2023年8月、園芸研究所が(株)オーレック(福岡県)と共同開発した国内初の自走式クリ収穫機械が発売されました。今回は開発段階の実証試験で得られた結果と、クリ収穫機械の普及に向けた取り組みについて紹介します。
小型で小回りが利き、草刈もできる
今回発売された収穫機械(写真1)は、小型で、小回りが利き、圃場でも作業しやすく、移動時に軽トラックに積載することが可能です。加えて、作業機を付け替えることで草刈機としても使用できることも大きな魅力です。
収穫率は毬(イガ)が90%以上、果実では70%以上
まず、収穫機械を使用し、毬と果実の収穫率を調査しました(図1)。園芸研究所のクリ圃場において、8月上旬に草刈りをした後、9月に毬・果実の密度が異なる10区間(1区画10m2)で調査を行いました。
その結果、圃場内に落ちていた毬の90%以上を、果実は70%以上を収穫できることが明らかになりました。なお、拾い残した果実の収穫方法については今後検討する予定です。
※試験区画は1区画10㎡
機械で収穫した果実の品質評価
機械で収穫した際に、クリの果実表面に傷(スレ)がつくことがあります。そのため、機械で収穫後、毬を手剥きと毬剥機で調整した果実について品質評価を行いました。
写真2の果実外観の品質評価基準に従い調査した結果、機械収穫による傷は、90%以上が無傷または、果実表面のわずかなスレでした(表1)。
さらに、機械収穫した果実を1か月間貯蔵した後の内部品質を調査したところ、「石鎚」「美玖里」では手収穫と比較して果実内部に差がないことがわかりました(データ省略)。その他の品種については、今後も調査を継続していく予定です。
品種 | 作業手順 | 無傷 | わずかなスレ | やや目立つスレ | 商品価値なし |
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美玖里 | 収穫機械+手剥き | 71 | 21 | 3 | 5 |
収穫機械+毬剥機 | 59 | 34 | 3 | 4 | |
筑波 | 手収穫+手剥き | 93 | 7 | 0 | 0 |
収穫機械(美玖里)と手収穫(筑波)で毬を収穫後、手剥きと毬剥機それぞれで毬剥きした果実の品質評価を行った。評価した果実数は、いずれも100果
収穫作業時間の削減効果
機械収穫と従来の手収穫の収穫作業時間について、比較検証しました。収穫期に9回収穫する想定でシミュレーションを行ったところ、収穫時間の合計が手収穫では12.7時間/10aであるのに対して、機械収穫では4.5時間/10aになり、約65%削減できる見込みとなりました(図3)。
シミュレーション条件設定:面積10aの圃場を9回収穫
手収穫:30~50代男性1人がトングを使用して、休まずに収穫
機械収穫:BXC800ギア3(分速48m)で収穫
クリ収穫機械の実演会開催
収穫機械の発売に先立ち、令和5年4月27日に茨城県農業総合センター園芸研究所にて実演会を開催しました(写真3)。クリ生産者と関係者約80名が参加し、収穫機械による収穫実演と、実証試験データについての検討を行いました。
参加者からは、クリの収穫機械による作業の効率化と生産拡大を期待する声が聞かれました。
関係機関が連携し、普及に向けた課題解決
今回発売されたクリ収穫機械を実際のクリ収穫作業で使用する場合、次のような課題が想定されます。
・毬はほぼ機械収穫できるが、拾い切れなかった果実はどうすれば効率的に収穫できるか?
・機械収穫した果実の内部品質は品種を問わず大丈夫か?
・単位時間当たりの収穫量など実際の収穫能力はどうか?
・機械収穫に必要な機器類や作業人員など実際の作業体制はどうすれば効率的か?
このような課題解決には、生産現場とともにスピード感を持って取り組む必要があります。
そこで、農業総合センターでは、『クリ機械収穫に係る技術体系化チーム(R5~7年度)』を結成し、収穫機械導入経営体と農業改良普及センター、園芸研究所、専門技術指導員室が一体となり、連携して普及に向けた課題解決に取り組むこととしました(図4)。
まずは、加工用途向けクリ生産の経営体をモデルに実証試験を行いながら、クリ収穫機械を利用した作業体系の確立を目指します。さらに、収穫機械を導入した場合の経営指標を作成するとともに、生産規模拡大に伴う適正規模の解明など経営面についても検討を重ねる予定です。最終的には、機械収穫マニュアルを作成し機械収穫の普及、併せて作業の省力化・経営規模拡大による儲かる農業の実現を図っていきます。