そのためのツールとして「人事評価制度」があります。現在様々な人事評価制度が提唱されていますが、今回執筆をお願いした「あおいコンサルタント株式会社」山本昌幸氏は、「中小企業のためのカンタンすぎる人事評価制度」などの著書があり、主に中小企業を対象に手広くコンサル業務を展開されています。人事評価制度を導入したいけれど、難しそう・・などとお考えの方に、人事評価を策定するにあたってのポイントを学んでいただくとともに、ご自身の経営にピッタリあった人事評価制度を見つけるための一助になれば幸いです。
“一般的”な人事評価制度とは?
あなたは「人事評価制度」と聞いて、どのようなイメージを持たれますか?
「人材の順位付け」
「人材を競争させるためのしくみ」
「なんか難しそう」などなど。
これらは、間違ってはいないのですが、私が提唱する「理想的な人事評価制度」では間違っています。人事評価制度とは、本来、社長の「想い」を人材に理解してもらい、人材自身の価値を向上させるためのツール(工具)なのです。要するに、「人材育成を目的とした仕組み」のことなのです。
ただ現在、多くの企業等で導入されている「“一般的”な人事評価制度」の多くは、「人材育成」とは謳っていても、それが実現できていないケースが多いのが実情です。そして、大きな欠点もあることが・・・。
その欠点とは、「長い」「高い」「面倒くさい×2」の3つです。
“一般的”な人事評価制度の多くが持つ欠点である「長い」とは、完成するまでの期間が半年から1年超と非常に長いこと。そして、「高い」とは、企業規模にもよりますが、コンサルティング費用が高額になりがちであること。「面倒くさい×2」とは、策定が非常に面倒くさく、さらに完成後の運用も非常に面倒くさい、というものが多いことです。
上記のような大きな壁を乗り越え、人事評価制度を導入したとしても、人材育成は実現できず、社長の想いも人材に伝わらず、組織としても良くならないという事例を残念ながら数多く見てきました。
多くの企業等が採用している“一般的な”人事評価制度の多くは、以上のような欠点があるため、中小企業や農業法人では人事評価制度を導入しにくいのが現実でしょう。「人事評価制度」という名前だけで盲目的に導入せず、経営をするあなた自身が、後述のポイントを押さえて設計に携わる必要があるのです。私自身も前述のような「一般的な人事評価制度」の導入支援(コンサルティング)を、今から約8年前まで、20年ほど実施してきました。しかし、常に疑問を感じており、結果、「このような人事評価制度ではダメだ」との結論に達し、開発したのが、今日作って明日から使う「カンタンすぎる人事評価制度」なのです。
社長の「想い」を理解してもらい人材を育成
「カンタンすぎる人事評価制度」とは、その名の通り誰でも簡単に使用できる人材育成を目的とした仕組みです。名称に“評価”という文言が含まれていますが、これは便宜上であり、あくまで社長の「想い」を理解させ人材を育成し、活用するためのツールです。 では、「カンタンすぎる人事評価制度」のポイントについて説明しましょう。
【カンタンすぎる人事評価制度のポイント】
①「評価項目」に必ず根拠を持たせること
②「評価基準」が小学生でも評価可能で明確であること
③1日(もしくはごく短期間)で完成させられること
④運用が非常にラクであること
では、一つ一つ説明していきましょう。
①「評価項目」に必ず根拠を持たせること
就農前、他の組織で働いた経験がある方の中には「なぜ、私はコレについて評価されるのか?」と疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私も遥か昔ですが会社勤め時代に思ったことがあります。
・なんでこんなことが評価されるの?
・これができたところで会社は得するの?
余談ですが、私は人事制度の専門家ですが、マネジメントシステムの専門家でもあります。マネジメントシステムとは、PDCA(P:計画、D:実施、C:確認、A:改善)を回して改善していく仕組みです。そして、マネジメントシステムの専門家とは、原因追及の専門家でもあります。
・すべての問題に原因がある
・すべての事象に根拠がある
原因追及の専門家でもあり、人事制度の専門家の私としては、人事評価制度の「評価項目」についても、「なぜその評価が必要なのか?」の根拠が必要だと強く主張します。
その人事評価制度における「評価項目」に根拠を持たせるうえでとても重要なことは、社長の「想い」を明確にすることです。
「想い」とは、
・会社に対する想い
・顧客・社会に対する想い
・従業員への想い
これらの「想い」を「自社の存在価値」として明確にしたうえで、人事評価制度の「評価項目」を策定する必要があるのです。具体的には、「社会における自社の存在価値」を明確にしたうえで、その存在価値を実現するための人材を明確にし、その人材が身につける能力、身につけた能力を発揮できた場合にどのような良いことが起こるのか?発揮できなかった場合にどのような悪いことが起きるのか?これらを整理し、「評価項目」とするのです(図1)。
この「社長の想い」を反映することにより「理想的な人事評価制度」が策定できるのですが、前述のように「社長の想い」だけでは、「評価項目」の根拠としては少し力に乏しいものになってしまいます。そこで、次の着眼点を「評価項目」に加えることにより、その組織で働く人材の理解を得ることができるようになります。その着眼点とは次の4つです。
・3年後に自組織をどのようにすべきか?
・組織にとって理想的な人材とは?
・理想的な業務姿勢とは?
・自社の解決すべき課題・問題とは?
です。いずれの着眼点も社長が中心となって、明確にしなくてはなりません。そして、根拠の明確な「評価項目」を決定します。
私はマネジメントシステムの専門家であり、ISO9001・ISO14001主任審査員でもありますので、今まで1600回以上審査を担当し、社会保険労務士・人事制度コンサルの経験を含め、1000社以上の人事評価制度を確認しました。しかし、その多くの組織の人事評価制度で、「この人事評価制度で多くの人材が最高評価を獲得したところで、人材の力量は向上するのか?組織は良くなるのか?儲かるのか?」と甚だ疑問に思える「評価項目」がなんと多かったことか!これでは、多くの人材が頑張って高評価を獲得しても、組織・人材ともにメリットがないのです。
「理想的な人事評価制度」では、人材が高評価を獲得することにより、人材育成・組織改善・利益の向上を実現できる評価項目を設定することが大切なのです。人材が高評価を獲得し、育成されることにより、組織が儲かる仕組みになっているかどうか、そこが大切なポイントです。
②「評価基準」が小学生でも評価可能で明確であること
「理想的な人事評価制度」は、根拠の明確な「評価項目」を策定しただけでは足りません。誰が評価しても同じ評価結果になる明確な「評価基準」を設定する必要があります。
人事評価制度導入済み企業の約半数の組織は、評価結果を人材にフィードバックしていません。仮にフィードバックしていたとしても、その評価結果の根拠まで伝えている組織は少数なのです。なぜ、そのようなことになってしまっているのか?原因があります。
それは、あいまいな「評価基準」のため、評価者によって評価結果にばらつきが生じ、もしフィードバックした場合、人材(被評価者)から評価結果の根拠を質問されても回答できず、フィードバックできないのです。まさに次のイラスト状態です。
では、「評価基準」について、「一般的な人事評価制度」と「理想的な人事評価制度」を比較するために、表1の人材の状況の場合、表2で評価を行ってみてください。
Aさんは、入社4年目で24歳。 先輩が残業していても、自分の仕事が終われば定時退社します。ミキシング工程における 配合ミスは、今年は0件でしたが、一昨年は2件でした。作業手順に忠実かつスピーディ ーで、標準作業時間を逸脱したことは一度もありませんが、クリームパンの成型カットを 独自のデザインにすることもあります。売上品質向上のための「改善提案シート」は年間 5枚提出しています。 |
勤務態度評価項目 | ||
---|---|---|
評価項目 | 前向きな業務姿勢・勤務態度 | |
評価基準 | 5点 | よい |
3点 | ふつう | |
1点 | わるい |
まず、どこの組織でも見かける一般的な評価項目・評価基準です。あなたは、Aさんの評価をどれにしますか?非常に迷いませんか?自信をもって評価できますか?
次に理想的な表3の人事評価制度の評価項目・評価基準で評価してみてください。
勤務態度評価項目 | ||
---|---|---|
評価項目 | 品質向上のための改善提案件数 | |
評価基準 | 5点:良い | 年間4件以上提出 |
3点:普通 | 年間1件~3件提出 | |
1点:悪い | 未提出 |
いかがですか?今回は誰が評価しても同じ評価結果になり、自信をもって評価できましたね。Aさんが何件の改善提案を提出したのか分かれば小学生でも評価できます。これが理想的な人事評価制度なのです。
「評価基準」を数値化することにより、誰が評価しても評価結果にブレがなくなるのです。ただ、“数値化”は必須ではありません。無理に数値化しなくても良いのです。「測れる文章表現」を「評価基準」に設定すれば、評価結果のブレをなくすことができますので。
③1日(もしくはごく短期間)で完成させられること
私は、仕組みを完成させるための組織のプロジェクトに数えきれないくらい参加・指導させていただく中で、「失敗するプロジェクト」と「成功するプロジェクト」の命運を分ける、大きな原因(要因)に気づきました。それは、
・失敗するプロジェクト:完成までの期間が長い
・成功するプロジェクト:完成が早い
あなたも経験ありませんか?何かの完成を目指し活動したが、その期間が長すぎてフェードアウト。人事評価制度も、私の考える理想の形は1日、若しくはごく短期間での完成です。
④運用が非常にラクであること
策定した人事評価制度の仕組みがシンプルであれば運用が非常にラクになります。
「仕組みがシンプル」とは、人材がパッと見ておおよその理解ができることです。
“一般的”な人事評価制度が運用されない大きな原因は、難しすぎるからでしょう。
最後になりましたが、人事評価制度の一番の目的は、「人材育成」であり、雇用する人材の底上げや、経営トップの右腕・片腕を育成することです。
今回ご紹介しました人事評価制度策定のポイントがぎゅっと詰まった「カンタンすぎる人事評価制度」について詳しくお知りになりたい方は、拙著:「今日作って明日から使う中小企業のためのカンタンすぎる人事評価制度」(中央経済社)をお読みいただくか、毎月、勉強会を実施していますので(オンライン開催、会場開催)ご受講いただければと思います。