今回は、大玉トマトの高品質・安定生産の現地事例として、県内トップレベルの収量をあげている促成長期栽培のトマト専作生産者のスマート農業技術の活用や高温対策および病害虫対策等の取り組みを紹介します。
炭酸ガスの自動施用
炭酸ガスは、その利用効率を高めるためダクトを用いて株元への局所施用を行い(写真1)、ハウス内濃度450ppm程度を目標に9時~15時に施用しています。その結果、空洞果が減少し、果実の高品質化につながっています。また、ハウス内の炭酸ガス濃度は外気の炭酸ガス濃度(400ppm程度)よりも低いため、ハウス内への外気導入も行っており、そこに炭酸ガスを加えることでコスト(炭酸ガスを発生させるための燃料代)を抑えています。
炭酸ガス施用を行うと、樹勢が強くなりすぎ、糖度が落ちてしまうことがあると言われますが、生長点付近の茎径等により樹勢を判断しながら、ハウス内温度や肥培管理等を調節し、樹勢を適切に管理することにより樹勢や着果も安定し、炭酸ガス施用を導入しても糖度は落ちず、果実の品質向上につながっています。炭酸ガス施用と外気導入を組み合わせることで、低コストで光合成効率を高めることができるため、生産コストを抑えながらも品質を落とすことなく、収量向上を可能としています。
夏期における高温対策
●夜間冷房
着果負担が大きくなってくる梅雨明け(3~4段開花)から夜温が17~18℃程度に下がる9月中下旬頃の期間に高温対策として、ヒートポンプを用いた夜間冷房を行っています(写真2)。19時~3時に実施し、ハウス内温度を20℃前後に維持しています。
夏期は日平均気温が高く樹勢を維持することが難しいですが、夜間冷房によりハウス内温度を下げて呼吸速度を抑え、夜間の糖の消費を抑えることができるため、比較的樹勢を維持することができています。このことが、夏後半~秋にかけての安定生産につながっています。
●株元への外気導入
前述したように、炭酸ガス施用のダクトを兼用し、株元への外気導入を行っています。夜間冷房をしている時間帯は、冷房効率の面から行っていませんが、基本的に1日中行っています。導入する外気は、U字溝から吸い上げることにより、冷たい空気を取り込んでいます(写真3)。外気の湿度はハウス内の湿度よりも基本的に低いため、外気導入により、より低い湿度の空気を株元に取り入れることができ、株元の環境が改善して病害の発生が減少しました。
また、夏期においても通常よりやや低めの420ppmを目標に炭酸ガス施用して、日中の光合成促進を図り、樹勢の維持につなげています。この際に、燃焼式の炭酸ガス施用だけではハウス内温度が上がってしまいますが、外気のハウス内導入と組み合わせることにより、春~夏のハウス内温度を上げにくくするというメリットもあります。
病害虫対策
●土壌病害虫
トマトの高品質・安定生産のために、最も基礎となる部分です。ネコブセンチュウや萎凋病やかいよう病などの土壌病害が発生してしまうと、収量を大きく減らすことになるため、徹底して対策を実施しています。
化学農薬である土壌燻蒸剤は使用せず、ハウス圃場の地下水位が高いことを最大限に利用し、米ぬかと深耕ロータリーを活用した深層還元型太陽熱土壌消毒を実施しています。ハウス内を湛水状態にした上で、さらにレンコン用の代かき機を利用する独自の方法で、より消毒効果を高めています(写真4)。
●地上病害虫
ハウス開口部に防虫ネット(0.4mm目合い)を展張し、アザミウマ類やコナジラミ類等の侵入防止対策を実施しています。また、ハウス内外の除草の徹底や葉かき後の残渣の早期片付け、循環扇や外気導入装置を導入し、ハウス内に風の動きを作ることにより、病害が発生しにくい環境づくりを心がけています。
気象変動にも対応した技術
これらの取り組みにより、近年問題となっている夏期高温条件下でも、例年並みの生育・収量を確保されています。今後もデータを活用した環境制御技術により、気象変動に対応しながら周年を通した顧客への安定供給が期待されます。