ナシは、JA常総ひかり下妻梨共同選果場(令和5年度部会員数86名)を中心に、県内有数の市場出荷型産地を形成しており、高齢化により部会員数が減少する中、様々な生産振興、ブランド力強化に取り組んでいます。今回は、以下の取組について紹介します。
- 1 担い手の確保・育成
- 2 県育成オリジナル品種「恵水」の高品質安定生産
- 3 高樹齢園地の若返り(改植)のための大苗育成
- 4 高品質を付加価値とする差別化商品づくり(「下妻甘熟梨」「輝」「特選恵水」)
- 5 東南アジア、米国への輸出
担い手の確保・育成
令和4年度から、県内で開催される就農相談会に、下妻市果樹連として積極的にブースを出し、就農希望者の確保に努めています(写真1)。確保人数の実績はまだ少ないですが、今年度は、就農相談会をきっかけに、1名の方が他県から下妻市に移住し、ナシでの独立就農を目指すことになりました。
また、近年は、ナシの雇用就農を希望する若手も増えています。下妻市果樹連には、常時雇用を導入する大規模経営体が誕生しており、雇用就農希望者の受け皿になっています。現在、4名の方が大規模経営体の元で雇用就農または研修を行っています。
就農希望者に対しては、下妻市果樹連、JA、市、県が一丸となって、産地見学会(写真2)を開催し、実際のナシ圃場や選果場を見てもらうとともに、生産者の生の声を聞いてもらい、就農のイメージがしやすくなるようにしています。
新規就農希望者にとって、独立就農、雇用就農のどちらを希望する場合でも、研修先の確保が最初のハードルになります。さらに、独立就農の場合は、圃場や作業場の確保、雇用就農する場合には、就農先を見つけることが次の大きなハードルです。そこで、JAでは、このハードルを越える支援を行うため、部会員全戸を個別に巡回し、対面でのアンケート調査を行いました。各部会員の今後の規模拡大、縮小についての意向や、縮小する場合の園地および機械、倉庫の貸し出しの可否、就農希望者の研修受入れの可否等の項目について聞き取り、新規就農希望者の受入れに向けた情報の整理を行っており、今後の担い手確保、育成の体制整備につながることが期待されます。
県育成オリジナル品種「恵水」の高品質安定生産
高単価、多収が期待できる「恵水」の導入を進め、会員の所得向上を目指しています。
「恵水」は、摘果等の栽培管理において、従来の主要品種である「幸水」とは異なる点があります。普及センターでは、茨城県農業総合センター園芸研究所の研究成果と、現場での栽培における知見をまとめた栽培マニュアルを基に、下妻市果樹連の栽培講習会で栽培技術の周知徹底を図り、高品質安定生産を推進しています。特に、「恵水」の適期収穫は、高品質果実を消費者に安定供給するための重要な技術です。適期を逃さず収穫するため、県園芸研究所で開発した、生育期の一定期間の平均気温から収穫始期を予測する技術を活用し、県全体での収穫適期目揃会に加え、下妻市果樹連でも、改めて目揃会を開催しています。消費者、実需者に間違いのない商品を届けようという意識や取組が信頼につながり、ブランド力の強化となるものと考えます。
普及センターでも、収穫適期の予想や、高品質安定生産技術について、引き続き指導・支援をしていきます。
高樹齢園地の若返り(改植)のための大苗育成
担い手の高齢化と同様に、ナシの高樹齢化も進んでおり、古い樹を若い樹に改植することが大きな課題になっています。ナシの樹は、植えてから数年間は収穫ができないため、改植に伴う未収益期間を少しでも減らそうと、下妻市果樹連では、産地内に大苗育成施設(写真3)を設置し、苗木を1年間ポット育苗しています。大苗は、通常の1年生苗木に比べ、本圃に定植後、収穫までの年数を短縮することができます。
育苗にかかる経費は一部下妻市果樹連が負担し、産地として大苗による改植を推進しています。大苗の注文本数は年によって変動がありますが、おおむね200~500本の大苗を毎年育成しています。普及センターでは、苗木の生育状況に応じた栽培管理について、管理を担当する部会員と連携を密にして、大苗育成に対しての助言等を行っています。
高品質を付加価値とする差別化商品づくり(写真4)
「下妻甘熟梨」は、流通に日数を要する一般の市場出荷ではなかなか実現できない、より完熟に近づけたナシの味を消費者に届けたい、という思いで開発された商品です。下妻市果樹連、JA、普及センターが検討を重ね、「専用の圃場を設けて統一の肥料資材を使用」「通常のナシより収穫までの日数を確保する」等のいくつかのルールを定めて栽培しています。
「輝」は、選果場に導入した光センサーによって糖度保証を行い(Brix13%以上)、市場からの注文に応じて特別の箱で出荷しています。
「特選恵水」についても、糖度13%(Brix)以上、大きさ5L以上の大玉、外観に秀でているもの、という基準を満たした果実を別商品として箱詰めし、東京の果実専門店等に出荷しています。
左から、「下妻甘熟梨」「輝」「特選恵水」
東南アジア、米国への輸出
ナシの輸出は、平成25年にタイで行われた国際展示会に出品して、食味アンケートを行ったことから始まりました。アンケート結果から、「海外でも売れる」という感触が得られたため、タイ、シンガポールに少量ずつ輸出を開始し、平成29年からは、輸出が解禁されたベトナムへの輸出を開始。翌平成30年には、約150tの輸出量を達成しました。令和元年からは、新たなマーケットとして、米国向けの輸出も開始しており、今年度も輸出を計画しています。
消費者に美味しいナシを届けたい
今回紹介した5つの取組以外にも、下妻市果樹連では、生産振興、ブランド力強化のために、多くの取組を行っています。
ブランド(=信頼)は、一朝一夕に得られるものではありません。生産者をはじめとする関係者の、「消費者に美味しいナシを届けたい」という思いを、栽培管理や厳しい選果の徹底等の取組につなげ、産地としての信頼をさらに高め、個々のナシ経営もさらに魅力的なものになるよう、産地一丸となって取り組んでいきます。