今回はその主な内容を紹介したいと思います。
譲れないことシート
これは経営者向けの内容です。経営者にとって譲れないことや大事にして欲しいことはきっとあるはずですが、それは本人以外にはなかなかわからないものです。実際に事業承継支援をしていると、見えない地雷を踏んでしまって話し合いがこじれることがよくあります。そういったことを回避するためにも、考えを整理して書いてみましょう。また、後継者や支援者が聴きながら書いていくことも有効です。もし、「譲れないこと」という表現がしっくりこなければ、「聞きたいこと」「教えて欲しいこと」と置き換えても良いと思います。意図としては、「コミュニケーションシート」と理解して頂けたらと思います。
あわせて「退く日」を考えてみましょう。そんなにすぐに決まらないという方は、退く日を「決める日」を決めましょう。嘘でもいいので、日付を区切ることでカウントダウン効果が生まれます。
気持ちを伝えるシート(BEFORE)
まず事業承継ノートに取り組み始める前に、経営者から後継者、後継者から経営者へ、この時点で感じていることをしっかりと伝える場を設けます。スタート時点では一体どんな結末が待っているかわからないわけですから、期待半分、不安半分でしょう。感じている気持ちをありのまま表現して欲しいなと思います。
ここは非常に重要な部分で、実際に私が支援するときには、1時間くらいかけて伝えあってもらいます。
さっそく実践してみよう!
●STEP①ルールを決めよう
ここからが実践のSTEPとなります。話し合いをスムーズに進めるために、当事者間で納得するルールを決めましょう。経営者と後継者は対等な関係なはずですが、どちらかが優位に立ってしまい、思っていることをすべて伝えられない、意見を言えないのではもったいないですね。それに関係性が近いことでかえって適切なコミュニケーションが取れないこともよくあります。
そして、支援者とのルールも考えてみましょう。実際の話し合いでは、その経営体の中の生々しい話がたくさん出てきます。こういった情報の取り扱いは、トラブルにつながる可能性もありますので、しっかりと決めておきましょう。
●STEP②ライフプランを立てよう
これはどちらかというと後継者向けの内容です。「継ぐ」「継がない」という話の前に、人生設計をどうするかということを考えてみる必要があるかと思います。結婚や出産、家を建てる話やリフォームも、介護の問題もあるかもしれません。ライフイベントや大きな出費を伴う買い物などをあらかじめ考えてみましょう。
●STEP③歴史やルーツを調べよう
歴史やルーツを整理するために、家族経営であれば家系図を、農業法人や集落営農等では沿革や社史等を確認してみましょう。「そんなものない」という方もおられるかもしれませんが、こういったものは何かきっかけがないと作らないでしょうから、これをチャンスと捉えて作成してみましょう。また、それ以外にも家訓や社訓、社是、家紋等、関連するものを調べてみるのも良いかもしれませんね。なぜ、どうしてこの事業がここまで続いて来たのかを知ることは、事業の永続性につながるはずです。
●STEP④農業経営を把握しよう
ここでは、農地や農機、資材、雇用、お金に関する情報など、農業経営に関係する様々な事柄について、列挙されている項目を順番に確認してみましょう。経営者にとっては当たり前のことでも、後継者にとってはわからないことだらけかもしれません。中には経営者の方も把握しきれていないことも出てくるでしょう。
一つひとつの確認作業を通じて、きっと多くの対話が生まれ、そこから得られるものもあるはずです。
●STEP⑤やることリストを整理しよう
実際に事業承継を進めていくにあたって、やることを具体的に考えていきましょう。恐らく全体を通じてここが一番大変な作業になるでしょう。第2回の記事で紹介した大谷翔平さんの目標達成シートの考え方がおすすめです。
まずは「生産」「販売」等の大項目をいくつか考えて、そこから枝分かれさせて、少しずつ具体的なものを考えていくといいでしょう。
●STEP⑥事業承継計画を作成しよう
いよいよラストは事業承継計画です。目標期限を設定し、そこにSTEP⑤で考えたやることリストをちりばめていきましょう。やることリストさえ整理できていれば、簡単です。ここで止まってしまうようであれば、STEP⑤に戻って、再度やることリストを考えてみましょう。その作業を何回も繰り返していきながら、みんなが納得できるものを創り上げましょう。
気持ちを伝えるシート(AFTER)
事業承継計画が完成した段階で、もう一度気持ちを伝えるシートの出番です。取り組む前に想像していた景色とはまた違う景色が見えているはずです。その心境を改めてお互いに伝えあってみましょう。
まだ見ぬ後継者の後継者へメッセージ
最後のおまけで、これも経営者向けの内容です。事業承継はバトンパスですが、この取り組みを通じて、経営者から後継者にバトンはしっかりと受け継がれるでしょう。そしてそのバトンはまた誰かに受け継がれる日が来るはずです。その時は間違いなく今よりも農業者は減少しているでしょう。
その中で継ぐかどうかという決断をしなければならないまだ見ぬ後継者の後継者、100年後の後継者に向けて、先代のメッセージを遺しておくことで、彼らの背中を押すきっかけになるのではないかと思うのです。