①物質循環と農業
②肥料資源の有限性とリサイクル利用
③養分収支から見た輪作の必要性
④土の健康を守る有機物 ←現在の記事
⑤有機物の分解速度と養分供給量
⑥環境と調和した農業の実現に向けて
のテーマで、6回掲載の予定です。
良い土とは
作物が旺盛に生育するには根の健全な働きが必要で、その環境が整っていなければなりません。その環境とは、土壌が持っている物理性、化学性、生物性のことで、良い土とはそれらが適正に管理されている土のことをいいます。
物理性が良い土とは土層や作土層の深さや柔らかさに加えて、「水はけが良くて水持ちが良い土」という相反する性質を持つ団粒構造の発達した土のことです。
化学性は作物に必要な養分を常に根の周りに用意できる「肥もちが良い土」をいいます。土壌粒子はマイナスに荷電されていて土壌水に溶けている陽イオンを電気的に吸着します。これを保肥力といい、その大きさは粘土含量と腐植含量によって決まります。
生物性は作物の生育に影響を与える土壌中の微生物や小動物の状態をいいます。一般的に良い土とは「生物の餌が多い土」のことで、餌となる有機物の多い土ほど土壌微生物の量と多様性が維持され、緩衝作用、静菌作用などが働き病害に強い生育を保証します(図1)。
有機物の施用効果
有機物の土壌還元は養分循環の視点から必要不可欠であると同時に「良い土」を持続的に維持するための土壌管理技術です。
●団粒構造の形成
一言でいうと、お米一粒一粒が集まって「おむすび」を作り、その「おむすび」が集まって構造体を作り上げたような土といえます。
土壌に投入された有機物は土壌微生物によって分解され、その中間分解物などが粘土粒子同士を結び付ける「糊」の役割を果たします。「おむすび」と「おむすび」の間の大きな隙間は水や空気を通しやすく、「おむすび」の中の小さな隙間は毛管作用によってしっかり水を溜めておくことができます。
土壌の物理性を健全に維持するうえでの重要な管理技術です。
●養分の供給
堆肥などの有機物は作物にとって必要な養分や微量要素を含んでいます。土壌に供給されると肥料養分となるとともに土壌微生物の餌(生活エネルギー)になります。
このため、微生物が活性化して有機物の分解が加速され、多くの養分は作物に利用可能な無機態にまで変化します。また、水溶性の有機物であるフルボ酸は土壌鉱物中の微量要素を溶解する働きがあります。
●緩衝能の増大
土壌粒子はマイナスの荷電を持ち陽イオンの肥料養分を吸着しますが、堆肥や腐植などの有機物も多くのマイナス荷電を持っています。これにより、電気的な緩衝作用が働き、土壌のpHを安定的に保つとともに保肥力が高まります。
また、有機物があるとリン酸の固定を防止して肥効を高める効果もあります。
炭素循環・炭素貯留
2016年パリ協定が発効し、地球の温暖化対策に世界が一丸となって取り組んでいます。土壌は地球規模での炭素循環、炭素貯留に多大な役割を果たしており、土層1m間に約2兆tの炭素を土壌有機物の形態で保持しています。これは大気中の炭素の2倍量、植物体バイオマスの4倍量に相当し、その増減は地球の温暖化に大きく影響を及ぼします。
●土壌の炭素収支
植物は光合成により大気中の二酸化炭素を固定して成長します。この植物体が土壌中へすき込まれると有機物中の炭素は微生物によって分解され、二酸化炭素として再び大気中に放出されますが、一部は難分解性の腐植として土壌中に長期間貯蔵されます。
堆肥や緑肥作物、木炭などの施用は炭素貯留の効果を高めます。農地を健全に維持するための行為が地球の温暖化対策につながっているのです。農地のもつ多面的機能の1つです(図2)。
●温室効果ガス削減への貢献
人間が森林を切り開き農耕を始めて以来、およそ1万年の間に失われた有機炭素量は600億tと推計されています。
土壌への有機物還元は「フォーパーミル・イニシアティブ」(土壌炭素を毎年0.4%ずつ増加させれば、人間活動によって増加する炭素量をゼロにできるという国際的な取り組み)にも貢献しています。
月刊農業いばらき2022年8月号から再掲載