2024年12月3日
【第1分科会】
私が作業服を脱いだ時
~㈱れんこん三兄弟宮本社長と探る「これからの社長のありかた」~
石川県 有限会社安井ファーム 安井善成さん
稲敷市 株式会社れんこん三兄弟 宮本 貴夫さん
茨城県農業総合センター専門技術指導員室
[親との関係][雇用導入]のお悩み解決のヒントを得るため、[親元就農]から[雇用型大規模経営]へ経営を発展させたお二人に、《親からの独立》《雇用の始めかた》について、ざっくばらんにお話を伺いました。
TOPIC1 親からの独立
親元就農した後、親と経営方針をめぐってケンカして世代交代した安井さん、兄弟3人で結束し、数の力で親に押し勝った宮本さん。どういったきっかけで交代に至ったのか、その経緯と、継承について思うことをお聞きしました。
●安井さんのきっかけ ~ケンカしてでもやりたいことができたとき~
サラリーマンを辞め、水稲中心の経営をする父親のもとで働き始めた若き日の安井さん。
(安井さん)「野菜を作りたかったんですよね、僕の場合は。父親は寡黙な人だったので、何も教えてくれず、ただ、あれやれこれやれってひたすら使われてた。それが嫌で、花きとか、トマトとか試しに作り始めたんです。でも、施設だと規模拡大が難しいので、露地で野菜を作ろう、と父親に提案したら、大反対されて・・・。『やりたいことをやるためには、もう経営を自分のものにするしかない』という状況になったのが、世代交代のきっかけでした。その後は、もう単刀直入に、『自分が社長になるから、あなたはもう退いてくれ』って父親に言いました。32歳の時でした。」
●宮本さんのきっかけ ~全部うちらにやらせてよ!~
兄弟3人で同時に親元就農した宮本さん。就農してから3~4年目に、父親が兄弟3人に同じ面積を預け、管理や収穫のタイミングを任せてくれました。さらに、儲かった分は自分のボーナスにしてよいことに!
(宮本さん)「そしたら、それなりのものを作れたんですよね。しかも、収入も見えた。そしたらちょっと欲が出ちゃって、「じゃあ、全部うちらにやらせてよ」って言いたくなっちゃったんです。親は、『レンコンを作るのが自分たちの仕事、売るのは自分たちの仕事じゃない』っていうタイプで、そのときおぼろげながら自分たちが考えていた『お客さんの反応をフィードバックしながら、お客さんが求めるものを作りたい』っていう方針と違っていたこともあって、許可ももらわないまま強引に始めてしまったようなところがあります。僕も安井さんと同じ、32歳の時でした。」
●継承について思うこと
「継承は、できるだけ若いうちにやったほうがいいと思う」という安井さん。
(安井さん)「あのとき自分が父親に何も言わなかったら、70歳になっても80歳になっても、ずっと父親が社長をしていたと思う。そしたら僕は50歳とか、今の年齢(52歳)になってから継承することになっていたと思うんですが、この年になってから『攻めるぞ』なんて言っても攻めきれないですよ。今日参加しているみなさんの中に、継承という問題がある人がいるのなら、できれば若いうちに、経営権を自分のもとに置いて、経験を積んでいくっていうことが絶対必要だと思います。[経営]なんて、誰でも最初は経験値ゼロから始まるんですから、できるだけ早めに継承して、経験を積むっていうことをお勧めします。」
「僕も全く同意見です」と宮本さん。
(宮本さん)「若いうちって、体力もあるし、失敗したときに、リカバリーが効くんですよ。気持ちの面でもそうだし、先代がまだ元気だと、サポートがもらえたりもします。今思うと、会社作って、相当調子に乗っていた自分たちが、地元のみなさんに叩かれたりせずに、土地を貸してもらえたりしたっていうのも、両親のサポートがあったからこそだったな、と。両親には感謝しかないですね。」
●お二人のお話から
先代の気が変わるまで待つことをしなかったお二人。「必ずケンカしなきゃいけないなんていうことはないし、それぞれの家に合った形があるとは思うけど“失敗できる”若いうちに経営を継承することが大事」と会場にエールを送ってくださいました。
TOPIC2 雇用の始めかた
従業員30名以上を抱える雇用型大規模経営の経営主であるお二人に、雇用を始めたときの[最初の一歩]の踏み出し方、従業員との関係性などについて伺いました。
●安井さん ~社員が社員を選ぶ採用~
最初に雇用した友人が辞めてしまった後、アルバイト中心で経営を回していた安井さん。
(安井さん)「[作業する人間の仕事]と[段取りして指示する人間の仕事]って全然違うんですよね。僕は、ブロッコリーを40ha作るところまで、1人で段取りしていた。段取りする人材を育てていなかった。そしたら、仕事が全然立ちいかなくなってしまった。それで、アルバイトに来てくれた人の中から、[すごくいい人]だけを引っ張って、社員にしました。次に雇う人は、社員が全員『この人を採用したい』と回答した人だけ。」
「今は新卒で入ってくる社員も出てきましたが、[全員一致の人を採用する]というルールはずっと続けています。規模拡大の準備はできているし、雇われたい人は来ているのに、全員一致が出なくて、2~3年間、採用に至れないっていう時期もありました。『こんなこと言わんとけばよかった』って思うこともありましたよ(笑)。でも、働く仲間を自分たちが選ぶっていうのは大切なことなので。」
「今、社員は[作業]ではなく[段取り]が役目、そういう感じになってきました。そうなると、アルバイト・パートをまとめていく力が、社員1人1人の中に、年々培われていって、結果的にチームワークがどんどん良くなっていっている、と感じています。」
●宮本さん ~最初の雇用は偶然の出会いから~
[兄弟3人+パートさん]だけで作業するには上限いっぱいまで来たな、という規模感のとき、もう1人いれば助かるな、というタイミングで、たまたまうちに研修にきていた県立農大生が入社してくれることになったのが最初の正社員雇用でした。
(宮本さん)「偶然の出会いで雇用したので、準備が全然できていなくて・・・。休日も決まっていないし、給与も決まっていない、福利厚生も決まってない。そこから、彼に迷惑をかけつつ、彼と相談しながらなんとか1つずつ作っていって、どうにか組織っぽい形を作ってきた、という感じです。」
●2人に聞きたい!「雇用を始めたいけど、人員増が先?面積増が先?」
「規模拡大をするには人が必要だけど、規模拡大しないと人を雇うお金が払えない・・・」。こんな袋小路に入ったとき、何をどうしたら先に進めるのか、お二人に伺いました。
「僕の失敗経験からお話しします」と宮本さん。
(宮本さん)「最初の頃、人を雇ったのに、作付け面積を増やさなかったんです。「人材育成は時間がかかるから、教育ができてから面積を増やそう」と思って。そしたら当然なんですけど、人件費が膨らんで赤字になっちゃって。それに気づいて慌てて面積を用意しました。当時は借金せずに経営をしていたので、お金を借りることに怖さも感じていて、それもよくなかった。今は、運転資金をしっかり借りて、心の余裕が保てるように支払いをしていって、面積拡大と人の確保・教育を同時に進めていこうとしているところです。」
「宮本さんがおっしゃるように、人が先か、面積が先か、の前に、“計画”が最初ですよね」と安井さん。
(安井さん)「人がいないと、作付けしてもお金にできないですよね。でも人を雇ったら、その分お金がかかる。そのお金は先行投資になる。ないお金はやっぱり借りるしかない。借りるとき「どうやって返すか」って聞かれます。それが資金計画。さらに3年先、5年先、10年先にどんな会社にしたいか。そのとき面積は?人は?。そういう計画を作って、その上でお金を借りて、先行投資していくことが大切です。闇雲に借りたらダメですよ(笑)。」
「社員の教育、という観点もとても大切だと思います」と安井さんは続けます。
(安井さん)「いきなり教育不要のすごい人が入ってくるなんてことはほとんどない。僕みたいに、まずパートさんを雇って、そこから社員に上げていく、っていうやり方だと、社員教育もすんなりいくのかな、と思っています。それにしても、まずは自分の中に経営計画が必要ですけどね。進展のない会社には、人はとどまらないです。進展するためにはどうしなきゃいけないか。それを決めるのが計画です。」
さらに、お二人が声を揃えておっしゃっていたのは「社員に自分の分身を求めない!」こと。
「社員雇用が始まる前で、めちゃくちゃ忙しいときって、“自分がもう1人いたらいいのにな、自分が2人だったらできるのに”って考えちゃうと思うんです。自分もそうでした。でも、そういう考えなら雇用しないほうがいい。絶対にそうはならないから。自分の半分くらいのスピードの人が来る、という想定で計画立てないと、まず実現可能な計画にならない」と安井さん。
「“自分と違う”って、いいことでもありますよね。安井さんの会社みたいに、社長の分身ではないからこそ、社長が苦手な分野を担当してくれるってこともある」と宮本さん。
「僕はできないことばっかりだから(笑)、社員ががんばってくれています。みんながそれぞれ得意なことをやって、“みんなで稼ごう”っていう感じ」と笑う安井さん。参加者からは、お二人の話に深く共感している様子が伺えました。
おわりに
参加者からは、時間を延長するほど熱心に質問が寄せられ、終始活気に満ちた分科会となりました。
[経営継承][雇用の始めかた]という、次代を担う若手農業者が直面する大きな課題について、安井さん、宮本さんという、すばらしい経営者から直接お話を伺えたことは、参加者にとって非常によい経験になったのではないかと思います。
末筆ながら、令和6年1月の能登半島地震の影響で大変な状況の中、本県までお越しいただき、若手農業者へのエールをくださいました安井善成さん、本会の趣旨に賛同いただき、ご協力をいただきました宮本貴夫さんに、改めて心より感謝申し上げます。