しかし近年、短時間強雨の発生頻度が増加しており、水田転換畑での畝間の湛水等により、湿害に弱いネギでは生育不良や収量低下等の被害が生じています。そのため、生産現場では主に明渠の設置により湿害対策を行っていますが、手間がかかる割に湿害の軽減効果は十分ではないため、省力的で効果の高い技術が求められています。
そこで、当研究所で取り組んだ「水田転作ネギにおける効果的な湿害軽減技術」の試験結果を紹介します。
土壌の透水性の改善
試験に供試した機械は、農研機構で開発された地下に補助暗渠を施工する「カットドレーン」(深さ50cmに2m間隔で施工)、心土破砕を行う「プラソイラ」(深さ50cm、全面施工)です(写真)。現地圃場は農家慣行として弾丸暗渠(深さ30㎝に2m間隔で施工)を施工しました。
表1にインテークレートの測定結果を示しました。インテークレートとは、圃場の透水性の評価指標で、値が大きいほど土中への水の侵入量が多い=排水能力に優れることを示します。測定開始60分後には経時的な減少がほとんどなくなりほぼ一定になります。排水対策を施工した区では、測定開始60分後のインテークレートが無処理に比べて高くなったため、カットドレーンやプラソイラによる排水対策を施工することで土壌の透水性が向上することが明らかになりました。
試験場所 | 試験区 | 測定開始60分後のインテークレート(mm/h) | |
---|---|---|---|
2022 | 2023 | ||
農研水田利用研究室 (龍ケ崎市) |
カットドレーン直上 | 94.9 | 104.2 |
カットドレーン中間 | 38.2 | 19.5 | |
プラソイラ | 112.1 | 101.6 | |
無処理 | 1.2 | 0.4 | |
稲敷市 (現地) |
カットドレーン直上 | 75.6 | 14.5 |
カットドレーン中間 | – | – | |
プラソイラ | 193.4 | 4.9 | |
農家慣行 (弾丸暗渠) |
5.2 | 0.9 |
注)排水対策施工日:2021.3.18(農研 水田利用研究室)、2022.3.9(現地)
本試験では直径30cm、長さ35cmの円筒を土中に差し込み、円筒内に注水し、所定の時間ごとに
土中への侵入量を測定した
湿害の軽減
湿害とは過剰な土壌水分により根が影響を受け、生育障害を起こすことです。湿害を受けると根の生理活性が低下して養水分の吸収が抑制されるため、茎の切断面からの出液量が減少したり、蒸散が減ることで葉表面温度が上がることが知られています。そこで、根の活性を比較するため、ネギの地際から5cmの部分を切断し、切断面からの出液量と葉表面温度の測定を行いました。
カットドレーンやプラソイラによる排水対策を施工することで、無処理に比べネギ葉鞘切断面からの出液量が多くなりました(表2)。また、葉表面温度を測定した結果、排水対策を施工した区が無処理より葉表面温度が低かったことから(表2)、蒸散が多いと推察されました。
以上から、排水対策を施工することで、無処理より根系の活性が高く維持され、湿害が軽減されると考えられました。
試験場所 | 試験区 | 出液量1)(mg) | 葉表面温度2)(℃) | |
---|---|---|---|---|
2022 | 2023 | 2023 | ||
農研水田利用研究室 (龍ケ崎市) |
カットドレーン | 251 | 230 | 30.4 |
プラソイラ | 233 | 205 | 30.8 | |
無処理 | 162 | 117 | 31.4 | |
稲敷市 (現地) |
カットドレーン | 392 | – | – |
プラソイラ | 244 | – | – | |
農家慣行(弾丸暗渠) | 234 | – | – |
注)1)地際から5cmの部位を切断し、5cm×6cmの綿を乗せチャック袋をかぶせた。
60分間静置後に綿を回収し、測定前の綿重を引き出液量とした
2)放射温度計(GIS500、B社製)により中心から2~3葉目の日があたっている面を測定した
収量および良品率の向上
図に収量とL以上割合を示しました。カットドレーンやプラソイラによって排水対策を施工することで、無処理に比べて調製一本重が重く、L以上の割合も多くなり結果として可販収量が増加しました。
注)供試品種:所内「夏扇4号」、現地「森のめざめ」
成熟葉を3枚残し、全長58cmに調製した。
所内は2021~2023の平均値、現地は2021、2022の平均値
また、特に秋冬どりでは夏季高温時の腐敗性障害等で生育不良や欠株が多く出ることから、「夏越し」が重要になりますが、排水対策を施工した区では夏越し後の生存率も高くなりました(データ略)。
留意点
排水対策を施工する圃場の本暗渠の機能が低下している場合や、排水路の水位が常に高い圃場では、今回のような補助暗渠施工や心土破砕といった「排水対策」の効果が十分に得られない可能性があるので、圃場の選定には注意が必要です。
今後の取り組み
これまでの試験で、補助暗渠や心土破砕施工による排水性の向上効果を明らかにしました。しかし、粘質な水田転換畑の土壌は定植前の適正な砕土のための土壌水分の見極めが困難であり、土塊が大きく残ってしまうことがあり、活着や定植後の生育不良の一因となっています。また、夏季高温期に軟腐病等の腐敗性障害の発生対策も解決すべき課題として残っています。
水稲栽培では、農業用ドローンによる病害虫防除の普及が進んでいますが、ネギ栽培においては省力化技術として期待されているものの防除効果について不明な点が多いことから、定着までは至っていません。
そこで、2024年度から①最適な砕土率が得られる土壌水分の解明、②アッパーローター等による砕土率向上効果の検討、③夏季の土寄せおよび追肥と腐敗性障害発生の関係解明のための研究を行っています。さらに、ネギのべと病やシロイチモジヨトウ等の主要病害虫を対象に、普通作農家で導入が進んでいる農業用ドローンを活用した防除効果ならびに省力効果の検討も行う予定です。