有機農業は、化学合成された「農薬」や「化学肥料」を使わないだけの農法ではありません。「有機農業の推進に関する法律」第3条では、有機農業とは「農業の自然循環機能を大きく増進し、かつ、農業生産に由来する環境への負荷を低減するもの」であるとされており、地域の環境を保全し、次世代につないでいく営みであるとも言えます。
茨城県の有機農業関連事業
国は、2021年度に「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに有機栽培に取組む耕地面積の割合を25%まで拡大する意欲的な目標を打ち出しました。
茨城県では、2019年度に「いばらきオーガニックステップアップ事業」を創設以降、県北地域における大規模有機モデル団地の整備等に取り組んできました。その結果、2023年6月現在、常陸大宮市三美地区を中心に大規模有機モデル団地が形成され、その面積は約20haに拡大しています(写真1)。
また、今般の肥料価格の高騰を大きな機会としてとらえ、さらなる有機農業の拡大に向けて、2022年6月「いばらきオーガニック生産拡大加速化事業」を創設し、生産性向上を図る機械の導入等を進めました。
こうした中、昨年度は「JAやさと有機栽培部会」が、生協等の消費者団体との連携や、有機農業を目指す就農者への研修から就農後まで「地域一体でサポートする」体制、さらには学校給食等への有機農産物の提供などの先駆的な取組が評価され、日本農業賞大賞を受賞するなど、全国的にも本県の取組は注目を浴びています。
今年度は、本県の有機農業を一層強力に推進するため、有機農業に係る支援をパッケージ化し、「有機農業推進関連事業」として以下の5つの事業を展開しています。加えて、6月には有機農産物の需要拡大に向けて、内容成分等の特長を把握する事業を創設しています。
●有機農業のモデル団地育成支援
県北地域を対象に、大規模有機モデル団地の整備に必要なパイプハウス等の資材の購入や農業機械等のリース導入を支援します。
中山間地が多い、県北地域において農業の収益を増加させるには、付加価値と生産性の向上が課題となります。この課題の解決のため、県北地域で有機農業を原動力にした「儲かる農業」の実現を目指します。
●地域における有機農業産地づくり支援
地域ぐるみで有機農業を推進する市町村等の取組を支援します。
具体的には、地域の有機農業の拡大に向けた「有機農業実施計画」の策定やその実現に必要な試行的な取組(栽培技術講習会、有機農産物の学校給食での提供など)を支援することで、生産から消費まで一貫した取組を進める先進的な市町村(オーガニックビレッジ)の創出を目指します。
●有機農産物の供給能力向上支援
生産した農産物を「有機」「オーガニック」と表示して販売するためには、有機JAS認証の取得が必要であることから、認証の取得を推進しています。
規模拡大や生産性向上を目指す有機JAS認証取得者および新規取得予定者等を対象に、有機JAS認証の取得費用や、生産拡大にむけた機械等の導入費用を補助します。また、新たに有機農業に取り組む、または面積を拡大する意欲的な生産者を支援します。
●生産・需要拡大支援、有機農業の指導人材育成
本県の有機農業を生産・消費の両面から振興するため、研究・生産・実需・消費・行政の代表による有識者会議、生産者による生産サブネットワーク、実需者によるサブネットワークで構成される「いばらきオーガニック推進ネットワーク」を運営します。
また、茨城大学、茨城県農業総合センターによる、生産現場の課題解決のための試験研究を2019年度から実施しています(写真2)。
さらに、農業改良普及指導員等を対象に、有機農業指導員研修を実施することで、県内全域の有機農業指導体制の充実を図ります。
●土づくりの推進支援
有機農業の拡大に当たっては、地力の維持・増進のため、堆肥や緑肥等の有機物等の施用による土づくりが不可欠あることから、堆肥や緑肥等の実証的な活用を支援することにより、生産体制のより一層の強化を図ります。
●有機農産物の内容成分分析
有機農産物と一般農産物の内容成分の違いについて、県内で有機農産物として多く生産されている品目を対象に、生活習慣病や老化の要因となる「活性酸素」を抑制・除去する「抗酸化物質」の含有量などの分析調査を行い、有機農産物の需要拡大につなげます。
推進目標と実績
県では、2022年3月に第3期有機農業推進計画を策定し、2025年までに、耕地面積に占める有機栽培面積の割合を1.0%、有機JAS認証取得件数を158件、また、2027年までに有機JAS認証取得面積を560haにする目標を掲げ、生産・販売・流通の視点から支援を実施しています。
これまでの取組により、2021年度実績では、事業開始の2019年度比で、耕地面積に占める有機栽培面積の割合が114%、有機JAS認証取得件数が103%まで拡大しました。
県では引き続き、市町村や農業団体、販売・流通業者、消費者団体等とともに、本県における有機農業の取組拡大を積極的に推進してまいります。