病害虫の多発生は、その年だけでなく、園内で越冬する病害虫が増えるため、翌年にも影響する可能性があります。翌年の病害虫の発生を抑制するためには、収穫後から次作までに圃場内で越冬する病害虫の密度を下げることが重要です。
今回は、主要病害虫の越冬の特徴と、これらの越冬時期の防除対策を紹介します。
黒星病
秋季に葉裏に、うすい黒色の病斑(秋型病斑:写真1)を生じます。10~11月の降雨時には、芽りん片への感染が盛んになり、翌年の伝染源となります。
また、秋型病斑を生じた落葉には、子のう胞子が形成されて伝染源となります。次の防除を徹底しましょう。
●秋季防除
収穫直後から10月にかけて殺菌剤(オキシラン水和剤等)の散布を15~30日間隔で2~3回、必ず行いましょう。なお、長雨が続く場合は、落葉前までしっかり防除を行ってください。薬剤散布量は、300ℓ/10aを目安に十分な量を丁寧に散布し、かけむらのないように努めましょう。徒長枝に薬液が十分かかるように散布することが極めて重要です。
●落葉処理
伝染源を減らすために、落葉を集め、適切に処分しましょう。この作業は労力がかかりますが、高い防除効果が期待できます。
より簡易な方法として、ロータリー耕等を行い、落葉を土中にすき込むことも有効です。
カイガラムシ類
ナシを加害する主なカイガラムシ類(写真2)は、コナカイガラムシ類(クワコナカイガラムシ、マツモトコナカイガラムシ、フジコナカイガラムシ)、ナシマルカイガラムシ等があります。各カイガラムシの越冬の特徴を表にまとめました。
コナカイガラムシ類の主な越冬場所は、枝や幹の粗皮の間や誘引ひもの中や下です。越冬態は種によって異なります。ナシマルカイガラムシの主な越冬場所は枝や幹です。寄生した場所にロウ物質のカイガラを形成し、その下に主に幼虫の形態で越冬します。越冬時期の防除法は種によって異なるので、表を参考に対策を選んでください。
種類 | コナカイガラムシ類 | ナシマルカイガラムシ |
---|---|---|
主な越冬場所 | ・枝や幹の粗皮の間 ・誘引ひもの中や下 |
・枝や幹に形成された カイガラの下 |
越冬態 | ・卵(クワコナカイガラムシ) ・幼虫(マツモトコナカイガラムシ、 フジコナカイガラムシ) |
幼虫(一部、雌成虫) |
有効な休眠期の防除対策 | ・バンド捕殺 ・粗皮削り ・誘引ひもの更新 ・マシン油乳剤の散布 |
・虫体のこすり落とし ・寄生枝の切除 ・マシン油乳剤の散布 |
●バンド捕殺
9月中~下旬までに主枝等に誘引バンド(紙製の米袋や布袋等)を巻き、冬季(12~2月)に取り外して、バンド内に潜り込んだ幼虫や卵のうを処分してください。
●粗皮削り、誘引ひもの更新
冬季に粗皮削りや誘引ひもの更新を行うことで枝や幹の粗皮、ひもの中や下に潜む幼虫や卵を除去できます。
●マシン油乳剤の散布
カイガラムシ類が多発生した圃場では、粗皮削りした後、12月または3月の発芽前にマシン油乳剤(機械油乳剤95 等)を散布しましょう。
【注意点】マシン油乳剤は、厳寒期の散布は避けてください。薬害を生じる可能性があるため、3月の発芽前にマシン油乳剤を散布した場合は、石灰硫黄合剤は使用しないでください。
●虫体のこすり落とし、寄生枝の切除
せん定作業時にナシマルカイガラムシの虫体を見つけたら、たわし等でこすり落とします。また、寄生が多い枝は切除しましょう。
ハダニ類
ナシに被害を与える主なハダニ類(写真3)は、カンザワハダニおよびナミハダニです。
休眠性の雌成虫が主に枝や幹の粗皮の間や圃場内外の下草で越冬します。ハダニ類の越冬時期の防除法は、①バンド捕殺、②粗皮削り、誘引ひもの更新、③マシン油乳剤の散布があり、カイガラムシ類の対策と同様に行います。
今回紹介した防除法は、各病害虫に対して大きな効果が期待できます。圃場内の伝染源や越冬虫(卵)を減らすことが来年の病害虫発生の抑制につながるので、収穫後の防除に取り組みましょう。
農薬使用時の注意
記事の作成にあたっては、農薬使用基準の内容について細心の注意をはらっていますが、農薬を使用する方は必ず、使用する前にはラベルを見て、対象作物、希釈倍数や使用量、使用時期、使用回数等を確認し、農薬の誤った使用を行わないようにしてください。