中国国内における火傷病の発生により、令和5年に中国産ナシ花粉の輸入が停止されました。JAやさと梨部会(部会員42名)では、約9割の生産者が中国産花粉を使用しており、令和6年産ナシ生産に必要な花粉量の不足と、それに伴う生産量の減少が懸念されました。
そこで、令和6年においても部会員が安定したナシ生産を継続するために、部会としてできることを行うとともに、生産者各々が工夫して花粉確保に取り組みました。
JAやさと梨部会の取組
●花粉採取方法の周知
輸入花粉を購入することができなくなったため、花粉を自家採取しなければなりません。そこで、部会の指導部や普及センターでは、花粉の品種適応性や採取方法の説明および実演を交えた有機溶媒(ヘキサン等)を用いた花粉精選方法の講習を行いました。
●花蕾採取の実際
これまで輸入花粉を使用していたため、既存の受粉樹だけでは必要量の花粉を確保できない可能性がありました。そのため、受粉用品種に加え、ナシの中でも早期に開花する「豊水」「あきづき」といった食用品種についても、ナシの果実生産には不要な長果枝の先端や使用しない短果枝等から花蕾を集め、必要量の花粉確保に努めました。
春先は、天候不順が見られることが多く、花蕾採取の作業時間が限定されるため、いかに効率的に作業を行うかがポイントになります。部会員の一部では、機械で花蕾を叩き落とす「花蕾採取機」や(写真1)、高所作業車の利用による作業時間を短縮する工夫が見られました。

●開葯に必要な機器の共同活用
花蕾から葯を採取し、一定温度で加温することで葯を開かせ、粗花粉を採取します。
これまでも、部会員の一部では、開葯に必要な機器を数名で共有し活用していました。
今回、中国産花粉の輸入停止措置の対策を検討する中で、令和6年春、部会独自に採
葯機、葯精選機、開葯機を導入し(各班1台、合計9台)、共同で使用することとなり
ました(写真2)。

●受粉方法の工夫
近年、2月以降の気温が平年より高くなる日が多く、開花が早まることで、開花期に低温に遭遇する確率が高まっていることが問題となっています。当梨部会では、約5年前からスピードスプレイヤー(SS)を活用した受粉による省力化に取り組み始めました。SSを使用することで、受粉に適した時間帯に集中して短時間で広範囲に受粉ができます。当部会では、SS受粉で使用する花粉噴射機(写真3)を2台導入し、共同利用しています。

令和6年には、花粉を十分に自家採取できない生産者もおり、利用は減少しましたが、SS受粉における10a当たりの使用純花粉量は通常の人工受粉で使用する量とほぼ変わりません。必要量の花粉が確保できれば、受粉作業の省力化としてさらなる活用が期待されます。
令和6年度の花粉確保状況
普及センターでは、部会員に対し花粉採取状況や受粉方法のアンケートを実施しました。その結果、部会全体の花粉採取量(純花粉換算)は推計で1,420g(10aあたり約4g)でした。10a当たり10~20gの純花粉が必要といわれており、今年度は十分な量を確保できたとはいえませんが、従来は約30g採取していた部会員が今年は約60g確保するなど、輸入花粉に頼らない体制を取るよう努力を進めているところです。
また、アンケート回答者(19名)のうち84%が花粉の自家採取を行い、人工受粉を実施しました。また、人工受粉を行わなかった生産者もミツバチ導入による受粉を行いました。
令和6年は、開花期以降の好天にも恵まれ、7月に行った圃場巡回では、どの圃場も着果良好であることが確認できています。
今後の課題
部会員の中から、花粉採取の方法が十分には分からない、早期に花粉を確保するための受粉樹の準備が必要という声も聞かれました。花粉採取は適期が限られる中、いかに効率よく行うかがポイントとなってきます。
受粉樹の確保に加え、花蕾採取時期の前進化、機械利用による省力的な花蕾採取、作業者の確保等について、来作に向けて改めて考える必要があります。
注)茨城県における「ナシ等の花粉確保・結実安定に向け想定される対応策」は、こちらをご覧ください