水戸市の株式会社ドロップ(以下 ドロップ)代表取締役の三浦綾佳さんは、2015年にご夫妻で農業に参入し、同市で高糖度トマト栽培を始めました。「関わる人を感動させられる企業へ」という企業理念のもと、ご自身が代表として生産~商品開発~販売に一貫して携わることで、「ドロップから買いたい」と思ってもらえる企業価値の創出を手掛けてきました。
そんな三浦さんが本格的に人材育成に取り組み始めたのは就農4年目のこと。そのきっかけと現在までの取り組みについて紹介します。
大切にしたいものと事業拡大
現在、ドロップの経営面積は2度の規模拡大を経て3.5haとなっています。
「仕事と子育てを充実したい」という思いから始めた農業ですが、就農1年目はトマトを栽培することに精一杯で、収穫したすべてを市場に出荷することになりました。2年目には持ち前の販売力を発揮して、全量小売販売できるようになったことで売上が倍増し、認知度も高まりました。併せて「ドロップの三浦さんから買いたい」と思わせるイメージづくり・企業価値の向上に着手しました。
そして4年目、初めて事業が黒字化したのを機に1度目の規模拡大の転機を迎えます。きっかけは、「商品がなくてがっかりしてほしくない」という、お客様を大切にしたいという思いからでした。
当時ドロップでは社員3名、パート8名のスタッフが働いていました。これまで社長として生産~商品開発~販売のすべてを管理してきた三浦さんが人材育成の必要性を感じ行動を始めたのはこの頃からでした。「生産量を増やすだけでなく、スタッフに任せられることを見つけていくことが必要だと考えるようになりました。これからお客様と接することになるスタッフが魅力的でないとドロップを選んで頂けないというのが、人材育成に力を入れた根本かなと思っています。」と三浦さんは言います。
2度目の規模拡大の転機は7年目、「一緒に走ってきたスタッフを大切にしたい」という思いからでした。この頃のスタッフは社員6名、パート26名。給与面やボーナス、研修旅行など一般企業では当たり前に行われていることを、農業でも取り入れていこうと決断しました。
「売上げを伸ばして利益を出していかないとスタッフの給料を上げられないと思ったんです。この決断をするために覚悟と時間を要しました。でもそれが、規模拡大のモチベーションになりました」と語る三浦さん。経営者として大切にしたいもののために規模拡大と人材育成に取り組み、社長としての役割も少しずつ変えながら、その時々の課題に向き合ってきたことが分かります。
人材育成の取り組み
ドロップは、「会社のために、社長のために頑張ってやるか!」のようなモチベーションづくりを大切にしています。ここからは、三浦さんが取り組まれてきた人材育成のノウハウをお伝えします。
●あってほしいスタッフ像の伝え方
ドロップは、様々な立場、年齢、性別の人が、柔軟な働き方を選べる農場です。例えば、子育て中の母親たちなど、週に2~3日3時間程度なら働ける人を積極的に採用することで人手不足を解消しています。採用時には、農場としてパートさんに何を求めるのか明確に共有し、人事評価表をもとに点数化し合計点数で時給を決めています。社員の給与は、基本給は年1回のアップに加え、10等級の役員報酬を設け、実力に応じた役職を定め、役職に応じた手当を支給しています。
ドロップで働き続け、一緒に走って会社が成長し、将来どれくらいの年収になるのかをはっきり見せることで、社員がどこを目指すのかの目安になるそうです。
●誰に・何を・どこまで任せるか明確化
ドロップでは、農場や出荷ごとに、誰に、何を任せ、どこまでが仕事の範囲なのかを明文化した役割分担表を作成しています。その中で上手くいった点は、スタッフとともに付箋でメモを残すようにし、年1回アップデートします。その他にも、苗の植え方、栽培管理の方法、商品づくりの方法をまとめた作業マニュアルも作成しています。作業マニュアルには、必ず全員に教える事、何度も聞かれそうなこと、年1回しかやらないことを中心に記載しています。
さらに、パートスタッフに対して作業力理解テストを定期的に実施することで、作業の標準化に役立てています。
●コミュニケーションは人材育成の要
三浦さんは雇用を始めた時から欠かさず続けていることがあります。それは、スタッフ全員の給与明細に感謝と評価を伝えるコメントを書くことです。「ちゃんと見てくれているな」と実感してもらえることはもちろん、何よりも三浦さん自身がよくスタッフの姿を見てコミュニケーションをとるきっかけになっているそうです。
スタッフ全員の相互理解のために性格分析ツールを取り入れる他、スタッフの家族を招いてのランチ会なども開いています。「職場内だけのコミュニケーションだと仕事の取り組み方について色々な思いが出てくることもあるんですけど、職場の外で交流することで気づける事もあるし、思いを解消できるのも社外だと思うんです」と三浦さんは言います。
●スタッフは仲間
ドロップにとってスタッフは、一緒に会社を作る仲間です。だからこそ会社の目標はすべてのスタッフと共有します。その目標達成に向けた全スタッフの目標を模造紙に寄せ書きにしたり、日々の数値目標や三浦さんが社長として考えていることをLINEでこまめに発信する事で、会社の目指す方向を共有しています。
「何のためにがんばっているのか」を考えながら働いてもらうことが、モチベーションづくりにも繋がっているそうです。
おわりに
三浦さんの講演で印象的だったのは「仲間」という言葉でした。会社がスタッフに何を求め、どう取り組めば次のステージに進めるのか等のスキルアップのための取り組みだけでなく、同じ目標に向かって「会社のために、社長のためにがんばってやるか!」というマインドづくりも人材育成であり、その基礎にあるのがコミュニケーションであることを教えて頂きました。
三浦さんのリーダーシップと、スタッフの思いを受け止め、次の行動力に繋げていく経営者としての力強さを感じることができました。