①物質循環と農業 ←現在の記事
②肥料資源の有限性とリサイクル利用
③養分収支から見た輪作の必要性
④土の健康を守る有機物
⑤有機物の分解速度と養分供給量
⑥環境と調和した農業の実現に向けて
のテーマで、6回掲載の予定です。
みどりの食料システム戦略
SDGsや環境に対する関心が国内外で高まる中、EUは2020年に「ファームtoフォーク戦略」として2030年までに化学農薬(50%)・肥料(20%)の削減に向けた意欲的な目標を打ち出しました。
我が国も成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、2050年までにグリーン社会の実装を目指して積極的に取り組んでいます。2021年5月、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するという「みどりの食料システム戦略」が策定されました。
その中で土壌肥料的な課題として、次の二つがあげられています。
●輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料を30%低減する
そのためには、地力維持等を考慮した輪作体系の構築、堆肥等の有用資源を活用した施肥体系の確立、土づくりの高度化に向けた生物性評価の確立、肥効調節型肥料の高度化などが挙げられています。
●有機農業の取り組み面積を全耕地の25%(100万ha)に拡大する
オーガニック市場を拡大しつつ、次世代有機農業に関する技術を確立するため、堆肥の高品質化、堆肥を用いた新たな肥料の生産、堆肥の広域循環システムの構築、さらには有機性廃棄物(食品残渣、汚泥など)の肥料化等を進めるとしています。
これらを実現するために、今やれること、これからできることを農の基本に立ち返って整理し、環境と調和した持続可能な農業のあり方を探ります。
生物圏における物質循環
●食物連鎖による養分の循環
地球の生物圏における物質循環は、生物が生活するために摂取した養分(元素)が生物圏の階層ごとに次から次へと利用され、再び最初の段階に戻るサイクルをいいます。養分の移動は、無機物を同化して有機物を生産する階層の生物:生産者(植物:独立栄養生物)と、自らは有機物を生産できず、生産者(植物)が生産した有機物を餌として生活する生物:消費者(動物:従属栄養生物)が担っています。
生産者の主体は光合成によって土から水と養分を吸収して有機物を生産する植物です。消費者は植物が生産した有機物を食べる一次消費者(草食動物)と一次消費者を餌とする二次消費者(肉食動物)、さらに高次の消費者(猛禽類など)へと階層を作り、このような食物連鎖を通して養分の移動が行われています(図1)。
植物や動物が栄養として摂取した養分は落葉、落枝や排せつ物あるいは遺体などの形で土に戻り、土壌微生物の働きによって無機化され、再び生産者である植物の栄養素となります。
すなわち、生物圏では「食うか、食われるか」の関係を通して養分の循環とエネルギーの移動が行われており、その基軸を分解者である土壌(土壌微生物)が担っています。
●物質(養分)循環の破綻と農業
100年ほど前まで、世界中の農業は物質循環を利用した農業が行われていました。近年、農業は大量生産、大量消費を効率よく実現するため自然の物質循環系に化学肥料、化学農薬などの化学物質を新たに加え、生産から消費へと一方向への物質移動型に変えてきました。その結果、地域資源を再利用する持続可能な循環型の農業から、常に新たな物質の投入と過剰な物質の除去を必要とする物質移動型の農業へと変わり、壮大な資源の浪費が生じるようになりました(図2)。
また、世界的な大量輸送システムは、物質の地域的な過剰蓄積と過剰消費を加速させ、循環型農業の実現を一層困難なものにしています。そのため、持続可能な農業生産を進めるにあたっては、可能な限り物質(養分)循環が成り立つような農法を選択することが喫緊の課題となります。