①物質循環と農業
②肥料資源の有限性とリサイクル利用 ←現在の記事
③養分収支から見た輪作の必要性
④土の健康を守る有機物
⑤有機物の分解速度と養分供給量
⑥環境と調和した農業の実現に向けて
のテーマで、6回掲載の予定です。
肥料の資源量
肥料三要素のうち、窒素は生物的窒素固定があるのでマメ科作物や緑肥作物を導入することで補給できます。工業的につくられる窒素肥料も大気中の窒素ガス由来なので資源としては無尽蔵に存在します。しかし、アンモニア合成に必要な水素をつくるのに化石燃料が使われるため、その資源動向に影響されます。
リン酸肥料やカリ肥料は主にリン鉱石、カリ鉱石からつくられます。窒素以外は我が国にはない鉱物資源であり産出国も限られていて、このまま採掘を続けると可採可能な年数は約300年と試算されています。化石燃料と同様に有限な資源であるため、効率的な使用や再利用を図りながら採掘量を減らし、長く温存していく努力が農業の持続性につながります。
花咲か爺さんはなぜ灰をまいたか
農業本来の姿は、地域資源の循環利用にあります。植物に吸収された無機養分(ミネラル)は有機物と結合、あるいはイオンとなって植物の生育を支えています。
草木を燃やすとその後には必ず無機酸化物の灰が残ります。この灰の中にはリン酸やカリ、カルシュウム、マグネシウムなど、作物に必要な養分が含まれています。薪や炭を使っていた時代には毎日のように生活の中から灰が出てきたので、これを作物の根元にまいて肥料として再利用していました。
花咲か爺さんの民話は、このことが古くから語り継がれてきたことを示しています。
有機物資源のリサイクル利用
植物体を構成する生体構成元素(炭素、酸素、水素)や窒素などは、燃やすと大部分はガスとして大気中へ揮散してしまい、灰としては残りません。草木をはじめ有機物資源を堆肥化して利用すると、土壌中でゆっくり分解して窒素をはじめ作物に必要な無機養分を放出します。さらに、その分解過程では土壌の物理性の改善や土壌微生物の活性化、多様性を支えています。
堆肥化資材の中でも家畜排せつ物は、多くの肥料成分を含んでいます。我が国の家畜排せつ物発生量(2019年)からその中に含まれる肥料成分含量を推計すると、窒素65万t/年、リン酸82万t/年、カリ48万t/年となります。特にリン酸含量が高いのは栄養価の高い濃厚飼料の利用や採卵鶏でのカルシウムやリン酸の給与量が多いためと考えられます。
このように家畜排せつ物には、化学肥料生産量の1.5~2.0倍量の肥料成分が含まれています(図1)。これらは堆肥化され利用されてはいるものの、畜産廃棄物のリサイクル利用は避けては通れない重要な課題です。捨てればゴミ、使えば資源となります。
注:肥料成分量は家畜排せつ物発生量(農水省、2019)から算出
食飼料の輸入は肥料の輸入
世界的な食飼料の輸入国である我が国は、国内の農地の2.1倍に相当する913万㏊の面積から生産される農産物を消費しています(図2)。これらは、海外の土、水、物質を日本国内での物質循環に組み入れることができるかという大きな問題を提起しています。すなわち、それらを消費することにより、結果的には我が国に家畜排せつ物、生ゴミ、下水汚泥、食品残渣などの有機性廃棄物が残存することになります。ちなみに図1に見るように家畜排せつ物中には多量の肥料成分が含まれています。言い換えれば、食飼料の輸入は海外で施肥され、農作物が吸収した肥料成分を輸入していることに他なりません。
資料:農林水産省「食料需給表」「耕地および作付け面積統計」等をもとに農林水産省で試算
※輸入している畜産物の生産に必要な牧草・とうもろこし等の量を面積に換算したもの
注:1年1作を前提
これらの有機性廃棄物を農産物輸出国に送り返すことができない限り、それらに含まれる多くの肥料成分は我が国に蓄積し、土壌、水質、大気の汚染を引き起こす要因になります。農村から都市部へ農産物として送られた養分も何らかの形で戻すことができれば循環系はさらに完結します。
解決しなければならない課題も多く含まれますが、有機性廃棄物を資源として位置づけ、土づくり資材や肥料として再利用することが、持続可能な循環型農業をすすめるうえでの必要不可欠な養分管理技術といえます。