茨城県を含む果樹産地の多くは温暖湿潤気候に属しており、比較的降水量が多く、果樹の生育に必要な水量をおおむね降雨によって確保しています。しかし、降雨の時期的な偏りによる一時的な干ばつは頻繁に生じており、潜在的に樹体に悪影響を及ぼしている可能性があります。
ここでは、果樹園に降る雨の量や頻度と果樹園から出て行く水の量に着目して、ここ数年間の気象の特徴と潅水の必要性について述べます。
作物に利用される水と利用されない水
果樹園における、水の出入りを(図)に示しました。
果樹園から出て行く水としては、「浸透水量」「土壌面蒸発量」「蒸散量」があります。1回の「降水量」のうち、「易有効水分量」を上回る水は「浸透水量」として地下へ浸透し、作物に利用されません。同様に、「土壌面蒸発量」も作物に利用されない水です。
「蒸散量」と「土壌面蒸発量」を併せて「蒸発散量」といいます。これは、1日当たりでは夏季で4~5mm、春または秋季で2~3mm程度、生育期間全体では500mm程度になります。
過去5年間の連続干天と樹園地の蒸発散量
「易有効水分量(30mm)」を「蒸発散量(1日当たり2~5mm)」で割ると、土壌に保たれた水が消費される日数(6~15日)が分かります。実際の蒸発散量は環境条件によって変化するので一概にはいえませんが、単純計算すると、蒸発散量の多い夏季には最短で6日間降雨がないと「易有効水分量」が消費され干ばつ害を被る可能性があります。
平成30年~令和4年において、県央地域(アメダス観測地点:美野里)の生育期に連続した干天(日降水量が5mm未満)日数の月別の最長値を表に示しました。蒸発散量の多い7~9月の連続干天日数は平均で14日、最長で30日でした。
このようにみると、生育の盛んな時期に水分が不足する可能性が高い状態が続いていることが分かります。
平成30年 | 令和1年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | |
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4月 | 14 | 11 | 7 | 10 | 9 |
5月 | 9 | 19 | 9 | 16 | 7 |
6月 | 12 | 8 | 13 | 10 | 5 |
7月 | 16 | 9 | 4 | 2 | 30 |
8月 | 15 | 22 | 16 | 26 | 13 |
9月 | 4 | 17 | 19 | 12 | 5 |
10月 | 11 | 10 | 11 | 11 | 11 |
注意1)日降水量5mm未満の日を干天とした
注意2)日降水量は、気象庁アメダスデータ(地点:美野里)に基づく
注意3)月をまたぐ干天の連続日数は、連続が終了した月に記した
干ばつ対策は潅水とワラで蒸発を抑えるのも有効
干ばつ害の対策として、最も有効な方法は潅水です。潅水のタイミングと潅水量の目安としては、蒸発散量が多くなる夏季に晴天が1週間以上続いたとき、20mm~30mm(10a当たり2万~3万ℓ)です。棚栽培の場合、吊り下げ式のスプリンクラーや潅水チューブを設置しておくと、除草や薬剤散布作業の邪魔にならず、潅水が効率的に行えます。
また、果樹園の場合、土壌面蒸発量が蒸発散量の50~70%程度を占めており、土壌表面からの水の損失が大きいことが分かっています。ワラなどで土壌表面を被覆し、蒸発を抑える方法はとても有効です。
また、草生栽培の場合は、除草すると草の蒸散による損失を少なくすることができるため、土壌に保たれた水を有効に使うことができます。
これらの対策により、果樹の干ばつ害を防ぎましょう。