栽培面積 | 収穫量 | 産出額 | ||||
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全国 順位 |
県名 | 栽培面積 (ha) |
県名 | 収穫量 (t) |
県名 | 産出額 (億円) |
第1位 | 茨城県 | 3,330 | 茨城県 | 2,790 | 茨城県 | 17.0 |
第2位 | 熊本県 | 2,450 | 熊本県 | 2,430 | 熊本県 | 16.3 |
第3位 | 愛媛県 | 2,070 | 愛媛県 | 1,540 | 愛媛県 | 10.5 |
第4位 | 宮崎県 | 745 | 岐阜県 | 814 | 岐阜県 | 4.7 |
第5位 | 山口県 | 689 | 長野県 | 583 | 長野県 | 4.7 |
「農林水産省果樹生産出荷統計、農林水産省農業生産所得統計」より
国産クリは収穫後、すぐに加工できることで風味に優れるペーストが作れ、さらに、ケーキ「モンブラン」のブームもあり、加工業者の引き合いが強くなっています。
しかし、日本一のクリ産地である茨城県でも、担い手の高齢化と減少、樹の高樹齢化が進んでいることから栽培面積と収穫量は年々減少しており、産地の将来が危惧されています。
そこで、将来を見据えたクリ産業の新たな局面を拓くための契機とするべく、全国の生産者をはじめ、加工・販売・流通関係者、苗木生産者、県・市町村関係者、農協関係者等が一堂に会した「第31回全国クリ研究協議会」を、令和4年7月26~27日、つくば国際会議場およびかすみがうら市の現地で開催しました(写真1・2)。
大会の主催は、第31回全国クリ研究協議会茨城県大会実行委員会(委員長:茨城県くり生産者連絡協議会 会長 故川上好孝)、全国果樹研究連合会。大会テーマを、「新しい時代への多様化するクリの生産と販売」としました。
記念講演として、クリ品種の育成に取り組んでいる農研機構の研究者から、事例発表として、県内でクリの生産、加工・販売に取り組む産地や企業等から、それぞれの取組について報告がありました。今回は、その内容について紹介します。
記念講演「クリ産業の展望と課題」
農研機構 果樹茶業研究部門 落葉果樹品種育成グループ長 髙田 教臣 氏
国内のクリの収穫量と結果樹面積は、ここ30年以上減少傾向が続いており、国内収穫量はピーク時の約3割まで減少しています。
この原因の一つとして、輸入クリの増加が挙げられてきましたが、この10年で輸入量も半分程度まで減少していることから、国内の消費量が減っているという現状が見て取れます。
モンブランなどの加工品は人気がある一方、むいて食べることは敬遠される傾向があるため、食べやすさを追及することで消費量は増えると思います。
このことは品種別の栽培面積にも現れており、この10年で「丹沢」「銀寄」「筑波」「石鎚」といった主力品種の栽培面積が約3割の大幅減となっている一方で、渋皮がむきやすい「ぽろたん」や食味に優れる「利平栗」等、消費者ニーズが強く高単価での販売が期待できる品種は一定の栽培面積を維持できています。経営の安定を図るためには、こういった品種を積極的に導入することが重要と考えられます。
そのため、農研機構では、現在渋皮のむきやすさと良食味を重点的な育種目標として新品種育成を行っています。今後育成される新品種への改植が進むことで生産性の向上にもつながり、将来的には国内クリ生産が減少から増加に転じることを期待しています。
また、農林水産省が令和3年5月に策定した「みどりの食糧システム戦略」では、2050年までに化学農薬使用量を50%に低減する目標が掲げられておりますが、クリは他の果樹に比べて化学農薬の使用量が少なく、有機栽培への転換も比較的容易と思われますので、クリ生産が脚光を浴びる可能性があると思います。
生産者、市、研究所、企業の取り組み
①GI認証による「飯沼栗」の生産販売
下飯沼栗生産販売組合 東ヶ崎 直人 氏
当組合(茨城町)では一般的なクリとは異なり、一つの毬(いが)に大きく丸い実が1個入る「1毬1果」が特徴となる「飯沼栗」を独自の栽培技術により生産しています。
また、栽培技術だけでなく、全果洗浄、3重の選別選果、冷蔵処理による糖含量向上等、徹底した品質管理を行うことで、箱の中身は100%ロスがない出荷を実現し、市場から高い評価を得ています。
②日本一の栗産地を目指して
笠間市産業経済部農政課 栗ブランド戦略室 室長 藤咲 篤 氏
笠間市は、栽培面積が全国1位を誇るクリ産地ですが、小規模生産者が多いことから品質にばらつきがあり、市を象徴するクリ商品もなく、全国的な知名度は低い状況にありました。そこで、平成28年から、日本一長い期間、クリを提供できる「日本一のクリ産地」を目指して、生産支援・消費振興・ブランド化の取組を始めました。
これまでの取組の結果、モンブラン等のクリ商品が売り切れるほど「笠間の栗」の知名度は上がっています。
一方で、笠間市は全国に向けた原料の産地となっており、菓子の原料となるペーストや渋皮煮が市内で不足する状況となりました。
市内で生産されたクリが「笠間の栗」として消費者に届くよう、令和4年に市、JR東日本、JA常陸の共同出資による加工施設「笠間栗ファクトリー」を設立し、生産から加工、販売までを市内で完結できる体制を整備しました。
今後は、「笠間の栗」のブランド化を確立・強化し、生産者のみならず加工・販売に係るすべての人の所得向上を目指していきます。
③持続可能なクリの契約栽培への取組み
株式会社ニチノウ 専務取締役 関 宏世 氏
これまで茨城県は、クリの大産地でありながら大規模に加工できる工場がなく、卸売会社が生産者からクリを集荷し、県外の加工会社に販売する流通形態となっていました。
そこで、当社の親会社である㈱せきでは、県内でクリのペースト加工を開始しました。これにより輸送コストの削減分を生産者との契約単価に還元し、生産者の収入確保につながっています。取扱量は平成29年当初の70tから令和3年は300tに増加しており、県産和栗ペーストの需要は伸びています。
今後は、耕作放棄地での栽培や後継者のいないクリ園を借り受けるなど、自社農場でのブランド価値向上の研究にも取り組んでいきます。
④茨城県におけるクリ栽培省力化研究の取組み
茨城県農業総合センター園芸研究所 果樹研究室 技師 山口 貴史 氏
本県のクリ栽培は、かつては十分な栽培管理が行われず、収穫量や品質が低い園も多くみられ、また、担い手の高齢化や後継者不足が進み、女性や新規参入者など栽培経験が浅い人でも取り組める簡易な省力安定栽培技術が求められていました。
そこで、当研究所では、労働負担と労働時間を削減でき、安定した収量が得られる「超低樹高密植並木植え栽培技術」を平成14年に開発し、普及に移しています。
かすみがうら市での現地視察
●志士庫園芸農業協同組合 圓城寺 和義 氏 クリ園
栽培品種は「国見」「大峰」「石鎚」「ぽろたん」等10品種、栽培面積100a、反収150kg(写真3)。
平成25年からカットバックせん定を行い、徐々に低樹高化を図り、結果母枝数を制限することで大果生産につなげています。
高樹齢で樹勢が低下している園地は、品種の切り替えや更新を行い、生産性・品質向上に努めています。
選別にあたっては、1回目の選別を入念に行い、さらに仕上げの選別を実施することで、「志士庫栗」ブランドにふさわしいクリを出荷しています。
●JA水郷つくば千代田栗選果場
選果場を利用しているJA水郷つくば栗部会員は205名、栽培面積は126ha、令和3年産の出荷量は170t。
販売先は、市場出荷が6割、加工業者・直売が4割となっています(写真4)。
部会員はコンテナで持ち込み、選果場ラインで選別後、箱詰めして出荷しています(図)。
また、機械メーカーによるクリの「小型鬼皮むき機」の展示と実演も行われました(写真5)。
本大会ではクリ産業に携わる関係者169名が参加し、記念講演、事例発表、情報交換会、現地視察を通して活発な情報交換や意見交換が行われ、大会では今後のクリ産業発展に向けて「持続的な生産」「魅力ある経営」「需要拡大」「ブランド力強化」に取り組んでいくことを全会一致で決議し、たいへん盛況のうちに閉会することができました。
大会運営にあたりましては、関係各位の皆様には格別のご支援・ご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。