大子町は県内有数の観光・直売のリンゴ産地であり、大子町で生産されたリンゴは「奥久慈りんご」(大子町で生産されたリンゴの通称)として消費者に認知されています。
JA常陸大子町りんご部会(部会員数:40名、産地面積:53ha)では、主力品種の「ふじ」を中心に、オリジナル品種「奥久慈宝紅 」(写真1)や蜜入りの多い「こうとく」等、特色ある品種を揃え、高品質安定生産と組織的なPRを行っています。また、近年はスマート農業や新わい化(高密植低樹高・※1)栽培を積極的に導入する等、常に新しいことに挑戦しています。
(※1)新わい化(高密植低樹高)栽培:樹体が既存の栽培方法と比較してコンパクトかつ単純なため、①早期収穫、②単位面積あたりの収量増加、③作業効率の向上等の効果が期待される栽培方法。
高品質安定生産と生産性向上
部会では摘果、せん定等の講習会や立毛巡回、果実品評会を開催し、部会員の技術力向上に努めています(写真2・3)。また、近年は生産性向上のため新技術を積極的に導入しています。具体的には、早期成園化と収量向上を目指す新わい化栽培やロボット草刈機の導入です(写真4・5)。ロボット草刈機を導入した経営体では、除草作業を無人化・省力化することで、10aあたり年間20時間を要していた除草作業が1時間となり、収益に直結する摘果作業等に注力することが可能となりました。
こうした優良事例が部会員に浸透したことで、令和5年度以降にロボット草刈機を導入意向の部会員は10名を超えており、今後のさらなる普及が見込まれます。
希少品種を活かした「奥久慈りんご」のブランド力向上
部会では「奥久慈宝紅 」や「こうとく」の特徴を活かした「奥久慈りんご」のブランド力向上に取り組んでいます。
●部会オリジナル品種「奥久慈宝紅」の生産拡大とPR
「奥久慈宝紅」は「こうとく」の実生から選抜したものであり、果汁が多くパリパリとした食感で良食味の赤系品種です。10月中旬~下旬頃収穫できるため、11月の「ふじ」販売前に誘客できる品種として期待されています。
部会では「奥久慈宝紅」を看板品種の1つに位置付け、①平成26年から部会員への穂木や苗木の提供による生産拡大、②講習会や目揃会開催による生産技術の確立(写真6)、③メディアや産地パンフレットを活用したPRを行っています。こうした取組みにより令和4年度時点で、部会員の9割以上が「奥久慈宝紅」を導入し、6割以上が販売を開始しています。
●高級果実専門店での「こうとく」販売
「こうとく」は果重が200g程度で小玉ですが、蜜が多く芳香が特徴的な赤系品種で(写真7)、収穫期は10月中旬~11月上旬頃です。栽培が難しく、希少な品種であることから「幻のりんご」とも言われています。
後継者で組織されるJA常陸大子町りんご青年部(9名)では、令和2年度から高級果実専門店に厳選した「こうとく」100玉を出荷しています(写真8)。青年部の厳しい目で選果した「こうとく」は1玉1,080円で販売され、店舗によっては販売開始直後に完売する等、高い評価が生産者の自信にもつながっています(写真9)。また、本取組み内容は、高単価販売事例としてポスターやSNS等で大子町内外へ情報発信することで、「奥久慈りんご」のブランド力向上を図っています。
●魅力的な加工品の開発、販売(6次産業化)の取組み
観光客のお土産需要対応や周年での収益確保などのため、多くの経営体で6次産業化に取り組んでいます。アップルパイやリンゴジャム、ジュースをはじめ、リンゴを丸ごと1個使ったバウムクーヘン等、「奥久慈りんご」をたっぷり使用した特徴的な商品が開発、販売されています(写真10)。これらの加工品は各園の直売所や「道の駅 奥久慈だいご」のほか、町内のレストラン等で提供されています。
また、近年は赤果肉リンゴ(果肉が赤くなることから注目されている・写真11)を使用した商品や大子町産の茶葉とリンゴを組み合わせた紅茶の開発が行われており、消費者を惹きつける魅力的な商品が続々と誕生しています。
今後も、消費者に支持されるオンリーワンのリンゴ産地を目指した部会の挑戦は続きます。