ha以上の作業面積があれば費用対効果が高まることが明らかとなりました。このことから、現在の経営面積や今後の規模拡大を勘案し、技術導入の是非を判断する必要があると推察されました。この結果を「水稲生産へのドローン導入診断フロー」(図2)として取りまとめました。
また、今後の規模拡大の目安に応じて、ドローン直播と移植栽培の面積を判断できる「ドローン水稲湛水直播・移植面積割合早見表」を作成し、現在その活用について検証をすすめているところです。
残された課題と今後の対応
●ドローン直播の収量確保に向けた栽培条件の検討
ドローンを活用した水稲生産技術の確立について重点的に指導した結果、ドローン直播は移植栽培より労働時間を削減でき、移植栽培と同等の収量が得られることが実証されました。今後、本技術を普及するにあたり収量確保に向けた栽培条件の検討が必要です。
まず、苗立数確保のポイントを整理する必要があります。これまでに、播種後の低温や落水処理の未実施で苗立ち不良となることがわかりましたが、技術確立に向けて詳細な検討が必要と考えられます。次に、前述のとおり、ドローン直播は移植栽培より有効茎歩合が低い特徴があるため、その改善に適した栽培方法、例えば追肥重点型の施肥法や水管理技術等を検討する必要があると考えられます。