第4分科会では、結城郡八千代町で水稲60ha、麦15ha、トマト3aを栽培している平塚ライスセンター代表の古谷光義さんを講師にお招きしました。大手農業機械メーカーが開発した圃場管理システムを開発の初期段階から導入し、ITCを使った高品質なお米の栽培に取り組んでいます。
就農まで
古谷さんの祖父は、平塚水稲作協業組合の初代組合長として、平塚ライスセンターを設立しました。当時は、地域に農協のライスセンターがなかったため、国からの助成金を獲得して自分たちで米の乾燥調製施設を建設しました。古谷さんは、大学卒業後、水稲作業のオペレーターとして平塚水稲作協業組合のメンバーに加わりました。
圃場管理システムの導入まで
今から約13年前の2010年頃までは、カレンダーの裏に地図を書いて、圃場ごとに日々の農作業記録を書き込んでいました。その後、平塚ライスセンターが管理する田畑の枚数が急激に増えてきたため、パソコンでなんとか農作業の管理ができないかと考えて、当時コンピューター工学の大学に通っていたご子息に大学の教授を紹介してもらい、授業の一環として、2年かけて栽培管理のソフトを作ってもらいました。
その後、大手農業機械メーカーから、圃場管理システムの紹介があり、システムと農業機械が連動できることを聞いて、2012年の6月にシステムを導入しました。システムの導入は、全国でも古谷さんが最初の段階だったそうです。初めはモニターとして収量コンバインを導入し、圃場1筆ごとの収量やタンパク質などのデータを取得しました。その後も、開発担当者にシステムの改良点や使用感についての助言を続け、現在の圃場管理システムの開発につながっています。現在は収量コンバインのほか、システムと連動する直進アシスト付田植機や乾燥機を導入し、毎年、栽培管理のデータ収集を続けています。
栽培データを肥料設計の見直しに活用
コンバインで取得したデータは、作業後にパソコンの画面で見ることができます。例えば、収穫した圃場ごとの収量やタンパク質が、あらかじめ設定した基準値以内に入っているか確認できます。基準値から外れた圃場については、翌年の栽培管理の改善に活用しています。
ある年、蓄積したデータをもとに肥料設計を見直したところ、翌年には、おおむね基準値内におさめることができました。ただし、毎年新しく借りた圃場は前作の肥料設計がわからないため基準値から外れることがあるので、圃場ごとに10aあたり5kg~10kgぐらいの範囲で施肥量を変えています。あらかじめ、パソコンで圃場ごとの施肥量を設定しておくと、田植機にデータが送られて、自動的に可変施肥が行われます。これらのデータはすべてパソコン内に記録されるため、栽培履歴として販売先に提供することが可能です。
自分で作ったお米がコンビニ弁当に
古谷さんのICTを活用した栽培管理の取り組みが大手コンビニエンスストアに伝わり、令和元年からお米の販売取引が開始されました。まだそれほど量は多くはないのですが、一昨年前に古谷さんのお米を使った22種類のお弁当がコンビニエンスストアで販売されました。このような経験が古谷さんの栽培意欲をさらに高めています。
ICT活用は、圃場登録などそれなりに労力がかかるため、導入した2年目くらいまでは、途中でやめようかと思ったこともあるそうですが、3~4年目以降は効果を実感するようになり、その後も継続して取り組みを続けた結果、販売先からの評価にもつながっています。
新しいことに意欲的に挑戦を続ける
古谷さんは、スマート農業やICT農業といった言葉がまだ世間に浸透する前から、農業機械メーカーに協力し、試行錯誤でICTの取り組みを続けていました。その結果、システムの改良が重ねられて、現在、日本中で広く使われるシステムになりました。
そういう意味で、古谷さんは茨城県から誕生したICT農業のパイオニアと言っても過言ではありません。現在も新たにトマト栽培に取り組むなど、新しいことに対して意欲的に挑戦を続けています。古谷さんの今後の活躍に期待しています。