今回は、既存品種から「恵水」に改植するため、早期成園化技術である樹体ジョイント仕立てをいち早く導入し、経営向上に取り組む現地事例を紹介します。
高樹齢園からの改植
八千代町 草間勝美さんの事例
八千代町の草間勝美さん(写真1)は、主力品種「幸水」を中心にナシ約200aを栽培しています。一部の園で樹が古くなり収量が低下してきたため、約40年生の畑34aを「幸水」から高単価・高収量が見込まれる「恵水」に改植することにしました(写真2)。
改植に伴う収益の減少をいち早く回復するため、新しく樹体ジョイント仕立てを導入し、令和元年より改植を開始しました(写真3)。
樹体ジョイント仕立てによる早期収量確保
ナシの樹体ジョイント仕立ては、神奈川県が開発した苗木を列状に密植して先端部を隣の樹に接木し連結する栽培技術です。密植することで、通常より早く成園並みの収量が確保でき、列植により作業性向上も期待できます。
主要品種「幸水」で確立した栽培技術ですが、園芸研究所の試験により「恵水」においても適用性が高く、早期多収に有効であることが明らかにされました(令和元年度普及に移す成果)。草間さんは、県内でもいち早く「恵水」で技術導入した生産者の一人で、この圃場は、農業総合センターや普及センター、茨城県梨組合連合会が連携して設置した現地モデル実証圃場となっています。
計画的な改植で、収益・作業労力の平準化を図る
改植園でジョイント仕立てを導入する場合、①減少する収益の早期回復、②改植に伴う作業労力の確保、③既存設備を利用した圃場設計、④ジョイント用大苗の確保がポイントになります。
草間さんの園では、34aの畑を3年間かけて計画的に伐根・定植を進めることで、急激な収益の落ち込みを抑え、苗木育成や若木管理作業などの作業分散を図りました。時間のかかる伐根・定植作業は、「恵水」以外の県内ジョイント仕立て先進導入事例における効率的な作業方法を参考にしました(写真4)。圃場栽植設計にあたっては、改植前に既存の支柱間隔を計測し、防除機械・運搬車の幅など作業性を綿密に考慮して、苗木の定植間隔を設定しました。ジョイント用の大苗は、新たに専用の育苗施設を準備し、毎年200本のポット苗を作りました(写真5)。
ジョイント仕立てによる「恵水」栽培特性と栽培上の工夫
「恵水」は、「幸水」より樹勢が強く、主枝基部付近の側枝が太りやすいため、せん定時に確保する側枝の位置や太さに注意するとともに春先の芽かきを行い、強すぎる側枝や新梢を置かないようしています(写真6)。
また、「恵水」は主枝先端部の芽が短果枝化し、側枝の確保が難しい場合があるため、せん定や新梢管理で主枝基部の勢いを抑えるとともに、植調剤なども利用して先端部の新梢発生を促しています(写真7)。
直線樹形による管理作業の省力化
ジョイント仕立ては直線的な樹形のため、管理作業を一方向で行うことができ、この園では受粉や摘果、せん定などの作業時間は1~3割削減されました(写真8)。一方で、密植のため新梢発生が多く新梢管理に時間がかかること、株元の草刈作業に時間がかかること、収量増加分の作業時間は必要なことに注意が必要です(写真9)。また、接ぎ木部分の結束バンドは、年2回程度緩める必要があります。
定植から4年目、着実に収量増加~成園化まであと一歩~
草間さんの丁寧な管理により生育は順調で、令和元年に定植した16aでは、昨年、定植3年目から収穫が始まりました。今年の収量は10a換算1.9tとなり、令和7年には成園収量である10a換算4.5tを確保する見込みです。また、令和7年には園全体の単年度収益が改植前を上回る見込みで、「恵水」ジョイント仕立てによる改植優良事例となっています。
草間さんは、この園の改植が順調に進んでいることで、今後、他の古い園についても新技術等も利用しながら計画的に改植を進め、経営全体のさらなる生産性向上を図る予定です。