ここでは、水稲定点圃場(県内33地点)の調査結果から「コシヒカリ」の令和5年産の作柄を振り返るとともに、令和6年産に向けた対策について考えます。
種類・品種 | H22 | H30 | R元 | R2 | R3 | R4 | R5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
水稲うるち玄米 | 76.2 | 87.0 | 80.9 | 81.6 | 83.3 | 67.8 | 56.3 |
コシヒカリ | 80.9 | 89.1 | 82.8 | 80.8 | 82.6 | 60.2 | 46.2 |
注)農林水産省「米の農産物検査結果」を参照した(R5は令和5年12月31日現在の速報値)
水稲定点圃場の調査結果から
●草丈は高く茎数は少なく推移
令和5年の4~6月の気温は、一時的に平年より下回る時期があったものの、生育期間を通して全般的に平年並か平年を上回る経過となりました。一方、中生品種の登熟期にあたる7月下旬以降9月上旬にかけて平均気温は平年よりも2~3℃以上高くなり、令和5年の夏は猛暑となりました(図1)。
注)気温は、常陸大宮、水戸、鹿嶋、古河、龍ケ崎の5地点の気象台データの平均値とした
図2に定点圃場における「コシヒカリ」の生育経過を示します。草丈は平年より高く、茎数は少なく、葉色は6月下旬以降に淡く推移しました。成熟期の生育は、平年と比べて稈長は平年並からやや短く、穂長はやや長く、穂数は少なくなりました。出穂期は2~4日程度早く、成熟期は平年より3~4日程度早くなりました(図2・表2)。
●収量は平年並み
令和5年の定点圃場における「コシヒカリ」は、平年よりも穂数が少なく㎡当たり籾数がやや少ないものの、登熟歩合が高く千粒重がやや重い傾向となったことから、収量は平年と比べて県平均で102%と平年並みとなりました(表2)。
移植時期 | 出穂期 (月/日) |
成熟期 (月/日) |
稈長 (cm) |
穂長 (cm) |
穂数 (本/㎡) |
一穂籾数 (粒) |
㎡当たり籾数 (100粒) |
登熟歩合 (%) |
千粒重 (g) |
収量 (kg/a) |
同左平年比 (%) |
倒伏程度 (0-5) |
|
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県平均 | R5 | 7/25 | 9/2 | 91.2 | 19.3 | 378 | 80.3 | 303 | 81.4 | 21.5 | 55.5 | 102 | 1.3 |
平年値 | 7/28 | 9/5 | 90.8 | 18.7 | 385 | 82.1 | 316 | 78.1 | 21.2 | 54.6 | 100 | 1.3 | |
早植え (5/4以前) |
R5 | 7/23 | 8/30 | 91.9 | 19.1 | 397 | 79.4 | 316 | 81.8 | 21.4 | 57.0 | 103 | 1.5 |
平年値 | 7/25 | 9/2 | 90.8 | 18.7 | 399 | 81.7 | 326 | 78.7 | 20.9 | 55.4 | 100 | 1.1 | |
適期植え (5/5~20) |
R5 | 7/27 | 9/4 | 91.2 | 19.7 | 360 | 81.5 | 293 | 82.2 | 21.9 | 56.0 | 103 | 1.2 |
平年値 | 7/31 | 9/8 | 90.7 | 18.7 | 374 | 82.7 | 309 | 78.0 | 21.5 | 54.3 | 100 | 1.4 |
注)坪刈りによる調査。平年値は過去10年間(平成25年~令和4年)の平均値
登熟歩合は1.85mm以上の粒数割合
●白未熟粒が多く整粒歩合が低下
一方、玄米品質は、全般的に乳白粒や背白粒などの白未熟粒が多くなり、平年と比べて整粒歩合が低下しました。移植時期別に見ると、4月30日移植以前と比べ、それ以降の遅植えで整粒歩合が低下しています(表3)。
通常、「コシヒカリ」等の中生品種は5月5日以降に移植することで高温リスクを回避できますが、令和5年の気象条件では、例年気温が低下する8月中旬以降も気温が下がらず高温で推移したことから、移植時期を遅らせることによる高温回避策の効果は限定的となりました。
移植時期 | 出穂期 | 出穂後20日間の平均気温(℃) | 整粒 (%) |
未熟粒 | |||||
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(合計) (%) |
乳白粒 (%) |
基部未熟粒 (%) |
腹白未熟粒 (%) |
その他 (%) |
|||||
県平均 | R5 | 7/25 | 28.5 | 53.2 | 38.9 | 5.7 | 9.2 | 1.8 | 22.2 |
平年値 | 7/28 | 26.9 | 59.4 | 35.8 | 5.9 | 9.3 | 1.7 | 18.9 | |
~4/30 | R5 | 7/22 | 28.4 | 55.3 | 37.6 | 5.7 | 8.6 | 1.5 | 21.8 |
平年値 | 7/23 | 26.7 | 61.5 | 33.2 | 5.3 | 8.3 | 1.3 | 18.3 | |
5/1~5/4 | R5 | 7/23 | 28.5 | 51.7 | 39.9 | 5.4 | 10.2 | 1.7 | 22.6 |
平年値 | 7/27 | 26.7 | 57.6 | 37.3 | 5.6 | 10.1 | 1.6 | 20.0 | |
5/5~5/9 | R5 | 7/27 | 28.4 | 54.2 | 39.3 | 5.8 | 8.8 | 2.3 | 22.4 |
平年値 | 7/29 | 26.7 | 57.9 | 37.7 | 6.3 | 9.6 | 1.9 | 19.9 | |
5/10~5/30 | R5 | 7/29 | 28.4 | 52.8 | 37.6 | 6.3 | 8.7 | 1.9 | 20.7 |
平年値 | 8/3 | 26.6 | 63.3 | 32.4 | 5.8 | 8.2 | 1.8 | 16.6 |
注1)出穂期は各移植時期における定点調査地点の平均値とした
注2)出穂後20日の平均気温(℃)は、常陸大宮、水戸、鹿嶋、古河、龍ケ崎の 5地点の気象台データの平均値とした
注3)平年値は過去10年間(平成25年~令和4年)の平均値
注4)玄米品質分析は穀粒判別機による
注5)白未熟粒は、乳白粒、基部未熟粒、腹白粒、その他未熟粒の合計とした
令和6年産に向けた対策
●まずは、5つの基本技術の励行から
近年、水稲の生育期間中に高温や低温・寡照など極端な天候に見舞われるリスクが高まっています。特に令和5年産は、「コシヒカリ」の登熟期間にあたる7月下旬以降、気温が平年よりも大幅に高くなり1等米比率の低下につながりました。
本県では、これまで高品質な「コシヒカリ」生産のため、「いばらき高品質米生産運動」として、①適期田植えの推進(5月5日以降の田植え)、②中干しによる茎数制御、③登熟期の間断かんがいと早期落水の防止、④適期収穫と適正な乾燥・調製、⑤土づくりの推進の「5つの基本技術の励行」を推進しています。しかし近年では、水稲生育期間中の高温傾向が顕著になっており、上記の対策だけでは本県産米の高温障害の回避策として不十分です。そのため、今後はこれまでの基本技術の励行に加え、高温耐性品種の導入や複数品種による作期分散、病害虫防除の徹底等の対策により、高温リスクに対し十分に備えることが必要です。
●5つの基本技術に加えた今後の対策
① 高温耐性品種の導入
近年、西日本を中心に高温条件下でも安定した米品質が確保できる品種開発が進められています。本県でも「一番星」や「ふくまるSL」「にじのきらめき」等高温耐性を持つ品種が奨励品種に指定されています。高温による玄米品質の低下が懸念される地域では、高温耐性品種の導入を検討します。
② 複数品種による作期分散
大規模化が進む普通作経営では、「コシヒカリ」の適期田植えで出穂期の高温を回避することには限界があるため、早晩性の異なる複数品種や直播栽培等と組み合わせるなど栽培体系を見直すことで出穂期が一時期に集中しないようにリスク分散をはかります。
③ 病害虫の適期防除
近年、温暖化に伴う病害虫の発生時期の早期化や発生量の増加により、作物の収量や品質への影響が懸念されています。また、作期の拡大により品種が多様化し病害虫の適期防除が困難となっています。そのため、ドローン等のスマート農機を活用し、病害虫の適期防除を徹底する必要があります。