2024年12月3日
【第4分科会】
厳しい時代の生き残り方
~オーガニックで「新しい農業のモデルづくり」に挑戦~
小美玉市 株式会社ユニオンファーム
代表取締役社長 玉造 洋祐さん
茨城県農業総合センター専門技術指導員室
小美玉市の株式会社ユニオンファーム 代表取締役社長 玉造さんは「これまで通用していたことが通用しなくなる厳しい時代を迎えている」と語ります。厳しい時代とは、加速化する日本の人口減少、地球温暖化による気候変動、人件費の急増などを指しています。玉造さんは、持続可能な農業経営のために、「100年続く企業」を目指し、地道な改善を続けてきました。
第4分科会では、これまで磨いてきた取り組み「安定供給力を磨く」「働き方改革」「労働生産性を高める」「反収の追求」について詳しくお話していただきました。
筋肉質に改善中、100年企業に挑戦!
ユニオンファームは2000年に異業種から農業参入し、持続可能な農業に寄与する「オーガニック野菜」に、いち早く着目しチャレンジを始めました。そして、2007年に玉造さんが2代目社長として就任しました。実は、厳しい経営状態での農業開始でしたが、徐々に、そして着実に売上と収益を向上させていきました。
現在の経営規模は5.3haで、すべての圃場で有機JAS認証を取得しています。病害虫対策や作業性に優れることから、すべてビニールハウスで生産しています。また、直営農場の他に、4か所のフランチャイズ農場を運営しています。農場では、葉物野菜を中心に、ミズナ、ホウレンソウ、パクチーなど12品目の生産、包装を行い、スーパーマーケット等に出荷しています。
会社では、3年ごとにSWOT分析や中期経営計画づくりにより、事業計画の更新を行っています。
2017年以降は、ビニールハウスの増設を一旦止め、反収と作業効率を向上させ経営改善を行うことに決めました。例えると、贅肉を落とし筋トレして筋肉質になる取り組みです。
また、創業20年を迎えた頃、新たな成長に向け第2創業期を開始しました。ここで「目指すべき持続可能性は、会社が100年続くやり方」と目標を定めました。
「安定供給力を磨く」ための生産計画
生産ポリシーは「次にまた、買ってもらう野菜を作る」です。そのためには、まず、美味しくて、鮮度のよい野菜を届けなくてはなりません。農場では、土壌や作物の分析を行いながら、技術改良を積み重ねてきました。もう一度買ってもらうためには「買いたいときに売り場に並んでいること」も非常に重要です。
ユニオンファームでは、安定供給力を磨くために、販売計画に基づいた生産計画表を作り(図1)、去年や今年は、どのくらい生産できたのかを、細かくフィードバックしながら、緻密な計算により計画表を改良してきました。この計画表はいわば「安定生産のための設計図」です。
「働き方改革」のための作業のルール化
経営の持続性には、生産現場の時間管理が極めて大事です。玉造さんは、就任当初から、会社の中身を知るために色々な角度から様々な記録をし、各項目ごとに分析しています。売上が増えると、当然、出荷量も仕事量も増えます。当初は、春や秋などは、葉物野菜はどんどん伸びて収穫が間に合わなくなったり、就業時間が長くなり残業が増加したりする事態が続きました。これではまずいと考え、残業を短くし仕事の効率を上げるため、ハサミの置き方や洗い方など、1つ1つ改善し、従業員みんなが守りやすい作業手順やルールを作りました。
例えば「その1歩、歩かないようにしましょう」など、オリンピックの金メダリストみたいに1歩1秒の時間を切り詰めて、全体の仕事の効率を高めていきました。それが成功体験となって、従業員の中に自ら考え改善する流れが生まれ始めました。早く帰りたい従業員はたくさんいるので、より協力的に進みました。現在は、1年を通して定時の17時半前後には仕事が終わるようになってきました。
「労働生産性を高める」ための分析力と改善
雇用費を抑え利益を上げるため、労働生産性(労働者数や労働時間当たりの成果を示す指標)を高める取り組みをしてきました。具体的には、作業時間や作業量のデータ分析、作業の観察、そして小さな改善提案を数多く行いました。
例えば、手間のかかる包装作業では、1時間当たり何パック包装したか、という指標を示しながら作業効率を高めていきました。包装機を導入すると一定の効率を上げることができますが、さらに時間を切り詰めるよう、明日からできる1つ1つの作業改善と作業の質向上に取り組んできました。
その結果、1パックを包装するのにかかった労務費の年次推移をみると、収穫量が増え包装数が増えても、横ばいを維持しました(図2)。通常、最低賃金が年々上がると労務費はそれに伴い増加するところですが、従業員の作業効率が向上したため、作業量や時給が増えても、雇用費の増大を抑えることができました。作業工程を見直すことで、1時間当たりの包装生産性を向上させる成功事例となりました。
「反収の追求」のために取り組んできたこと
2017年からは、一旦ビニールハウスの増設を打ち止め、10a収量をもっと高めていこうと、「毎年、年間5%の反収向上」を目標に掲げ、取り組んできました。これまでに、すべての品目で効果が表れてきました。
有機栽培で大事にするのは、連作障害への対応、病害虫への対応、雑草管理、長期的な土壌の化学性・生物性の把握です。土壌分析は毎年行い、最低3年間以上の長期スパンで変化を評価し、継続して確認、改善しています。栽培管理者のスキルも重要ですが、使用する有機肥料やIPM資材の選び方、これらの使用方法に関する知識は何より必要です。
例えば、農薬の使用者は、農薬適正使用アドバイザーの資格を取得するなど、正しい理解のもと使用する姿勢が重要です。これは肥料に関しても同様です。本で勉強したり、県いばらき農業アカデミーの講座等も活用し、知識をもったうえで改善に取り組むことが重要です。
おわりに
玉造さんは、経営の課題に常に向き合い、経営で伸ばしたいこと・減らしたいことをデータ化し、徹底的に分析し、効果を検証しながら、スタッフとともに改善を続けてきました。この分科会では働くスタッフと会社の成長をリンクさせ、環境・人材育成・栽培・農地の持続可能性にチャレンジしてきた姿勢と考えを、力強く示して頂きました。
講演後、会場の皆さんからは、雇用の工夫点、生産性を向上させる具体例、高温対策、今後の経営展開等について多くの質問が寄せられました。玉造さんには具体例を交え、丁寧に応えて頂きました。参加者のみなさんには、明日からできる課題解決のヒントをたくさん持ち帰って頂けたことと思います。