生物工学研究所では本県オリジナルナシ品種を育成するため、平成5年に育種を開始し、現在も継続中です。本稿ではこれまでの本県における育種経過および育成品種について紹介し、将来を見据えた育種研究の方向性について触れていきます。
オリジナル品種「恵水」の育成
中生の主要品種である「豊水」は、気候条件等により生理障害である‘みつ症’が発生し、品質低下による単価低迷が経営上の課題となっています。このような背景のもと、みつ症の発生が少なく、大果・良食味な品種を目標として育種に取り組み、本県オリジナル品種「恵水」を育成しました。「恵水」は平成6年に大果の晩生品種「新雪」と良食味の早生品種「筑水」の交配組合せで実生を獲得し、平成11年に初結実、平成16年に「生研2号」として選抜しました。平成19年から「ひたち2号」として現地適応性試験を開始、平成21年に品種登録出願し、平成23年に品種登録されました(登録番号21253号)。
「恵水」の収穫期は9月上~下旬、平均果重600g前後と大果であり、糖度は13%前後と高く、酸味が少なく甘みが強いのが特徴です。県内の普及面積は38.6ha、出荷量は65t(いずれも令和4年)となり着実に普及が進んでいます。また、「恵水」は県のブランド化推進の重点品目に設定されており、令和4年には‘幻の恵水プロジェクト’として1果重1kg以上、糖度14%以上で外観が美しいことという基準で高級果実生産の取り組みが行われ、高級果実店において1玉1万円で販売されました。このように「恵水」はトップブランド品種として活用されており、本県産ナシの知名度向上に貢献しています。
黒星病抵抗性品種の育成
ナシ黒星病はナシ栽培における最重要病害です。本県では黒星病抵抗性在来品種「巾着」を素材として平成5年から育種を開始、DNAマーカーの開発とそれを用いた選抜と交配を繰り返し、栽培試験で優良な成績を得た2系統について令和2年に「ひたち3号」「ひたち4号」としました。令和3年より生産者圃場にて現地適応性試験を開始、令和4年に「ひたちP3号」「ひたちP4号」の品種名で品種登録を出願、同年に出願公表となりました。
この2品種は殺菌剤無散布圃場においても病徴を示さず(写真)、十分な黒星病抵抗性を有しているとともに、食味や果実品質に優れており、実用性を持つ画期的な黒星病抵抗性品種候補として期待しています。
「幸水」は萎れや落葉が目立つが、「ひたちP3号」は無病徴
出荷時期は8月下旬~9月上旬(「幸水」と「豊水」「恵水」の間、図)であり、主要品種の間を埋めることとなり経営的にもメリットがあるため、早期の種苗供給と普及にむけて体制を整える予定です。
※時期は笠間市安居で栽培の場合の目安
将来を見据えた育種研究
近年の激しい気象条件や生産者の高齢化など、ナシ生産を取り巻く状況は今後さらに厳しくなることが予想されます。品種育成は10年以上先を見据えた目標の設定が必要となりますが、本県では現在、気象変動に対してはみつ症非感受性品種、生産者の高齢化に対しては、人工授粉の手間を必要としない自家和合性品種の育成を進めています。また、今後リリースする品種はすべて黒星病抵抗性を有することを前提としており、育種のレベルとしては一段上がったステージに到達したといえます。
これからも引き続き産地における問題を把握し、関係者と情報共有を行いながら育種を進めていきたいと思います。