「対話型事業承継」では、第三者が質問を繰り返すことで、頭の中だけにある考えをアウトプットしていきます。それはつまり、言語化するということになります。
言葉にすることで頭の中が整理される
これまでは頭の中で完結するのみで良かったので、言語化する必要性もありませんでしたが、いざ言語化するとなると、最初のうちはきれいな文章にはならないものです。しかし、色々な質問を受けていくと、どんどん頭の中が整理され、曖昧だった事業承継に対する考えがどんどんブラッシュアップされ、輪郭がはっきりしていきます。質問の仕方を変えたり、違う人に質問をしてもらったりする工夫も良いかもしれません。また、時間の経過とともに考えが変わることもよくあることですので、日を空けて同じ質問に答えてみるというのもよいでしょう。これを繰り返していくことで、事業承継に関する考えがはっきりとしていくはずです。これは青年部や4Hクラブ、部会など、みんなでやるとさらに相乗効果が発揮されると思います。
対話の相手は、経営者と後継者で行うのもよいでしょうし、いきなりそれは難しいということであれば、両者の事情を知っている親族や従業員でも、あるいはJAや行政の職員など頼れる方にお願いしてみるのもよいでしょう。
「それはわかったけど、なかなか話を切り出すきっかけが難しくて~」という声もたくさん聞いてきました。きっかけに正解はないわけですが、「親父が70歳」「息子が30歳」などと節目の年齢になるタイミングや、結婚や出産などのライフイベント、「さらなる規模拡大に向けて7条のコンバインを導入だ」などの大規模な設備投資のタイミング、「身近な人の死や自分や家族の健康診断」などのタイミング、お家騒動などのニュースを見聞きしたタイミングなど、なんでもきっかけにできるのではないかと思います。「きっかけがないから進まない」ということは、「きっかけがあれば進む」ということではないでしょうか。結局のところ、きっかけというものは皆さんの心ひとつで決まるものです。
みんなでやるという空気感
事業承継は個々の経営体それぞれの課題です。しかし、直接的なメリットも乏しければ、即効性もなく、ゴールも見えにくく、相手(自分一人で完結できない)がある話で、さらには別に取り組まなくても誰にも怒られないので、なかなか取り組むモチベーションを維持するのが難しい問題でもあります。だからこそ、みんなでやるという空気感が大事だと思います。例えば、JA青年部、4Hクラブ、認定農業者協議会、指導農業士、集落営農、部会といった感じで、既存の集団の取り組みの一環としてもよいのではないでしょうか。同じ世代、集落、品目など、共通項がある人々とであれば、「うちの親父は~」「まだ息子には任せられん~」というような事業承継あるあるで盛り上がること間違いなしです。しかし、大事なことは「愚痴リンピック」で終わらせないようにすることです。
不平・不満はきっと際限なく出てくることでしょう。そこで傷を舐め合っても仕方ないので、そこから「じゃあどうする?」という前向きな、建設的な話にもっていけるかが重要です。そのためには、例えばアンケートを取って、世代ごとの認識の違い、課題をはっきりさせることも必要でしょう。自分の親に言われたらイラっとして聞き流してしまうことも、隣の家のお父さんに言われたらスーッと腹落ちすることもあるので、そういった班分けをするという工夫も必要でしょう。北海道士幌町の畑作ゼミナールに所属する香西瑠理子さんの取り組みが素晴らしいので、興味のある方はぜひご覧ください。
第60回全国青年農業者会議地域活動部門【北海道】
第61回全国青年農業者会議地域活動部門【北海道】
私は、これらの活動を単発の取り組みで終わらせないために、全4回程度の継続した「事業承継講座」の開催を提案しています。参加条件は、経営者と後継者だけでなく、支援者(JA職員や普及指導員など)を加えた3者で参加することです。中には配偶者や孫が参加するケースもありますが、もちろんウェルカムです。
この講座では、今回出版した「書き込み式でよくわかる 農家の事業承継ノート」を順番にやっていきます。また、全農時代に開発した営農管理システム「Z-GIS」を使って、農地に紐づく様々な情報を整理し、引き継ぐ資産を明確化したりもします。受講者の皆さんからは、「4回と言わずもっと継続して定期的にやって欲しい」「この講座がなかったらこんな話し合いは絶対できなかった」「きっかけがないと思っていたけど、この講座がきっかけで前に進んだ」といった声を多数いただいており、手ごたえを実感しています。裏を返せば「きっかけがあれば進む」ということでもあります。茨城県内でもこういった取り組みが各地で展開されることを期待しています。