そのような中、近年では国内向けに留まらず、海外も販路の1つとして捉え、輸出に取り組む経営体が増加してきています。
そこで、鉾田市内のイチゴ生産者における輸出の事例を基に、取り組みの状況や生産者から見たメリットやリスク等について紹介するとともに、直近の新たな挑戦についても紹介いたします。
生産者が中心となってタイ向け輸出を開始
鉾田市のイチゴは以前から卸売市場等を介して、海外に販売されていました。2015年頃から、規模の大きい生産者が中心となって、タイ向け輸出(空輸)の取り組みを開始しました。
イチゴをタイ向けに輸出するには、梱包施設の審査や、生産する園地の登録など、生産者自らが必要な手続きを行わなければなりません。産地は手間が増えますが、将来を見据えて新たな販路を開拓するため、輸出にチャレンジしたとのことです。
品質の高さがファン獲得につながり需要が拡大
輸出に取り組んだ当初は、スポット的な販売に留まり、経営的なメリットはあまりなかったそうです。しかし、輸出を継続していくことで、品質の高さが理解され現地でのファン獲得に繋がり、新たな顧客を呼んで需要が拡大するという好循環が定着しました。
そして、海外での需要が拡大することにより、国内でのブランド力向上にもつながり、経営発展に結び付く取り組みとなってきました。現在、市内7経営体がイチゴの輸出に取り組んでいます。
一方で、輸出にはリスクを伴うことを注意しなくてはななりません。事前に、どのようなリスクがあるのかを十分把握した上で必要な対策をとり、継続することが重要となります。実際に輸出に取り組んできた生産者が感じたメリットやリスクは次のとおりです。
●輸出に取り組むメリット
・国内の相場に影響されない価格で取引きできる。
・輸出に取り組むことで信頼性が高まり、国内でのブランド力向上に役立つ。
・品質が高い茨城のイチゴを世界へ発信することができる。
●輸出に取り組むリスク
・取引は為替の影響を受け、為替相場によって販売数量や、販売単価、売上げが変動する。
・輸送距離が長くなるため、気を配って梱包しても、輸送中に果実の損傷が生じ、クレームや返品に繋がることがある。
・作成する書類が増えることがある(輸出先の国により異なる)。
・書類のわずかな不備でも、輸出できなくなることがある。
前述のようなリスクに備えて、選果や梱包資材の選定には細心の注意を払い商品づくりをするとともに(写真1)、輸送中などに予期せぬトラブルが発生した場合を想定して、出荷者と輸出事業者との間で、あらかじめ責任の所在を明確にするルールづくりをしておき、不測の事態が発生した際にスムーズに対処できるようにしておくことが重要となります。
アメリカ向け輸出に挑戦する生産者
輸出の取り組みが徐々に拡大する中、最近アメリカ向け輸出への挑戦を始めた「Oz Berry Farm」の鬼沢健一さんと由香さんご夫妻について紹介します。
●こだわりのイチゴを生産・販売する「Oz Berry Farm」
鬼沢さんは、以前は共同での販売で市場向けに一定規格の農産物を安定的に出荷する形態をとってきましたが、自分の生産したイチゴがどこで販売されているのか分からないことに疑問を感じていたそうです。そこで、経営移譲を機に、自分たちで責任を持ってイチゴの生産と販売にも取り組んでいくことを決心して、「Oz Berry Farm」を立ち上げました。
「Oz Berry Farm」では、やさしい味で品質の高いイチゴを生産しつつ、パッケージ等にもこだわった個性豊かな商品を作り、PR活動を通じてブランド力を高めながら、自ら販路の開拓に取り組んでいます。
●取引先からの信頼を高めるためにJGAPを取得
社訓にも掲げているように(写真2)、「安全・安心ないちご作り」を目指している中で、取引先からの信頼をより高め、農園の取り組みを伝えるため、GAPを取得することを決断しました。2018年にJGAPの認証を受け、対外的に適正な生産管理をしていることを証明することができるようになりました(写真3)。実際にGAP取得後、取引先からの信頼が確実に高まったと言います。
●JGAP認証きっかけにアメリカ向け輸出の提案を受ける
そんな中、県農産物輸出促進チーム(現在の茨城県営業戦略部農産物販売課)から、アメリカ向け輸出の提案を受けました。アメリカ向け食品輸出に際しては、様々な書類の提出を求められるため、JGAP認証を取得しているなど対応できる農園が限られているのが現状です。
現在、日本からのイチゴ輸出は参入障壁の低いアジア圏に集中していますが、鬼沢さんは所得水準の高いアメリカへの輸出に取り組むメリットを感じ、かつGAP認証をより活かすことができると考え、輸出にチャレンジすることにしました。
●海外へのイチゴ輸送の難しさを実感
「Oz Berry Farm」では、包材等の工夫や配送業者との協力により、国内向けには一定程度に荷傷みを抑えて配送することができていました。しかし、いざアメリカ向けにテスト輸送を開始すると想像以上に果実へのダメージがあることが分かりました。
特に2段詰めの商品での傷みが多く確認され、包材の強化や平詰めを含めたパッキング形態の変更の必要性も感じました。また、過去の輸出事例からイチゴの傷みの多くは、国内配送時に発生している可能性が高いことも分かり、配送業者へ一層注意して運んでもらうよう依頼しました。
●アメリカでの食品展示会に参加
イチゴのテスト輸送と並行して、アメリカで自社商品がどのように受け止められているのか、その反応を肌で感じるために、2024年1月下旬にアメリカで開催された食品展示会に参加しました(写真4・5)。
実際に試食してもらうと、「Just Strawberry?(ただのイチゴ?)」という全く予想していなかった質問を頻繁に受けることになりました。その理由は現地で販売しているイチゴを食べてみることで理解できました。
現地で販売されているイチゴは硬く、甘みと香りの少ない巨大なものが主流です。
「Japanese Strawberry」と説明すると、そのおいしさを知っている人や、それなら食べてみようという人もたくさん現れました。「Amazing!」「Super Juicy!」など生産者冥利に尽きる評価を数多くいただき、「Oz Berry Farm」のイチゴがアメリカで十分通用することを直接感じることができました。
今後の輸出に向けて
一連の取り組みを通じて、「Oz Berry Farm」の輸出意欲は大きく高まりました。
また、自社のアメリカ向け輸出の課題が、品質面より輸送面にあることが分かったため、その課題解決に向けて、緩衝効果の高い「ゆりかーご」や「平詰めパック」の梱包形態を導入することを決定し、テスト輸送を継続しています(写真6)。
今後も鹿行農林事務所経営・普及部門と営業戦略部農産物販売課では、産地の輸出拡大に向けた活動を支援していきます。