①物質循環と農業
②肥料資源の有限性とリサイクル利用
③養分収支から見た輪作の必要性
④土の健康を守る有機物
⑤有機物の分解速度と養分供給量 ←現在の記事
⑥環境と調和した農業の実現に向けて
のテーマで、6回掲載の予定です。
有機物中の窒素と炭素の分解速度
一口に有機物といっても、有機質肥料として販売されている油かすや骨粉、ワラや山野草を堆積したもの、畜産廃棄物や生ごみを原料にしたもの、せん定枝や樹皮などさまざまです。
土壌に投入された有機物は、土壌微生物の働きにより最終的には無機化され、作物に利用可能な養分になります。
●窒素の無機化
土壌中での窒素の無機化速度は有機物中の全炭素と全窒素の比率、すなわち炭素率(C/N比)でほぼ決まります。炭素率が10より小さい場合は炭素より窒素の無機化率が大きく、炭素率が10付近であれば炭素と窒素の無機化率はほぼ同じになります。10より大きくなると両者の無機化率の差が大きくなり、60以上になると有機物自体が周辺土壌より窒素を取り込み、100、200ではその取り込みが何年も続きます(窒素飢餓)。
●炭素の無機化
また、炭素の無機化率からみた有機物の分解速度は、炭素率とは関係なく初期の有機物に含まれるリグニン含量に支配されます。リグニン含量の少ないワラ類は分解が速く、木質類はセルロース、ヘミセルロースが多くリグニン含量も多いので分解は抑えられます。
各種堆肥の成分含量
ひとつの目安として、茨城県内で流通している各種堆肥(合計161点)の成分含量の平均値を1960年代に県内で自家生産されていた堆きゅう肥(105点の平均)と比較して示します(図)。
堆肥中の成分が栽培期間中にすべて無機化して化学肥料と同等の効果を現すとは限りませんが、畜種により差こそあれ現在使用されている堆肥がいかに多量の肥料成分を含んでいるかがわかります。家畜排せつ物法(1999年)が施行され、雨にあたらない状態で堆積するようになり、家畜ふん尿や副資材の成分がそのまま残存した形で堆肥化されるためです。
●投入成分量を化成肥料に換算すると
1960年代の堆きゅう肥は雨ざらしで堆積され、易分解性の成分は雨によって流され炭素率が高く低成分でした。堆肥1tに含まれる成分含量は高度化成(20kg袋)に換算すると1〜2袋程度です。現在流通している畜ふん堆肥は、1tの施用で牛ふん堆肥では高度化成4袋、豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥の場合は6〜10袋施用したことになります。とくに突出している鶏ふん堆肥に含まれる石灰含量は、炭カル6袋分に相当します。畜ふん堆肥は多くの肥料成分を含有しているので、利用にあたっては過剰投入にならないよう十分注意する必要があります。
堆肥の肥効率から見た適正施用量
●肥効率とは
肥効率とは化学肥料の利用率(当該作物による回収率)を100%とした場合の、堆肥に含まれる成分量の回収率の割合をいいます。化学肥料と同等ならば肥効率100%、化学肥料の半分であれば50%となります。
堆肥の全窒素含有率と肥効率との間には相関があるので、窒素の肥効率は窒素含有率によってほぼ区分できます。リン酸とカリについては堆肥の種類や窒素含有率とは無関係に肥効率は80〜90%であるため、堆肥中のほぼ100%に近い量が化学肥料と同等の効果を示します(表)。
堆肥の種類 | 堆肥の窒素含有率 (現物当たり(%)) |
肥効率(%) | ||
---|---|---|---|---|
窒素 | リン酸 | カリ | ||
鶏ふん堆肥 | 0 ~ 1.6 | 20 | 80 | 90 |
1.6 ~ 3.2 | 50 | 80 | 90 | |
3.2以上 | 60 | 80 | 90 | |
豚ぷん堆肥 牛ふん堆肥 |
0 ~ 1 | 10 | 80 | 90 |
1 ~ 2 | 30 | 80 | 90 | |
2以上 | 40 | 80 | 90 |
注:水分は鶏ふん堆肥で20%、豚ぷん・牛ふん堆肥で50%とした
●肥料代替の新しい考え方
作物の生育に関しては窒素が目に見える形で生育量を左右するので、堆肥で化学肥料を代替する場合には窒素成分を基準に施用します。しかし、窒素の肥効率から堆肥の施用量を算出するとリン酸やカリが多投入になり、土壌中には過剰の可給態リン酸、交換性カリが蓄積するようになります。
そのため、堆肥の投入量はリン酸やカリ含量から代替量を算出し、不足する窒素量を化学肥料で補う新しい施肥法が提案されています(平成27年度普及に移す成果)。
月刊農業いばらき2022年10月号から再掲載