常陸太田市の栗原農園は、緑豊かな環境の中で、約1haの水耕栽培施設で小ネギやサラダ用葉物野菜を周年栽培し、多チャンネルで販売しています。併せて、地域に根ざした水稲部門と、新規の加工部門も経営しており、従業員は約30名です。
代表取締役の栗原さんは、農園2代目で経営理念『おいしく楽しく 野菜とお米で笑顔に!』の実現に向け、顧客や働くスタッフなど、係わるみんなが笑顔になる経営を目指しています(図1)。近年、さらなる経営発展に向けて、これまでの顧客を大切にしながら、新たな商品開発やSNSを活用した販売にチャレンジしてきました。栗原さんが、新たな取り組みに際し、どのような改善と工夫を実践されてきたか、そのポイントについて講演をしていただきましたので、紹介します。
人と自分を活かす環境づくり
まずは、「雇用環境を整える」ことから始めました。具体的には、各自の役割分担を明確にし、業務を任せていき、作業のマニュアルも作りました。そして互いに成長を確認できる人事評価制を導入し、スタッフが個性を活かし働けるよう意識しました。
また、皆が「安心して働ける環境づくり」のために、給与やボーナス、手当の査定を充実させたり、有給休暇の完全取得を進めるなどの給与や休日の条件を整備しました。これにより、各スタッフがやりがいを持って、自ら考え、また安心して働き続けられる職場環境を整えていきました。
併せて、事務作業の効率化に取り組みました。時間のかかる事務や書類作成から脱却するために、会計管理は専用アプリの活用と外注によるリモート管理とし、労務管理は専用アプリにより自動化を進めるなどし、事務の大幅な省力を実現してきました。
これらの取り組みの結果、栗原さん自身が現場を離れていても、社員を中心に現場が自走する体制を作ることができました。そして、栗原さんが新たな構想にチャレンジする環境づくりにも繋がりました。
商品に新たな価値を創る!
人件費、資材費の増大する経営環境の中、利益向上には、生産コストに見合った売価交渉や販売先の確保・選定が必要です。この対策として栗原さんは、自社でコントロールできる部門を増やしていくこと、つまり、「オリジナルの商品や販路を持つこと」が重要であるとし、自社主要品目の小ネギを活用した加工品ネギキムチの開発に動き始めました。
栗原さん自身は、調理師免許を持っており、「よりおいしく、小ネギを食べてもらいたい」その一心で1年の歳月をかけ、新商品『栗原農園のネギキムチ』を開発、2022年4月に販売を開始しました(図2)。同年開催の「いばらき農の6次化商品コンテスト」では、素材の良さを引き出す調理法と様々な食べ方を考えられるメニュー提案のパッケージが評価され、特別賞を受賞しました。
「発表スライド」より
開発面で意識した点は、おいしく楽しくの経営理念にあっているか、自社商品である米・サラダ野菜との親和性が良く自社商品に新たな価値を創り、強みを活かすことができるか、利益率を上げるためのシンプルな工程を実現できるか、などでした。
販売面では、キムチの試作段階から、現在のお客様の評価や需要を伺い、PR活動を行い、販売初期からの売上確保を目指してきました。また、新たな販路確保に向けて、商品のコンセプトに合った県内の飲食店や精肉店、惣菜店等に営業を行いました。県外向けには、オンライン販売機能の充実と体制強化とともに、SNSを活用したPRを行いました。SNSでは、栗原さん自身が、小ネギやキムチの作り方や美味しい食べ方を細やかに実演し発信しています。その効果もあり、フォロワー数や動画再生回数は回を追うごとに増大しており、県を超えて幅広なPRにつながっています。
これらの取り組みによって、『栗原農園のネギキムチ』の販売実績は、着実に増加しているところです。
雇用環境やバックオフィスを整えることが大切
栗原さんの想いは、「小ネギを使ったネギキムチを日本の定番にすること、併せて他の自社商品の購買層も広げていくこと」です。引き続き顧客確保を行いながら、効率的な生産体制を整えるため、新加工施設の建設も視野に入れたいと語っていました。
「自分の想いを実現するには、まず雇用環境やバックオフィスを整えることが大切」と語る栗原さんの取り組みは、後に続く若手農業者に大変参考になる事例になったことと思います。柔軟な姿勢で改善を繰り返し、今後の経営発展を目指していく栗原さんに、講演後には、期待を込めた大きな拍手が送られました。